女神の巫女もいろいろ
楽しんでいただけたらうれしいです!
西領に入ってから五日、あたしたちはようやく西都に着いた。
西都・ウェルムロシェ。西領のほぼ中心部にあって、領主のお膝元で三神殿の一つ、地神殿がある場所。
あたしの目的地の一つだ。
「なんとか建国祭までに間に合って良かったよ!」
「はい、やはりこの期間をどこで迎えるかで違いますからね」
リーザとウィノが明るい表情で口々に言うが、何が違うんだ?
「そりゃどれだけ稼げるかに決まってるぞ! 西都は人がいっぱいだからな」
そうか、リーザは行商人だから大きな街の方が人も多くて商売しやすいからか。
「特に西都の地神殿は女神レヴィアータへの信仰が他の地よりも強いそうですね」
「そうなんだよ! 王都であれこれ仕入れてきてさ」
母親二人は商売談義に花を咲かせてる。ん? ウィノも行商人かなんかなのか?
「そういえば、シュリたちはなんで南領に行くんだ?」
「………」
黙っちまった。聞き方間違えたか?
「南領、おじいさま、よんでる」
「南領にいるじいさんからよばれたからいく、ってことか?」
シュリはぐっと俯いて顔を上げないけど、首を横に振ったりしないということはそれで合ってんだろうな。
「呼ばれたけど行きたくない、とか?」
今度は俯いたままコクリと縦に頭を振る。シュリのじいさん、孫に嫌われてんなぁ。
「会ったことあんのか? ヤな奴なのか?」
「ない。でも、おかあさん、こまってたから」
ウィノも断りたくても断れねぇのかな。
「あたしにはそのじいさんがどんなやつかわかんねぇけどさ、イヤなことや困ったことははっきりいうしかねぇんじゃねぇの?」
「……わたし、言葉」
シュリは言葉がなめらかに出てこない。そういう性質らしい。シュリのなかに言葉はきちんとあるのに、声に言葉が乗らないというか乗せられないというか。
けどそれならそれでかまわないと思う。
「いいじゃないか! シュリの言葉で話せばいいと思うぞ!!」
ドヤっと話しだしたのは、当然フィロ。
「オレもリアもシュリの言いたいことはなんとなく分かる! 力を惜しまず話してれば伝わるはずだ!」
あたしが言いたいことはその通り。コイツに先越されたのがかなり癪に障る。
「あたしもそう思う」
「リア」
「シュリはシュリだ。自分の言葉で、やり方で話せばいい」
「やり方?」
「ん〜、例えば、エフィニスであたしに言ったろ? 一緒に、だめ? ってさ」
目ェうるうるして首傾げて、あれ可愛すぎ!
「こーんなんされたら頑固なじいさんもイチコロになんじゃねぇかってあたしは思うけどな」
そん時のシュリを真似てみせたけど、似合わなさに腕とか背中がゾゾッとしてんだけど!
「ソレはシュリがやってこそだな! リアには似合わん!」
「あ? いまなんつったよフィロ!」
あたしに挑発的な顔をしたフィロのほっぺたをすかさず両方引っ張り上げてやる。
てめぇに言われたかねぇよ! 自分でもわかってんだよ!
は? ふがふが何言ってんのかわかんねぇな〜。なんだ、まだ引っ張ってほしいのか、そうか〜。
余計なひと言を放ったフィロへの制裁で忙しかったあたしはシュリの小さな呟きを拾うことができなかった。
「あれは……だけ」
◇◇◇◇◇◇◇
「巫女長はどなたともお会いできません。お引き取りください」
身も蓋もない、または取り付く島もないというか。
「これぞまさに門前払いだねぇ」
ティナの言葉通り、出てきた神殿の巫女はあたしたちにきっぱりそう言った。
フィロやシュリたちと別れてあたしとティナは地神殿にやってきた。
神殿の隣には木や花がたくさんの庭園みたいなところがあって、大人や子どもが何人かいた。子どもはキャーキャーいって走り回っているのもいる。
本神殿にも庭園はあったけど、子どもが来ることはほとんどなかった気がするな。
そんな光景を横に見ながら地神殿の扉前に立つ。
地神殿は王都の本神殿より少し小さく見えるが、柱や壁に細かい模様が彫られていて壮観だ。
「すごいねぇ」
「どんだけかかったんだろうな」
金が。
声にはしなかったけど、ティナにはわかったらしい。少し呆れたような目線が飛んできた。知らんぷりだけど。
こっからだ。
神殿の大扉の横にある、通用口で呼び鈴を鳴らす。
大扉は入るとすぐ礼拝堂だが、通用口で呼び鈴を鳴らせば巫女が誰かしら気づいて出てくる仕組みになっている。
本神殿と変わらなくて良かった。
「どちらさまでしょうか?」
出てきたのは少し神経質そうな背の高い巫女だった。
「あ、わたしは本神殿から参りました、リアといいます。巫女長に取り次いでください」
精一杯ていねいに話したつもりだった。
「紹介状は?」
巫女の態度に冷たさとキツさが加わった。
紹介状?
「ない、ですけど。大切な用件なんです」
「紹介状がなければ取り次ぎできません。ましてこの時期です」
そうだ、今は建国祭前だ。
「巫女長はどなたともお会いできません。お引き取りください」
通用口はバッタンと閉まった。
◇◇◇◇◇◇◇
「っだぁ〜もうっ!」
「時機が悪かったねぇ」
庭園に据えられたベンチにティナと座ったあたしは、吠えた。
建国祭だってわかってたのに。
「巫女長も、この時期は忙しかったんだな」
「本神殿の巫女長はそうじゃなかったの?」
肯定しかけて、はたと止まった。
先代は忙しくしてた。
年嵩の巫女に指示を出して年若い巫女たちそれぞれにも役割を振ったりしてた記憶がある。
今の巫女長は、覚えてない。あの人何してたっけ?
あたしたち下級巫女への指示はアリシアたち上級巫女が茶を飲みながら下していた。なんだあれ巫女長にでもなったつもりか、とめちゃくちゃ愚痴ってたから覚えてるけど、そこに巫女長がいたかどうか。
ああ、でもあの人いつも最後まで神殿の礼拝堂にいたな。女神像の前で佇んでいた。
「建国祭の頃って自分が忙しすぎて誰がどうしてたかなんてあんまり覚えてないみたいだ」
この言い訳のような話にもティナ「そっか」と言っただけ。
さて、どうするかな。
ここまで来てしまっては逃げる場所はどこにもない。
そもそもあたしには帰る場所だって。
もし、あたしの神力が尽きたら、あたしはどこへ行けばいいんだろうか。
帰る家も、家族もいないのに。
身体の中がずんっと重たく冷えていくような気がしたその時、あたしの耳に歌が聞こえてきた。
「ん? 歌?」
ティナにも聞こえているようだからあたしの気のせいじゃない。
「リア、あの子かな?」
ティナが指差す方を見ると白い巫女服を着たまだ小さな女の子がいた。
まだ旋律が覚束ないようだけど、この歌は間違いなく。
「建国祭の歌……?」
《闇深い大地に一筋の光が
女神の慈悲深い御手からもたらされた
やがて光あふれた大地に命が芽吹く
祝おう この素晴らしい日を
風は踊り
水は流る
花は咲き
星は瞬く
明るい太陽に 静かな月に
皆ともに歌おう この素晴らしい日に》
いつの間にか、あたしも歌っていた。
女の子はぽかんとこっちを見て、隣のティナは笑顔でぱちぱちと拍手をくれた。
「リアの歌はいつ聴いてもいいね〜!」
アンタは何歌ってもそう言うよな。
「え、と……あなたもここの巫女なの?」
歌ってた女の子がなぜかすまなそうな顔で話しかけてきた。
「いや、あたしは」
なんて言えばいいんだろう。
ここの巫女じゃないことはすぐにわかるはず。でも本神殿から来たって言って、さっきみたいなことにまたならないか?
嘘は言いたくないけど、本当のことを言ってもいいのどうか。
「あら、あなたね。さっきの素敵な歌声の主は」
………アンタもいったい誰だよ。
神殿の窓からにこにことこっちに向かって穏やかに微笑む美女がいた。
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