女神の巫女が知るべきこと
楽しんでいただけたらうれしいです!
「あら、あなたね。さっきの素敵な歌声の主は」
神殿の窓からニコニコとこっちに向かって穏やかに微笑む美女がいた。
「みこちょうさまっ!」
女の子がぱぁっと顔を輝かせて美女を巫女長と呼ぶってことは、この人が地神殿の巫女長!?
「あの子の歌ね、すっごく上手なの!」
「わたしも聴いていたわ、レーア。外なのによく響くきれいで伸びのある声に、完璧な旋律だったわ」
レーアと呼ばれた女の子は窓辺に駆け寄って巫女長へ親しげに話しかけている。
本人目の前にしてめっちゃ褒めるし! めっちゃ恥ずかしいんだけど!!
そこでにやにやしてんなよティナ!
「ところで、レーア。いまは何の時間なの? みんなは食堂で休憩していたと思うのだけど」
途端にレーアは俯いた。その口が少し尖っているように見える。
「………だって、セシルがわたしの歌を下手くそだっていうんだもん。建国祭の歌はまだ練習中なのに」
あー……。
どこにでもいんだな、そうやって他人を貶すヤなやつって。
「そう。でも休むのも大事なことよ? 喉をきちんと休ませないとお勤めの時に歌えなくなるわ」
「わかりました、みこちょうさま!」
レーアは素直で元気な返事をすると神殿の中へ。裏口らしいその扉を閉めるその間際にあたしたちへ手を振ってきた。えっと、手振ればいいのか? 手を上げたらレーアは中へ入っていった。
「ごめんなさいね、お二人を放置してしまって」
レーアを見送ったあたしたちへ地神殿の巫女長は向き直ると両腕を胸の前で交差させてから大きく広げてみせた。
これは神殿式のあなたを歓迎します、という意味。あたしが女神の巫女かどうかを試してるんだろうな。
あたしは地神殿の巫女長へ向けてまっすぐ両腕を掲げてから交差させず胸の前で手を自分の胸元へ当てる。歓迎の意をありがたく受け取りますという返礼? だと先代の巫女長から教わった。覚えてて良かったぁ!
「改めまして、わたしはこの地神殿の巫女長、オルナと申します。遠き王都の本神殿からよくぞ参られました」
オルナはさらににっこりと微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「先程はごめんなさい、ルクシラが失礼なことを言ってしまったようで」
程なく、また別の巫女がレーアが入ったのと同じ扉から出てきてあたしたちを中に入れてくれた。通されたのは巫女長専用の部屋みたいだ。本神殿と少し作りが違う気がする?? 気のせいか?
ルクシラとは最初に通用口に出てきた巫女のことだろう。こちらも名乗り、今度はティナも名乗ってあたしの護衛だと告げた。
「あ、いえ、この時期、ですし。それに、紹介状が必要だと知らなかった、あた、わたしもいけなかった、ですし」
なんかシュリみたいな喋り方になっちまった! 丁寧に話さないとって思うと逆におかしくなるな。
あたしの口が悪いのは神殿の全員が知ってたし、直す気もなかったからな。取り繕うってのは大変
しかし、紹介状なんて本神殿のあん時の状況で誰からもらえたんだよって話だ。
「あら、あのコったら本当にそんな事を」
オルナは困ったような呆れたような顔をした。
ん? どゆこと?
「たしかに建国祭の時期はどこの神殿も忙しく、外出しているとお会いできないこともありますが、紹介状などというものは必要としておりません」
それは、どういうことだ?
「それでは先ほどの巫女様が嘘をついたということになりますね?」
あたしの後ろに立つティナの声がちょっとこわい。
「嘘といいますか、あの子は幼い頃に実家で教え込まれた常識が抜けきらない、といいますか」
「なるほど」
オルナの声にもティナの声にもなんだか呆れが混じっているように聞こえた。
あとでこっそりとティナが教えてくれたけど、ルクシラはおそらく大きな商家か低位貴族出身じゃないだろうか、と。紹介状なんてものを持ち出すならその可能性が高いらしい。まして幼い頃に教え込まれたということならなおさら。
クソ面倒くさい。
「わたくしを手助けしてくれているつもりなのでしょうけど」
方向性が違う、むしろ不要。
そんな心情がオルナの顔や言葉の端から見て取れる。
「あまり見知らぬ方が訪れることもありませんのでこれまで大きな問題にはなりませんでしたが、これからはきちんと言い含めて改めさせますわ」
申し訳ありません、と頭を下げるオルナ。巫女長に頭を下げられるなんて、むず痒い。
「それでは、御二方がわたしを訪ねていらした御用件を詳しくお尋ねしても?」
「……リア」
緊張で無意識にごくりと喉が鳴る。
言い淀んでいるとティナが優しく促してくる。肩に置かれた手はあったかかった。
「本神殿にある十年祭の神具が壊れ、ました。直すことはできなくて新しく作る必要があ、ります。それには女神の巫女が一人、三神殿を巡る必要があるらしい、です。けど、三神殿でなにをす、るのかがわからなくて、もし心当たりがあれば教えてほしい……です」
だぁぁもうっ! 口が回らん!
「フフ、いつもの話し方でかまいませんよ?」
「けど、」
「それじゃあ、わたしも自分の話し方にするから。ねっ?」
オルナが話し方を崩すととたんに顔つきも変わった。
穏やかで気品がある巫女長の顔から溌剌とした街の女の人みたいな。
「わりぃ。気ぃ遣わせて」
「フフ、気にしない気にしない。わたしも昔は堅っ苦しいここの雰囲気が苦手だったのよね。けどもう20年近くもいるし、慣れちゃった。巫女長になってからはなおさらね」
「立場に合わせた話し方は外部へ向けて効果的なことがありますからね」
ティナの言葉にオルナはそうそう! と大きく頷いていた。
「貴族出身の新しい巫女たちに対しては特にねー」
たしかに、オルナは薄桃色の髪に濃い緑色の瞳をしていて、丁寧な口調で微笑まれれば理想の巫女にみえるだろうな。
「で、本題に入るけど。十年祭の神具を新しく作りたいのよね?」
そう! それ!!
あたしはこくりと頷いた。
「申し訳ないけど、すぐにはわからないわ」
オルナの言葉をあたしはどこか遠くに聞いていた。
◇◇◇◇◇◇◇
振り出しに、戻った。
またもや庭園のベンチに座ったあたしたちだ。
「元気出して、リア。巫女長さんも調べてみるって言ってたじゃない?」
そう、古い本に書いてないか探して調べてくれるってオルナは言った。
日常の神具は付き合いのある祭具店に作製依頼を出せば作ってもらえる。けど、十年祭の神具は特別製で過去に作り直したという話はきいたことがない。
だから本を当たるしかない、と。
『あなた達はいつまで西都にいられるの? ああ、長距離馬車に。それなら建国祭の二日後だったかな? できるかぎりそれまでにという約束しかできないけど』
「けど、建国祭間近だ」
マジで時機が悪い。探すっつったって建国祭の準備の合間、ほんの僅かな時間しかないはずだ。
行けばわかるって、言ってたのにな。
浮かんだのは、あの美しい庭園と女神の真面目な顔。
見たこともないほど緻密な地図、本神殿と三神殿の位置と紋章と。
受け取ったのは肌身離さず持ち歩くようにと、大切なものだと言われたこの。
これって………?
「まさか」
「リア?」
「ティナ、調べたいことがある」
あたしだけじゃ分からないないかもしれない。でもティナも一緒に調べてくれたら、もしかすると。
強く願うように、ティナの不思議な色合いの瞳を見る。
「手伝ってほしいけど、いいかな?」
「当たり前じゃない! おねーちゃんに任せなさい!」
片目をパチンと閉じるとあたしの頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
「ちょっ!?」
「それで、どんなことが知りたいの?」
どんなこと。
曖昧にしか覚えてない、ちゃんと知ろうともしなかったこと。
「この国のこと、神殿のこと、女神レヴィアータのこと」
女神の巫女として、きちんと知らないといけないことだと思うから。
リアが「へーふーん」ですませてきたツケが巡り巡ったかんじです。
読んでいただきありがとうございました♪




