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巫女と女騎士、ずぶ濡れになる

楽しんでいただけたらうれしいです!



 ティナは咄嗟に縁を掴んだ。けれどすぐに手を離してリアの後を追う。


「許さない、あなたたちの誰ひとりとしてわたしは許さない!!」


 落ちながらティナは上へ向けて叫んだ。覗いている人影、巫女長オルナに向けて。そこに込められた思いの強さはティナに力があれば呪いになりかねないほどだった。


 はじめからケチはついていたのだ。

 あのルクシラに門前払いされたときから。それでもなにか手掛かりが掴めないかと思っていた所にこれだ。こんなことになるなんて護衛としてあり得ない失態だ。


「リアーっ!?」


 返事がない。落ちながらリアの姿を探る。穴の大きさはそれほどないから手を伸ばせば触れるはず。

 思った通り、体のどこかに触れたのでぐいと引き寄せて左腕で抱えた。リアの意識はないようだが、それ以上のことは確かめられない。すぐさま腰の剣を抜き払う。わずかに輝く刀身と我が身のおかげで周囲がかすかに見えるが、あまり意味はない。

 二人はただ落ちているだけだ。


 ずいぶん長く落ちている。ティナは衝撃に備えてリアを強く抱え込んだ。地面に叩きつけられる可能性を考えて、それならまだ自分が下敷きになってリアを庇うべき、と。

 落下の終わりは突然やってきたが、正直予想していなかった。


「水ーっっ!?」


 ようやく見えた穴の下は広い空間で、底は水が揺らめいており、ティナはさらにぎゅっとリアを抱え込む。


 大きく息を吸い込んだところで二人は水の中に落ちた。大きな水音とともに。




◇◇◇◇◇◇◇




「……ア、リアっ! 目を覚ましてっ!」


 ティナの声がする。

 どうしてそんな焦ってんだ? えーと、あたしはなにしてたんだ?


 「ティっ……ぐぇぇッ!!」


 ティナの名前を呼ぼうとして思い切り噎せた。口から鼻からダラダラと出てくる何かが止まらない。背中に何度も衝撃を受けてひたすら痛い。


 ……み、水?


 ボタボタ垂れているものになんの色もなく、口に残っているものにも何の味もない。

 もう出そうなものは何もないけど、背中はバシバシ叩かれ続けてる。


「ティ、ティナ! も、もう大丈夫だから!」

「ホントに!? ホントに大丈夫っ!?」


 たとえまだ体に水やら何かが残ってたとしても、ティナに叩かれてる背中が痛すぎるからやめてほしい、なんて言えないケド。


「ここは? あたしら、なんでこんなとこにいるんだ?」


 見渡すと大きな池のようなものがあった。池の淵は少し岸もあるけど、すぐに壁になってずっと上の方、天井までつながっている。

 それが分かるのは壁がうっすら光って見えるから。光っているのは光苔というものらしい。それがびっしり生えているから灯りがなくても割と見えるそうだ。なんで光るのかはわかってないけど、太陽が当たらない場所を好んで生えるそうだ。

 この場所、実は球を横に割った上の部分のような形をしていて、天頂部にあたしたちが落ちてきた穴があって、底部分の中心が大きな池、いわゆる地底湖になっていた。


「わたしたちは、オルナにここへ落とされたんだ」


 その言葉をティナは眉間にしわを寄せながら言い捨てた。

 たしかに急に足元がなくなった。その前に、オルナは机の上の何かを操作してて。あれは、あたしたちをここへ落とすためだったのか。

 何をしていたのか見ていた分、ティナの言葉は事実だと分かってしまう。


「ここ、池で助かったな」

「まぁね。中心部は深くてね、すぐに縁に向かって浅くなっていくんだけど、ずっと深い場所ばかりだったらどうしようかと思ったよ」


 わたし、泳ぐの苦手だし。


 苦手と言われて驚いた。なんでもできそうなティナにそんなものがあるなんて。


「なっ、なに?? 苦手なものくらいわたしにもあるよ?」


 その心が顔にしっかり出ていたんだろう。顔を少し赤くして軽く睨まれた。その姿にこっちまで赤くなる。


「リア」

「なに?」

「服、脱ごうか」


 何を言われたのか分からなくてぽかんとした。

 え、服? 


「早く水気取らないと風邪ひいちゃうでしょ」


 水に落ちたら濡れる。濡れたものは脱いで乾かさないといけない。

 ごもっとも。けど。


「ティナは?」

「わたしは鍛えてるから大丈夫。ほら早く」


 いや違うだろ。そういう問題か?

 ティナだって、当たり前だけどめっちゃ濡れてるし。


「ティ〜ナ〜?」

「ゔっ!!」

「風邪は鍛えてても引くぞ〜? 違うか〜?」


 そう言って汗かいて放置した神殿騎士が熱出したの知ってるし。それで神殿付きの医者に怒られてたからな。

 観念したようにティナがため息をついて服に手をかけたのをみてあたしも脱ぎ出す。

 服も下着も脱いで、それぞれ強く水を絞って、大きめの石にひっかける。ティナは、と見ると同じようにその上半身はいま、何も身に着けていなかった。

 あたしの眼はそこに釘付けになってしまった。

 形もいいし、大きな果物みたいだな、なんて思いながら。


「ん〜、さすがにそんなジロジロ見ないでほしいんだけど」


 あたしの視線に気付いたティナは両手で胸元を隠そうとするけど、それ逆効果だぞ。余計強調してるし。


「あー、わりぃー」

「全然悪いと思ってないでしょ」


 悪いと思っていても見るなと言われたら余計に見てしまう。それが人ってもんだ。

 まぁ、人が嫌がることはやっちゃいけないけど。


「さすがにそれは見るって」

「やっぱり悪いと思ってないよね」


 拗ねてるみたいな口調でわたしも見ちゃうよ? とティナ。目線がチラと下がる。つつーとその目線を追うと、あたしの胸元。膨らみ? ほぼ、いやまったくナシ。ティナのような胸当てなんかつける必要がない。女神レヴィアータから渡された装身具が揺れるだけ。見慣れた景色だ。面白くもなんともねーし。


「問題ねぇよ、こんなの見られたって」

「本来は問題あるよ?」

「温泉の時だってこんなだったし」

「ここは温泉じゃないでしょ? 時と場所と場合ってものがあるでしょうに」


 って言われてもなぁ?


「ここにはあたしとティナだけだろ? どんなカッコしてたって気になんねーよ」

「もう、リアは、ホントに」


 呆れて、諦めたような顔すんなよ、ティナ。

 あたしだって他に誰かいるところで絶対こんな格好しねーよ。あー、でも自分の部屋(庭師の元作業小屋)ならしてたかも?


「んなことより、ここからどうやって出るか考えねーと」

「それは、ひとまず進むしかないんだけどね」


 進む? どこに、と聞くとティナは池の向こうを指さした。


「あっちに横穴があるみたいなんだ」


 たしかにティナが指を差したあたりは光ってない。すなわち壁がないということだ。

 行く? と聞かれてすぐに行くと答えた。

 ここにいたってどうしょうもない。行けるところへ進むしかない。


 服が少し乾いてからあたしたちは池に沿って岸部分を慎重に歩いていく。

 途中、足元も壁もゴツゴツして歩きにくいことこの上ない場所もけっこうあるし、岸が極端に狭くなっていたり、起伏が激しかったりしたけどあたしたちはなんとか横穴の前にたどり着いた。


「思ったより、大きいねぇ」


 ティナが呟いたとおり、なかなかデカい横穴だった。

 高さは二階建ての建物以上あるし、横幅も十人くらい並んで歩けそう。そんな空洞が奥へずっと続いていて、ここの壁にも光苔がびっしりついているから周りは見えるけど、先の方はどこまで続いているのか分からない。かなり長そうだ。


「行く、しかねぇよな?」

「しかないねぇ。道はやっぱりこれしかないみたいだし」


 と、二人揃って横穴へ一歩踏み出した時だった。


「え?」

「えっ!?」


 横穴の奥の方へ向けて光が一筋伸びていた。それはあたしから出ていて。


 おおよそ二十日前、女神レヴィアータとの会話がよみがえる。


『必要な材料ってなんだよ!』

『それは行けばわかるよ〜』


 行けばわかるって、このことかぁ〜!? 


「リア、これは、この光って」


 ティナも、突然現れた光に気づいて軌跡を追ったらしく、それがあたしから伸びていることに驚いていた。それはもう、目を大きく見開いて口も大きく開きっぱなし。


 光の出所は正確には首からかけた例の丸い玉が六つ連なった装身具から。服の中から引っ張り出すと六つの玉すべてが光っていて、そのうちの一つから光の筋は伸びていて、ティナはさらに驚いていた。

 コレのことはティナにも話していなかったか、そう言えば。


「誰にも言うなよ? コレ、女神レヴィアータから預かったものなんだ」

「はぁぁ〜!?」


 顔の輪郭崩れるくらいも驚かなくてもいいんじゃね? まぁ、気持ちは分かるけど。


「ティナに会う前、旅に出るときに絶対になくすなって、肌身離さず持っとけって言われて渡されたんだ」


 たぶん、これが神具を作るのに絶対必要なものなんだろう。じゃなけりゃあの場で渡したりしないだろうし。

 それから、これが本神殿の紋章を表している可能性が高いことに気づいてからこれが何か鍵になるかもとは思ってたけど。


「え、それって、つまり、えっ!?」

「とにかく、これが光っている方向へ行ってみるのがいんじゃねーか?」


 まだ混乱しているらしいティナの手を引いて、あたしは光を追って横穴の奥へ進むことにした。



 この先に一体何があるってんだ?




読んでいただきありがとうございました♪

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