女騎士と女神の巫女は各々思いに耽る
楽しんでいただけたらうれしいです!
『家族って、なんだろうね』
いつだったか。ティナがふとそう漏らしたことがあった。
それをあたしに聞くのかと思ったけど。
『リアは神殿でさ、ここにいるみんなを家族と思って、なんて言われたことある?』
そっちか、って納得した。
神殿では入ってすぐの説明でそういう話をされる。
(ここで一緒に暮らす巫女たちは仲間であり、家族です)
言われても、あたしはそう思えなかった。孤児院での生活があったからだろう。
仲間はともかく、孤児院でも神殿でも一緒に暮らしてるだけのヤツらを誰も家族とは思ったことがない。そもそもあたしには家族ってものがいた覚えがない。家族っていったいなんだ? ってその時は考えて、もういいやって考えるのをやめた。
やがて神殿も変わってったし。
『神殿の巫女が家族だってんなら、家族って相手を貶したり身分で虐めたりするのが家族なんじゃねーの?』
そんなん、敵だろ。
『やっぱり、そう思っちゃうよね』
ティナの身内は例の兄貴しか知らないけど、他にも何かしらあったのかもしれない。
兄貴、で思い出すのは今年巫女になったルミのことだ。
あたしが神殿を出る少し前に上級巫女とゴタゴタしてた原因が、兄貴からもらったリボンだったか。
たしか、花と月と、星みたいないろんな刺繍がポンポンと並んでたな。
自分で作ったものを妹にあげるってのはどういう気持ちからなんだろうな。
ただ、ルミの兄貴はルミの敵じゃないんだろう。それはルミの顔を思い出してもわかる。
嬉しいとか大切にしたいとかそんな気持ちが顔中に溢れてた。
『家族は血の繋がりじゃないとか言う人もいるけど』
血の繋がり。そうか、そういうのもあったな。家族って。
『血が繋がってる家族より、同僚とか上司とかの方がわたしをちゃんとわたしとして見てくれて、そういう人たちと一緒の方が気持ちが休まる気がするんだ。わたし、変なのかな?』
違う、変なんかじゃない。
その時は言えなかった。今もきちんといえる勇気はない。
あたしもティナと一緒の今の方がいい。
ティナは自分の心を隠さない。まぁ、可愛いとかそういう方向だけど。心を隠さない相手をいつまでも警戒する気になれなくなる。
さらに自分のことを守ってくれて手助けしてくれる相手ならなおのことだ。
あたしは、だから、隣に座ってティナの頭を撫でてやった。
『り、リアぁ?』
ティナの、少し慌てた声にニヤリとした。
◇◇◇◇◇◇◇
フィロの探検は村をぐるっと周ってなんとか終わった。日はまだ高いところにあるけど。
「早く戻るぞフィロ。あんまり遅くなるとリーザに怒られるんじゃないか?」
もう少し探検を続けたいらしい(行くとこないけどな)フィロに早く帰ろうと促したのだが。
「母ちゃんは怒らないと思うぞ。リアとシュリもいっしょに帰れば」
問題ないぞと胸を張るがあたしとシュリの方は見ずに空ばかり見てる。
ふーん、一緒、ね。
「たとえば、暗くなってから一緒に帰ったとして、だ。この、あたしたちのザマを見ても、はたして怒られずに済むと思ってるのか? フィロ」
「!?」
そう、あたしは無事に終わったとは言ってない。
背丈くらいある草が生えまくった場所をかき分けて進んだせいで顔から手足から草で小さな疵だらけ。
丸太の橋がかかった小川を渡ろうとして失敗、あたしとシュリも一緒に落ちた。浅くて助かったけど泥だらけだ。
ついでにでっかい木に登って落ちかけるわ。
三人とも泥だらけの擦り傷だらけ、ついでにシュリは半泣きだ。
「あたしは全部ちゃんとリーザに話すからな」
「うぇぇ……」
情けない声出すなよ、自分がやったことだろうが。
「ど、どうしたら母ちゃんに怒られずに済むと思う!?」
「知るかぁ!!」
心から知らんわ。むしろしっかり叱られろ。
「さっさと帰ってリーザと一緒にウィノのところへ謝りに行くのがいいと思う」
あたしはともかく、シュリがなぁ。
ウィノは謝れば仕方ないと許してくれるかもだけど、リーザはきっとウィノが怒らない分も怒るだろうな、当然。ティナ? ティナは怒らない。あたしが怒ってるから。
「わ、わかった!」
誠意を見せるためだと、走り出そうとしたフィロを捕まえてシュリを連れてゆっくり歩けと指示。あたしは二人の後ろを少し離れてついていく。
あたしは知ってる。
フィロのやつ、どこかで足を挫いたようだ。我慢して歩いてるけどかなり痛そうだ。
ちょうどいい、少し試してみよう。
『彼の者へ癒しを望むが故に、女神の涙を我が手へ賜らん』
できるだけ小さな声で、癒しの歌を歌う。
女神レヴィアータ、すぐじゃなくていい。ゆっくり、フィロの痛みを少しずつ取り除いてやってほしい。すぐに治してやらないのはヤツへの罰ってことで。
どこかから、クスリと笑う声が聞こえた気がしたけど、うん、気のせいだ。
ちなみに、ウィノに謝ってシュリを帰したあと、フィロはこってり絞られた。ただし、リーザに代わってアークスから。
「フィロ、教えたよな? 女の子を危険な目に合わせたり、着てるものを汚したりするなって」
ただ、最初こそそんなだったけど、あとの方になるとそれがいかに自分の不利益として後々還ってくるかって話になっていた。しまいにゃ相手に逆らえなくなるって、おいおいそれって。
「実体験かよ」
「みたいだね〜」
一緒に聞いてるティナは面白そうにクククと笑ってる。
「アークス、リーザさんのこと少し苦手みたい。よく扱き使われたんだって。だから今の話は実際にあったことだろうね」
うわぁ情けねぇな。
「でも姉弟って、ホントはそんな感じなのかな」
あ。
悲しそうな、羨ましそうなティナの表情。兄貴のこと考えてんのかな。
「そんなんにホントもウソもクソもあるかよ」
「リア?」
「きょうだいとか、家族とかあたしにはよくわかんねえ。けど、そんなん二つあったら二つとも同じか? 違うんじゃねえの?」
リーザとフィロ、ウィノとシュリ。
この二つの親子でもなんか全然違うんだ。リーザとアークスの姉弟にティナは自分と兄貴を重ねたのか。それがそもそも違うだろ。そうじゃねぇだろ。
「家族なんて、きょうだいなんてあればあるだけ全部違っててもおかしくないだろ? あたしだってこれでもティナのこと、」
姉みたいに思ってんだぞ。
また声にできない。
けどさ、あたしとティナみたいな姉妹だっていたっていいだろ?
◇◇◇◇◇◇◇
『あたしだってこれでもティナのこと、』
真ん丸な月が煌々と夜空で輝く。
ティナは、隣で眠るリアの寝顔を眺めながら昼間のことを思い出して頬が緩むのを自分でも感じていた。
その言葉の先をリアは口にしなかったが、直前の話や表情から察することはできる。
「ごめんね、情けないお姉ちゃんで」
起きてたら、リアは否定してくれるだろうか。ついそんな事を考えてさらに情けなくなる。
承認欲求の塊だ、とティナは自虐的に苦笑いをするしかなかった。
「あの人のようには、なかなかなれないね」
寝返りを打ったリアの顔にかかった髪がくすぐったそうで、そっと取り除くと一筋が月明かりに光ったように見えた。
淡い金色の髪。黄金の娘の象徴。
教えてくれたのは。
『いずれ必ず現れる。光るような金の髪、藤色の瞳の生意気そうな小娘だよ』
「ねえさま」
そう呼ぶと恥ずかしそうに笑っていた、あの人。
ティナの胸に去来するのはもう会えない美しい人の顔と、彼女と一緒に過ごした賑やかでそれでも穏やかな日々。
心を苛むものが何もない、子どもに戻っていられた、騎士になる前のわずかな時間。
「いつか、会えたら」
夜更けの月を見ながらティナは想いを馳せる。
何を話そう。何をしよう。そんな日が来るかどうかもわからないけれど。
読んでいただきありがとうございました♪
来週から少しお休みします。再開は5/9の予定です。




