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+地神殿の巫女の光と陰+

今回は少し番外? です。

楽しんでいただけたらうれしいです!



「申し訳ありません、これが、わたしができる最善で限界なのです」


 地神殿の巫女長オルナは床に膝をつき、闇の中へ姿が見えなくなった二人へ向けて深く頭を下げた。

 ティナから投げつけられた言葉はしっかりオルナへ届いていて、その心を締め付けた。加えてあのリアをここから落としてしまったことについては解っていても後悔はしているのだ。

 オルナが床を元通りに戻した時、突然部屋の扉が開いた。


「なんです? 挨拶もなく。入室の許可をした覚えはありませんよ」


 なにも言わずにズカズカと入ってきたのはルクシラだった。神殿騎士を両脇と背後にそれぞれ二人ずつ合わせて四人も従え、他にも日頃からルクシラに傾倒している巫女も二人くっついている。


「必要ないですから。巫女長オルナ、あなたを拘束します」

「なぜ? わたくしにどのような咎があると?」

「この建国祭前日に神殿の風紀を乱した、それで十分な理由になります」


 連れて行きなさい、と居丈高に神殿騎士へ命じるルクシラ。二人の神殿騎士が進み出てオルナの口を布で封じ、両手を背後に回して縄で手首あたりを縛ると、オルナの肘を騎士が両側から掴んで歩くように荒く押される。


(拘束というか、捕縛と連行よね)


 向かう先は懲罰房だろう。オルナの代では使ったことがないからきちんと掃除がされているかどうか把握できていないことだけが心配で、内心ため息をつく。

 それにしても、巫女長不在で明日からの建国祭をどうする気なのか。

 ちらりとルクシラへ視線をやると、勝ち誇ったような眼で片頬を上げ、いやらしく口を歪ませた。


「わたくしがいまから巫女長代理となります。まぁ、代理が取れるのもそのうちでしょうけどね!」


 なるほど、自分が建国祭を仕切って見事乗り切った暁には新しい巫女長になるという算段か、とオルナは納得して視線を外した。


 好きにすればいいと、神殿騎士に連行されながらオルナの頭には今後の我が身よりもあの二人と次に見えた時、なんて言われるかそればかりを考えていた。

 絶対に感謝はされない。ティナからはたっぷり恨み言を吐かれるだろう。頬を叩かれてすめばいいとこかもしれない。けれどリアがどんな反応を見せるか、予想がつかない。


 その日が来るのは怖いが楽しみにしましょう、また会える日を。




◇◇◇◇◇◇◇




 ようやく、手に入れた地位だった。

 ルクシラは残りの神殿騎士も巫女たちも下がらせて、使い込まれた書き物机に艶然と微笑みながら指を滑らせた。幼い頃、父親の書斎にあった机も同じような豪華ではないがしっかりとした造りのもので、そこへ座ることを幼いルクシラは夢見ていたものだった。


 ルクシラの父親は子爵位を持っていて、西領の領主から領都近くの土地を預かって治めている。それほど大きくはない土地だが、領主家へ納める農作物はすべてその土地のものなので、それだけでも名誉なことだとルクシラは誇りに思っていた。加えて、西領の各地から商人が買い付けにもくる。紹介状を持っていない胡散臭い輩の話は聞く必要なし、そう教わった。ルクシラが紹介状の有無を尋ねるのはこうして覚えたものだった。

 一人娘のルクシラはいずれ父親の跡を継ぐのだと思っていたのに、七つの儀式で地神殿の巫女に選ばれてしまった。

 不満たらたらのルクシラと違い、父親はじめ家族は大喜びだった。娘が巫女に選ばれるのは名誉だと考える家は貴族でも平民でも多くある。これが娘でなく息子であったら、話は違ったかもしれないが。

 父親は、親類から男児を養子に迎えて跡を取らせようと考えている、お前は神殿でしっかり巫女の勤めを果たせと、神殿へ向かう当日にルクシラへ告げた。

 ルクシラは父親の言葉が信じられなかった。五年後、最低年数勤めたら戻ってこようと、父親の後を継ぐための勉強をするのだと思っていたのに。


(わたしが跡継ぎじゃなかったの!?)


 地神殿へ向かう馬車の中でルクシラは声を殺して泣いた。泣いて、泣きつかれてから心を決めた。

 神殿で、巫女の中で一番偉くなってやる、と。

 けれど、巫女長になったのはルクシラではなく、同い年のオルナだった。




◇◇◇◇◇◇◇




 オルナはもとをただせば平民の娘だった。

 領都で暮らして、貧しくもないがお金が有り余っているわけでもない、年に一度か二度ちょっとした贅沢ができれば幸いという暮らしぶり。


 それが一変したのはちょうどオルナが生まれた頃だった。


 領主の子どもがお忍びで領都を散策していて迷子になり、挙句人攫いに連れて行かれる寸前でオルナの父親がそれを阻止した。その功績でオルナの父親は少なくない謝礼の金銭と準男爵の地位を賜った。

 準男爵の地位はさほど高いものではなく一代限り。とはいえ父親が生きている限り家族も末端とはいえ貴族の一員として扱われてしまう。由緒正しい平民のオルナたち一家に爵位なんてものは正直重かったが、いらんと断れるものでもない。父親を筆頭にその地位に見合った教育を受け、作法を必死に身につけた。

 決して奢ることなく、社交辞令を巧く使うことでややこしい貴族的なアレコレをなんとか乗り切ってきた。


 オルナの兄たち二人はめちゃくちゃ苦労したと何かにつけ愚痴混じりに話すのだが、オルナにとっては物心つく前から家は準男爵家だった。母親と一緒にいろんな淑女としての作法、貴族として最低限の教養を教わって身につけてきた。苦労はあったがやるべきことと見做して割り切っていた。

 まぁ、家族の間で崩れるのは仕方のないこと。

 そうして迎えた七つの儀式。巫女に選ばれたオルナは二日後には地神殿へ向かった。


 オルナは歌うことが好きだった。好きだからこそ、巫女に選ばれて喜んだ。巫女になって神殿で学んでいく中で、歌うことだけではなくその歌がいつどのようにして作られたのかということに興味を持ち、歌が持つ意味や込められた願いや祈りを同好の士と語り合うことに目覚めた。

 元々好きだった歌がさらに好きになった。


 先代の巫女長が辞める時、次の巫女長にルクシラではなくオルナを指名したのはこの差だろうと多くの巫女たちは思っている。

 地神殿ではいまでも実家の爵位で上下は決まらない、オルナは間違いなく人望の厚さと功績で巫女長になったのだ。




◇◇◇◇◇◇◇




 ルクシラもオルナを認めてはいたが、なぜ自分が選ばれなかったのか、どこがダメだったのかと悩み、憂いて、やがて劣情を募らせる。


 日頃から緩い地神殿の規律、雰囲気。その原因はオルナにあると考えていた。

 あの容姿で、あの雰囲気で年若い巫女や神殿騎士たちに接して誑し込む。ルクシラの中でオルナはそんないわゆる悪女になっていった。

 実際には幼くして家族と離れて寂しく感じている巫女たちを慰めたり、様々な悩みを持つ巫女や神殿騎士の話をきちんと聞くことでその心を軽くするなど、きちんと巫女長の役目以上のことをしてはいるのだが、邪推する人間はどこにでも一定数いるもので。そんな人間が集まればどんな相手でも悪人に仕立て上げられる。


 オルナは悪女だ。

 神殿騎士を誑かし、年端もいかない巫女を手懐けて神殿の規律を乱す。


 そんな身勝手な思い込みを抱き続けていたルクシラたちにとって、リアたちのことはオルナを引きずり落とす好機だったのだ。

 地神殿と無関係な人間を神殿の、巫女長の部屋にまで招き入れて悪巧みをし、礼拝堂で決まっている時間でもないのに歌っていても咎めもしない。

 ルクシラの中でそれは悪だった。


 端から見れば「いや、それ妄想激しすぎでしょう?」なのだが、ルクシラを牽制できるものはオルナ以外おらず、当の本人にとってルクシラの行動はどうでもいいことだった。


 地神殿に、変容の兆しが訪れていた。








読んでいただきありがとうございました♪

次回はお休みさせていただいて、七月第二週にまた再開予定です。

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