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第二十一話「副都突破作戦ー壱」

クラシスから真っ直ぐ東へ街道沿いに歩くと、すぐに副都に着く。

副都は帝国領内では唯一、軍事機関の無い変わった町として知られている。

それもそのはず、国境に位置するこの町は海を越えて隣国から大臣などが招かれたり、この町で会議を開いたりするのだ。

その為この町には十大将は入れないという特殊な法律が出来ている。

そのため確かに隣国に渡る良いチャンスではあるのだが…当然この動きは帝国にマークされているだろう。

もし今副都に来賓などが来ていないのなら、警察部隊の増員などは平気でやりそうだし、普通の船にすら怪しまれて乗れないということが想定される。

どちらにせよ、広い場所で囲まれる事態になれば、まず勝ち目はない。

「変装するしかないよっ!クレイス」

何故かノリノリでレイノアは言った。

「俺とイーリスは服を取り替えれば…」

「ロバート、それではお主が変態として人々の注目を集めると思うのじゃが…」

「わ、私は…」フィアは自分のリュックサックを漁る「はっ…水着しかないです」

「…ろくな変装できるやつ居ないんじゃないか?どう思うレイノア」

クレイスはレイノアを見つめた。

「よし、皆スーツ着よう!」

レイノアは何故か全員ぶんのスーツを用意していたようだ。…用意周到な…

「いや…これじゃどこかのマフィアみたいだぞ…?」

クレイスはピチピチとしたスーツを着てサングラスをかけた。

「クレイス…かっこいい…」

レイノアが目を輝かせている。

「良いじゃん、なんつうか…」ロバートはイーリスを眺めて言う。「エロいな」

「こりゃあ!胸の辺りを見て言うでないっ!1番で自爆したいと申すかっ?」

イーリスはブンブンとリモコンを振り回しながらロバートに訴えている。

「私のは少しきついかもです…」

フィアは肩の方をさすりながら言う。

「そんなっ」レイノアはショックを受けたような顔をした「ちゃんとキッズコーナーで買ったのにっ!」

「そ…それって…どうりでこのスーツ…背中にウサギマークがあると思ったら…」

フィアもショックを受けたようだ。

膝から崩れ落ちると空を見上げ始めた。

「もう…行って良いか?」

街道にも野良のエネミーが数体いた。

犬型でたいした強さでは無かったが、もう一歩街から外に出たら野良のエネミーがいるというのが常識になりつつあった。

「どうやって繁殖してるんだろ…」

レイノアは首をかしげた。

クレイスははっとして立ち止まった。

「クレイスさん…何かありましたか?」

フィアが急にクレイスが深刻な顔つきになったのを見て心配そうに言った。

「…副都から人の気配がしないぞ…?」

その一言に全員が押し黙る。自然と足は真っ直ぐに副都を目指していた。

「なっ…これは一体…どういうことだよ…?」町の近くに来てロバートは思わずそう言った。…言わざるを得なかった。

…人がいない。

露店などは畳まれているが、ほとんど全ての建物にシャッターがかかっている。

この状況は…まるで…

「ねぇクレイス…建物の中とかに人は居ないの?…何か怖いよ…?」

「居ないな。まるで今日が祝日で、全ての店を閉店にする条例が出たような…」

クレイスは町に入りながら言った。

「でも、全く人がいないのはおかしいじゃないですか…一月前に仕事で来たときは、人が多すぎたぐらいなのに…」

「戻るか進むか…どちらにせよ、人がいない状況は好機とも言えるし、罠かも知れないとも言えるのう…むっ…」イーリスは立ち止まった。「広場に一人おるぞ?」

「…行こう。罠にしては、あまりにも静かすぎる。」

クレイスの一言で、五人はイーリスに案内されながら町の大きな自然公園と総督府のある広場に向かった。

「ターゲットが侵入。準備して」

ハイディングシートから起き上がると、リーノは立ち上がってそう指示を出す。

「リーノ隊長…本当に良いんですか?」若い副官が心配そうに駆け寄った。「もし本国や隣国にこの作戦がバレたら、何をされるかわかったものでは…」

「…でも、【収容作戦】で町の中は今無法地帯。あのデュアルレイを片付けるなら…今が好機…!」

「隊長」部隊の中の一番古株の隊員がリーノを見下ろしながら言う「はっきり言いましょう。無謀です。今から30分以内に作戦を終え、この街から出るには何人か犠牲が出てしまう。それでも決行すると、貴方は言うんですか?」

「…恐れるなら…来るな」

リーノは冷たく言い放った。

古株の隊員は舌打ちをすると、懐に手を入れながらリーノから離れていった。

「隊長…隣国に逃げられても遠征の許可を取って船に乗ればいいじゃないですか」

「遠征の許可?」リーノはふんと鼻を鳴らした「そんなのは出ない。…オールドが殺られた以上、彼らは帝国にとって脅威になっている…このままここで見逃してしまったら、それこそ何て言われるか…いや、それよりも…」

「…仇討ち、ですか」

「…」リーノは若い副官の言葉に一瞬口を閉じた。「ずっと…追いかけてきた。クレイス…お前を殺して、ボクの部下の仇を取れる時が…ようやく…!」

「あら、お姉ちゃん」

「…っ!アイ…ネスっ…!?」レイノアは広場にいた人物を見て凍りついた。

「まぁ、待ちなさい」アイネスはクレイス達が武器を構えるのを見ると、両手を上げて戦意が無いことを告げた。

「…今さら何の用だよ」

ロバートがアイネスに凄んだ。

「この前、見逃してくれたでしょ?…そのお陰で作戦が上手くいってね…お礼に船を手配してあげたわ…って話よ。」そう言ってアイネスはロバートに何かを投げつける。受け取ったそれは、小さな鍵だった。

「ここの港にとめてあるB35って書いたボートをあげるわ。大丈夫、船に細工してあなたたちを殺るぐらいなら今ここで殺してあげているから」

「…嘘ではないようじゃな」

イーリスは低い声で言った。

「じゃあ、私はこれで…」

「待て」クレイスはアイネスを呼び止めた。「お前…ここに人がいない理由を知っているんだろう?」

「えぇ。でも詳しくは秘密よ」アイネスはそう言うと再びきびすを返して広場から離れていく。「あ、でも一筋縄じゃボートには着かないかもね。私は今日はおあずけだけど、まだまだ狼は控えているわよ」

彼女はそう去り際に言い放った。

「…なるほど。そういうことか」

クレイスはすぐにアイネスが何を言わんとしていたかに気づいた。

「…来たようじゃの」

イーリスは背中の帯に隠し持っていた火縄銃を取り出す。

「…やばっ!隊長っ危ねぇ!」ロバートは突然クレイスを突き飛ばした。

瞬間、耳をつんざくような金属音が響いて、ロバートが後ろに吹き飛んだ。

「ちっ…失敗したか…」

盾を構えたロバートを盾ごと弾き飛ばしたその相手は、なんとレイノアぐらいの少女だった。体を白虎柄のマントですっぽり覆い、手には先の曲がった凶悪な見た目の巨大な鉈のような大剣を握っている。

白虎の顔が象られたフードを目深に被り、目は見えなかったが、放たれる殺気は並みの者ではないことを感じさせる。

…さっきの攻撃は恐らく近くの建物の屋上から飛び降りたのだろう。

だが…気配が全くしなかった…!?

「…うっ…まさかこいつ…」ロバートは腰をさすりながら起き上がった。

「お前…虎狼大将…リーノか!?」

クレイスは後退りして言った。

…まずい奴が現れたな…。クレイスはこの少女とは前に面識があった。

少し前に帝国にケンカを売る羽目になったあの帝国へ攻め込んだ戦いで…

仲間の一人が暴走し、その瞬間から次々と仲間がやられ、撤退を余儀なくされた。

その時に交戦していた相手である。彼女の強さは単体のあの剣だけではない。

「…囲まれた!全員散開しろ!逃げ切れるなら港で合流だ!」

クレイスは瞬間的にそう指示を出し、自らは近くの建物に入っていった。

思った通りそこには何人か帝国兵士…しかも暗殺専門のエリートたちが何人か潜伏していた。ただ、おかしいことに…

…気配が読めない!?

攻撃してくる奴を次々と倒してはいくものの、まだ周りには沢山の兵士が潜伏しているようだ…。だが何故か正確な位置がまともに把握出来ない。

…まるで影から出てくるみたいだな…!

クレイスは仲間が一人残らず命令通りに散開したのを気配で感じると、口元に笑みを浮かべた。

…これで周りを気にしなくても済む…

「…さて、始めようか。…たとえ相手が見えなくても、全て当てれば良い話だ」

クレイスはそう良い放つと、両手の銃をまっすぐ左右に向ける。

…見えぬ物すら見えるように。

クレイスは能力を解放し、ただ…敵を倒すことのみに集中する。

「皆…生きてこの町を出るぞ…!◆ラスト・サバイバー!」

「何なんだよこいつらっ!」

ロバートは背後から忍び寄る帝国の暗殺者を斬り捨てながら叫ぶ。

「まさか…この服のせいかの…?」イーリスは近くにあった布を拾いあげた。

この兵士たちは何故かイーリスの生態感知に引っ掛からない。この半透明の黒い布はどうやら生態感知の電波というか…それを遮断しているようだ。

ロバートにそれを告げると、ロバートはイーリスの手を引いた。

「…逃げるぜ!町の中じゃ隠れられる場所が多すぎる!」

「了解なのじゃっ!」

「あわわわっ!サブマシンガンって弾切れ早くないですかっ!?」

必死に辺りの見えない敵を牽制しながらフィアは泣きそうな声をあげる。

「フィアちゃん!こっち!」

気づけばレイノアがいつの間にか小さな蠅型のエネミーを引き連れてフィアの援護に来てくれていた。

「た、助かりますっ!」

スナイパーライフルに持ち替えたフィアは、レイノアの隣に並びながら僅かに見える人影に向けて的確な狙撃をしていく。

「…私がスチールフライで敵を炙り出すから、バックアップ任せて良い!?」

レイノアはフィアに素早く早口で言う。

「まっ、任せて下さいっ」フィアはそう言いつつスコープを覗く。

「…ねえ、フィアちゃん」何体か倒したところでポツリとレイノアは言った。

「ど、どうしましたっ!?」

「…よく見えるね。私が虫を飛ばしてない所まで射撃してる…」

「こっ…このぐらいは常識ですっ!」いつも通りの返答をフィアはしてしまう。

「えぇー…アリエナイー…」

レイノアは目を一文字にした。

「ふっ…そこかっ!」クレイスは窓から隣の建物にワイヤーで飛び移り、すれ違いざまに銃弾を浴びせた。

隣の窓の窓ガラスを突き破り素早く姿勢を低くしてリロードを済ませる。

装弾数が少ないことが、リボルバーの最大の欠点だ。レイノアやフィアの支援が無いのもかなり厳しい。

ただそのぶん好きな動きができるし、仲間の状態を気にせず戦うというのも、たまには良いことかもしれない。ただ…

「…見つけた」

今回は相手が悪い。姿勢を低くしたすぐ上を、あの大剣がかすめていく。帽子は邪魔なのでもう外した。さらに武器ケースから素早くコートを出して身につけている。

そうまでしないと例え一人で自分のペースに合わせたとしても、リーノが相手では負けるのは必至だ。

「◆グレイブ・バタフライ!」

相手の回避パターンを予測し、舞い踊るように銃撃を叩き込むという、単体向きの奥義で応戦するが、その銃撃は大剣と彼女の【忠実な部下】に弾かれた。

そう、彼女が難攻不落である理由。

それは…

「グッド。フォーメーションCへ」

リーノが短く指示を出すと、その巨大な二匹の部下は唸り声とともに左右に。

どちらも重厚な鎧をつけた【白い虎】と【黒い狼】…。彼女が【虎狼大将】と呼ばれる所以でもある。さっきの雑魚とは違い、銃弾がまともに通らない以上、広い場所で戦うのはまずい。

「隊長!ヤバイです!予定よりも…」

どこからかそう声がして、地面が突然揺れだした。…地震ではない。これは…

窓から見る限り、この町が空襲されているようだ…!

航空機の気配なんてものも、当然ない。

「…かなり上空から爆弾を投下しているとでも言うのか…?」

クレイスは驚きのあまりそう呟いた。

「うおおぉぉ!!」リーノが叫び声をあげながら突っ込んできた。

それを受け止めようとクレイスが銃を構えた瞬間…!

とてつもない音と共に、天井が落ちた。

【続く】


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