女神の巫女は怒りに我を忘れる
ギリギリになってしまいました……スミマセン。
またも短めですが楽しんでいただけたらうれしいです!
くわっと開かれた大きな口から出ている大きな二本の牙がギラリと光ったように見えた。
《神具を新たに作るために必要で、ここ、地神殿で求めるものはアタクシのこの、牙よ》
牙、獣………何かが引っかかってる。けど、なんだ?
「そうか、あれは地虎と、剣は牙のことか!」
ティナの呟きにあたしも思わずあっと声を上げてしまった。
地神殿の紋章は、獣の横顔に交差する二本の剣。
歌にも、獣と剣が出てくる。
『西の荒野で交わる剣
やがて獣は地にひそみ
光訪れ 時を待つ』
つーことは、だ。
「紋章と歌にあった獣と剣、それが」
「神具を作るのに必要なものを示しているなら」
「地虎の牙は二本必要になる?」
答え合わせをするようなあたしとティナ。
紋章の獣に牙は描かれていない。その代わりなのか、剣が二本。
歌にある交わる剣、確かな数字はないけど一本じゃあない。
《その通りよ。思ったよりは賢いようねぇ》
こいつ、いちいち腹立つ言い方するよな。
《あらやだ、二人とも。そんな怖い顔でアタクシを睨まないでちょうだいな》
「………」
ちら、とティナを見上げると何とも言えない顔をしていた。旅の途中で苦菜を間違えて食べたときとおんなじ顔だ。
「お前の牙が必要なのはわかった。ならどうすればいい?」
どう?
「牙をくれ、と言ったら大人しくくれるのか?」
《無粋ねぇ。そんなお願いじゃあお断りするわ》
「だと思ったよ。なら、どうすればいい?」
《あら、力づくで奪ってみたらいいんじゃないかしら?》
飾りなのかしら、その剣は。
嗤うような地虎にティナを取り巻く赤い光が強くなったように感じた。
「その軽口、後悔させてやる」
《楽しみだわぁ。アタクシ退屈してたのよね》
地虎の声が終わるかどうかのタイミングで、すでにティナは飛び出していた。
一歩で地虎まで距離を詰めて剣を一閃。けれどそれを地虎は跳び躱す。はらりと、長い鬣のほんの一部が宙を舞う。
《やるじゃなぁい》
「ちっ!」
躱された瞬間にティナは地虎と距離を取る。地虎もそれ以上ティナを追わず、しばらく二人(一人と一匹?)は動かなくなった。
「ティナ、大丈夫か!?」
「問題ない。リアはそこから絶対に動かないように」
ティナの口調がさっきから堅くて冷たいのは気のせいだろうか。
いつも柔らかくて優しげなのに、地虎と話をしだしてから、いや、地虎があたしを見せろとか言ってからだな。
冷徹騎士モードと呼ぶことにしよう。
それにしても、あいつ、地虎ってなんなんだ? 話をする獣なんて初めて見た。
本神殿の馬は人懐こくてめったに暴れたりしなかったけど、あれは神殿騎士たちがそれぞれきちんと躾けたものだって、あたしでもしってる。逆に旅の途中で襲ってきてティナたちに返り討ちされた狼とかネズミは食欲というか生存本能のみで生きてる、まさに野生の獣だ。
善し悪しはいまはどうでもいい。
目の前のこの獣をどうみるか、だ。
あたしたちと会話してるってところでそもそも獣として扱っていいのか? でも、この洞窟みたいなところに棲んでんだから野生の獣でいいのか。
《失礼ね、アタクシは守護獣! この西領の鎮護を任された誇り高き守護獣よっ! 野生動物なんかと一緒にしないでくれる!?》
「ふぉっ……!」
あまりなタイミングで頭に響いた声に、叫びそうになったあたしは慌てて口を押さえた。あたしが叫んだらティナがこっちを見てしまうかもしれない。
って、あたしいましゃべってたか?
《フン。アナタの思考、ダダ漏れだもの。読み取るのなんて容易いことよ。ついでに、このお話はアタクシと戦ってるこの女には聞こえないようにしているから》
あたしの考えがダダ漏れ、だと? しかもティナには聞こえてない?
《声を出さなくて済むのよ? 楽チンでしょ。アタクシへ御礼くらい言っても女神の罰は当たらないと思うわよ》
誰がいうかよ、礼なんか。こっちが頼んだわけじゃねーし。んで、守護獣ってなんだ?
《なんだって、今言ったわよ。ホントに物知らずねぇ、アナタ》
あ? 西領の鎮護とかってやつか。だから具体的に何してんだって話だけど、もういいや。コイツとまともに話せる気がしねぇ。
《それにしても、アナタ。どうしてそんなに口が悪いの?》
頭の奥がびりっとした。
昔っから散々言われたよ、んなこと。
あたしの口の悪さには、幾つか理由がある。
似合うから。
孤児院育ちの小汚いガキだからな、汚い言葉を使ってるくらいが丁度いいだろ。
意味ないから。
可愛らしい振る舞いも丁寧な言葉遣いとか、何のためにすんだよ? それで飯が増えるわけじゃねぇし、誰かがあたしの肩代わりをしてくれるのか? 少なくともあたしはそんな扱いされたことねぇ。
それから、危ねえからな。
昔、『リアはなぁ、あの言葉遣いさえなんとかなりゃあんくらいでも食指が動くのになぁ』って言ってる色ボケが神殿騎士にいた。
神殿に入って二、三年目だったか? 休憩かサボりなのか神殿の裏手で騎士が何人か固まって駄弁ってたんだ。言ったやつ以外も同意してた。
それってあの場にいたヤツら全員幼女趣味の変態ってことだろ? 弱っちいところなんか見せてみろ、すぐ食われかねねぇ。
だから言葉遣いは絶対に直さなかったし、そこにいた顔は全部しっかり覚えてそれからそいつらには近づかなかった。
《ふーん。わりと苦労してきたようねぇ。だからって認められるものでもないけれど、アタクシは寛大だからぁ? 事情は汲みとってあげるわ》
認めてもらおうとか思ってもねーよ。言葉遣いなんざ、もういまさら直んねーし、ティナはそんなこと言わないからな。
《あらぁ、ずいぶんとこの女を信用しているようね。出会ってそれほど経ってないでしょうに》
地虎の左前肢がティナの右腕を掠めたようにみえた。
また、頭の奥がビリビリしてる。コイツはホント人の神経を逆なでする天才だな。地虎の爪は幸いティナに届かずすんだようだった。
ビリビリする頭、震える身体。両腕で身体を抱えてないと溢れ出そうなこの何か、これはなんだ?
地虎、テメーは何が言いたいんだ?
《この女のこと、信じ切っちゃダメって話よ》
目の前が真っ赤になったように感じた。これは、怒りだ。このしゃべる獣への。
その時、着地しそこねたティナへ襲いかかる地虎の鋭い牙が目に飛び込んできた。
『我、女神の盾を望むなり!』
暴れ出す感情のまま、あたしはこの短い歌を歌った。
読んでいただきありがとうございました♪
お知らせになりますが、8月末まで更新をストップします。今話の地虎のごとく怪獣が大暴れしております。加えて在庫切れもありまして、情けないやら申し訳ないやらですが。
必ず戻って参りますのでその際はまた読んで頂けたら嬉しいです!




