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女神の巫女の歌の意味

季節の変わり目はいつも体調を崩しやすくて、わかっていても油断してるつもりなくても突如やってくるもので……いつもギリギリですみません。

楽しんでいただけたらうれしいです。



「誰がそこで歌っているの!?」


 血相を変えて礼拝堂に入ってきたのは巫女長オルナと、ルクシラだった。

 ルクシラはあたしたちの顔を見るなり、眉間にきつく皺を寄せて詰め寄ってくる。


「またあなたたちですか!? 何をしたいのか知りませんが巫女長に会わせろと言ったかと思えば神聖な神殿の礼拝堂で一体何をしているんですか!!」


 まるでコソ泥を捕まえた神殿騎士みたいだ。

 たまにいたんだよな、神具を盗みに来るふてぇヤローが。ま、神殿の神具は盗ろうとしても必ず誰かに見つかるらしいんだけど。

 て、あたしらはコソ泥と扱い同じか?


「礼拝堂へは自由に入れるはずですが? 地神殿ではこちらに入るにも紹介状が必要なのでしょうか?」


 あたしをかばうように立つティナからなにか冷たいものが漂ってる気がする。それに言葉にイヤミが。

 まともにティナと視線を合わせたらしいルクシラがぎょっとして一歩引いた。


「およしなさい、ルクシラ。この方たちの御用件はすでにわたくしが伺っております」

「巫女長!? なぜこのような得体の知れない者たちと話なんて!」


 本人たち眼の前にして得体のしれないとか失礼すぎるぞ、おい。


「リアさんが本神殿からいらした巫女であると確認は取れています。これ以上貴女に話すことはありません、お下がりなさい」

「ですがっ!」

「下がりなさい、と申しましたよ?」


 ルクシラへ向けられていた巫女長オルナの目がさらにキツくなった。があっと怒鳴られるより静かに冷たい視線を向けられる方が余計に怖いと改めて知る。見た目がいいと上乗せされるし。

 ルクシラは悔しそうにしながらぼそりと退室の礼を取りつつ、あたしたちを睨みつけて礼拝堂から出ていった。蛇みたいであれもこえぇ。


「二度もご不快な思いをさせてしまい、お詫びのしようも」

「え、や、やめろよ!」


 誰も見てないっても巫女長がただの巫女に頭下げるなんてありえねぇ!


「いいえ、あの時に気づくべきでしたのに、貴女が…」


 そこまでいってオルナははっと口をおさえる。


「あたしが、なんだよ」

「その、貴女の神力が非常に強くて。それこそ、この神殿の誰より、いえ、すべての巫女を合わせたよりも」


 はぁ!? なんだそりゃ!!


「巫女長オルナ。リアの神力の程を知る術があるのですか? わたしはこれまで歌の技巧によるものと思っておりましたが」

「それもあながち間違いではございませんが、これ以上は神殿の秘事でございます」


 秘事………ティナが言ってた秘密ってやつか。


「その秘事ってのは巫女のあたしにも教えられないやつなのか?」

「はい、神殿長または巫女長のみに歴代伝えられるコトやモノは多くあります。たとえ貴女のような力の強い巫女であっても教えられないものでして」


 なんか、あたしの扱いが本神殿と全然違う気がすんだけど。


 あたしとティナには知る由もなかったが、この時オルナは神力を可視化する神具〈女神の瞳〉とまた別の神具でリアの神力が並外れていることを知ったらしい。そしてその、別の神具によってなかなか非常識な事態になっていたことがわかってここに来た、という顛末だ。


「て、巫女長。口調がまた丁寧になってるケド」

「こうなったらさすがにもう崩せませんよ」


 どういうことだよ! 意味わかんねぇ!!


「にしても、貴女がこの時期に本神殿にいらっしゃらないなら本神殿の新しい巫女長は苦労しそうですね」


 新しい、巫女長? 巫女長って三年やっても新人なのか?


「さて、先程の歌についてお話を聞かせていただけますか? なぜいま歌っていたのか」


 真剣なオルナの顔にあたしは誤魔化せないものを感じてあるがままにここに至るまでを話した。


「なるほど………貴女は本当に」

「な、なんだよ」

「いえ。少し、場所を移しましょうか」


 神殿の礼拝堂ではいつ誰がきてもおかしくない。あまり人目に触れないほうがいい、オルナはそう言ってあたしたちはまた巫女長の部屋に連れて行かれた。





◇◇◇◇◇◇◇





「さてリアさん。申し訳ないのですが先ほどの歌を、今度は歌わずに、現代の言葉でお願いできますか?」


 はぁ?


「どういうこったよ?」

「そのままです。詞だけ、朗読するようにお願いしたいのです。もしかすると、あなた方の求めているものに繋がるかもしれません」


 そう言われちゃ仕方ない。

 やったことがないからうまくできるか自信はなかったけど、詞を今の言葉に直してみた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 北の(そら)に星が六つ

 女神の導きによりて

 紅い焔は地に燃え立つ

 

 東に風吹く丘ありて

 二羽の鳥の囀り高く

 (そら)にくるりと環を描く


 西の荒野で交わる剣

 やがて獣は地にひそみ

 光訪れ 時を待つ

 

 南の海にて竜遊ぶ

 四つに連なり 波に輝く

 時巡りて 真を手にせん

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 


「すばらしいですね。意味もきちんと通じる内容になっています!」

「そう、なのか?」


 オルナの声が興奮しているように少し早口になって、顔も少し赤くなっているように見える。


「この歌は歌い継がれている中でも特に高難度なものです。詞も解釈の幅が広い部分がありますし、旋律も」


 オルナの解説(はなし)はしばらく続いた。

 この人、歌が好きなんだな。

 たまにいるんだ。歌うよりも歌の意味とか古語だからこういう意味があるとかないとか考えたり調べたりすることが好きな人。


 にしても、オルナにはやたら褒められて調子が狂う。本神殿でこんなに褒められたことないんだよな。


 そんな中でティナは黙って詞とオルナの解説を聞いていたけど、聞きながらしばらく考え込んでからはっと顔を上げた。


「巫女長オルナ。リアが歌ったあの歌に隠されているのは」


 隠されている?

 ティナの質問に、スラスラと流れていた解説がピタと止まり、オルナはティナを見てさらににっこりと微笑んだ。


「お気づきになられましたか。あの歌は昔から巫女たちの間でなにかと取り沙汰されているものですが、全容解明にはいたっておりません」


 ただし、一つだけ分かっていることがあると、オルナは続けた。


「あの歌は各神殿について歌われており、神殿の紋章についての表現が散りばめられていることだけはわかっています」


 なん、だと……っ!?


「ま、マジで?」

「マジです」


 そしてまた始まる解説。

 けれど聞けばたしかにそうとしか考えられなくなる。

 「北の(そら)に星が六つ」、それは国の北にある本神殿の紋章を、「東に風吹く丘 二羽の鳥」は東領の風神殿の紋章、と考えるとすべてが一致してくる。


「リアさんは、ご存知ではなかったのですか?」

「ああ、そんな話初めて聞いた」


 だいたい神殿の歌は教わったものばかり。その時に意味も一緒に教わるからそういうもんだと思ってる。

 けど、この歌は違う。

 耳で覚えた歌だ。詞の意味なんて考えたこともなかったし。もっといえば、何年も歌ってなかった。人前で歌ったのなんて七つの儀式よりこっちは初めてで、今の言葉に直したのも初めてのことだ。


「リアはこの歌を誰から教えてもらったの?」

「誰って……あたしを拾ってくれた人」

「その人は神殿関係者なの?」

「まぁ、そうだな」


 女神レヴィアータ本人だとは言えねぇ。


「古語でこの歌を教えられるのですから、神殿に深く関わっている方だと思われますが」


 はて、と首を傾げるオルナ。先代巫女長あたりと思ってくれれば御の字だけど。


「それで巫女長オルナ。リアの歌についてはわかりましたが、それがわたしたちの目的とどのような関係があるのでしょうか?」


 そうだそれだ! 歌の話に気を取られてたけどティナ、さすがだ!


「それは……そうですね、こうなれば説明するより御自身の目で確認されるのがいいでしょう」


 書き物机にあった置物にオルナが触れて、カチ・ガコンという音がしたかと思ったら視界が一瞬で暗くなって足元の床がなくなった。


 なにが起きたのか理解しきれず、あたしは早々に意識を手放した。


 ティナがあたしを呼んだように聞こえたけどそれすらも耳元でヒューヒューと鳴る風の向こうで、現実かどうかすらもわからなかった。





読んでいただきありがとうございました。

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