巫女と女騎士と光の先
今回また少し短めですが楽しんでいただけたらうれしいです!
長い、長すぎる。
どれくらい歩いたのか、久しぶりに足が痛い。
「王都からネイブロ村まで歩いた時くらい歩いてるね」
それより長いかも、とティナ。
あれより、だと?
「じゃあ、あたし成長したのか?」
「ん〜、荷物ないしねぇ」
ぐっ、たしかにそうだ。
大きな荷物はフリートの背中に積んでたけど、必要最低限は自分で持ってたのがいまはない。
「でも、あの時より道がでこぼこで歩きにくいから成長してるといえばそうかもよ?」
慰めはいらねーよ!
「ここらへんで休憩しようか」
あたしがいじけ出したのを見てか、ティナは軽く笑って提案してきた。乗らないわけはない。
休憩と言ってもホントに足を休めるだけだ。なるべく平たい場所を見つけて腰掛ける。
旅の途中なら、水飲んだり軽く食事したりしてたけど、それもできない。
なぜか? 水筒も携帯食も持ってねーからな。
目的地が領都の地神殿だったんだぞ? そんなもの持っていかねえ。
「なぁ、ティナ」
「なに?」
「ここ出てさ、次の神殿に行けたらさ」
「ん?」
「もう、荷物持ったまま行こーぜ」
そしたら水も食糧もある。
「リア、もしかして喉乾いてる? お腹すいたの?」
無言で二度頷く。どっちもだ、という意思表示。ティナは早く言ってくれたらよかったのに、と呆れたように笑って丸いモノをくれた。白いザラザラした細かい粒々に覆われた大きめの飴玉? 押すとむにっと弾力がある。
「口に入れたら噛んでみて」
口にいれるとちょっと大きくて、もごもごしながら歯を立てるとぐにゅっと噛み切れて、中から甘い汁がトロリと出てきた。
「っ!?」
「すぐにのみ込まずにしっかり口の中に何もなくなるまで噛んでね」
言われた通りしっかり噛む。
ある程度噛んだら飲み込みたい衝動に駆られるけど、それを抑えてさらに噛むと、口から甘いのもクニュクニュもすっきりさっぱり消えてしまった。
「おいしかった?」
「甘かった」
それしか感想がないのもアレだけど、甘かった以外に言えることがないっていう。
「あはは、初めてだとそうだよねぇ。これ、露蜜糖っていうんだよ」
しばらく前から王都で出回っているもので、水分と糖分を一個で約半日分摂れるスグレモノの便利品らしい。しかも日持ちもする。
「お腹はふくれないけどね」
ティナはこれを騎士団にいる時に知って、旅にも持ってきたそうだ。服に数粒隠し持って緊急時にだけ使う予定だったらしい。今使ってよかったのかと訊くと、今使わずにいつ使うのかって叱られた。
「さすがに次のは明日ね。今日はこれでしのがないと」
次は、明日。
明日までこんなとこにいてたまるか。でも、光の先はまだ見えない。
胸元の、服の下から伸びる光は手をかざしても遮られることなくまっすぐに道の先へと
「食いもん、ねぇかな」
「あってもキノコかな?」
そのまんま食えねーじゃん。
キノコは焼いたり煮たりしないと食べられねぇし、毒キノコだってあるじゃん?
「食べてもお腹壊しそうだよね。こんなところのキノコ」
《まぁっ! こんなところだなんて失礼ね!》
突然聞こえたあたしでもティナでもない声。
「誰だっ!?」
少し高めで、あたしを嵌めたあの女の声によく似てたけど絶対に違うと言える。耳で聞いたんじゃなくて頭に入ってきたような声だったし、こんなところにアイツが来るわけがないから。
それに、あたしをかばうように立つティナの向こうに見えた姿は人じゃなかった。
四本脚で立つ獣だった。
馬くらいの大きさをした猫のような生き物だ。
猫と違うのは、尻尾が先っぽだけ短い毛が房のようになっていて、馬のようなたてがみがある。けれどそれは馬と違って地面につきそうなくらいめちゃくちゃ長い。そのたてがみの間から覗く、三角の耳と顔。つり上がった目に口の両端から見える長い牙。
「まさか、地虎か!?」
ちこ? ちこってなんだ?
《あらアナタ、アタクシのことを知ってるのね》
良いことよ、って偉そうだな。
「お褒めにあずかり光栄、と言えばいいかな?」
《褒めてなんかないわよ? アタクシを知ってて普通、知らないなんて相手はアナタどんな人生を送ってきたのかしら? って盛大に罵ってやる対象だわ》
頭に響く甘ったるい声。けど、その声は我が儘女のそれとはやっぱり違っている気がした。どう違うかはうまく言えないけど。
そして、うん、気付いてる。
ここまであたしたちを導いてきた光は、ティナが地虎と呼んだその獣の額へつながっていることに。
ティナも、地虎も気づいているはずだ。
《で? アナタが背中に隠しているソレ。見せなさい?》
うん、猫の目がしっかりあたしに向けられた。でもソレとか言うんじゃねぇよ。あたしはものじゃねぇ。
「……リアをどうする気だ?」
《アナタには関係ないから教えないわ。ソレをアタクシがどうするかなんて、知ってどうするの?》
「リアに危害を加えるつもりなら退くつもりはない!」
ティナは腰の剣を引き抜いて地虎へ向けた。
「え……」
《あら》
刀身が紅く輝いていた。
それからティナ自身、茶色い髪は赤く染まっているし全身がまるで赤い光を発しているように見えた。
「ティ、ティナ………?」
《なるほど、アナタたちって、ふーん、そういうことね》
驚くあたしと、何かに気づいて納得した様子の地虎。猫のような目がすぅっと細くなったようにみえた。
《神具を新しく作る時がきたのね》
「神具のこと、知ってんのか!?」
《あたりまえでしょう?》
「教えてくれ、どうしたらいいんだ!?」
あたしの叫びに地虎は細い目をかっと見開いた。
何が起きるのかと身構えたあたしとティナの前で地虎は微動だにしない。鋭い視線をこちらへ向けたまま固まること十を数えるくらい。
《えぇ、と? アナタは何も知らないのかしら?》
何も、を強調して首をぐるりと傾げる。なんか、バカにされてるみたいで腹立つな!
「知らねぇから聞いてんだ! 行けば分かるとしか教えられてねぇんだよ、あたしは!」
あたしの叫びに地虎は一瞬だけ天を仰いで、すぐに真顔であたしを見据えてきた、
なんか、さっきから人間みてーだよな、コイツ。
《けれど、それならどうしてここにいるのかしら? 何もなくて来られるところじゃないんだけど》
「地神殿の巫女長に、いきなり落とされたんだ」
《あら、それは手荒い手段を使ったわね。いいえ、使わざるを得なかった、ってことかしら》
みんな不器用ねぇ、とわざとらしく地虎はため息をつくような仕草をする。
それは誰に向けられたため息なのか。
《いいわ、教えてあげる。神具を新たに作るために必要で、ここ、地神殿で求めるものはアタクシのこの、牙よ》
くわっと開かれた大きな口から覗く二本の牙がギラリと光ったように見えた。
ヒト型じゃない新キャラ初登場回でした。
うーん、諸々のネーミングセンスぅぅ……
読んでいただきありがとうございました♪




