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第二十二話「副都突破作戦ー弍」

「う…くっ…」

頭を強く打ちつけてしまったらしい。

しばらく回る視界に吐き気を感じながら、レイノアは瓦礫をよけて起き上がった。

「…フィアちゃん…?」レイノアは辺りを見回しながらフィアの名を呼んだ。

しかし返事はない。

少し離れた場所に…スナイパーライフルだけが転がっている…。

「そ…んなっ…」レイノアは無我夢中で辺りの瓦礫をひっくり返した。

フィアの姿はどこにも…

「レイノア…さん?いるんですか…」

小さく足元でそう声がした。

慌ててその位置の瓦礫を掘り起こすと、中からフィアの顔が現れた。

「ぷはっ」フィアは大きく深呼吸すると、少し申し訳ないような顔をした。「ごめんなさい…どうやら私…」どうやらフィアは建物の下敷きになっているらしい。

「フィアちゃん…待ってて私が」

「触らない方が良いかもです。これ…微妙なバランスで私の体が完全には潰れてないみたいで…」

「じ、じゃあ助けを呼んでくるよっ!」

「じゃあ…いいえ…この場合は」フィアは真っ直ぐレイノアを瞳を見つめた。「貴方だけでも逃げてください。ここに戻ってくるのは得策では…」

「な、何言ってるの!」レイノアはフィアに顔を近づけて叫ぶ。「置いていけるわけないよ!だってクレイスは仲間を見捨てないもん!だから私も…!」

「甘い、甘すぎますよ!」今度はフィアが言い返した「今の状況、一刻も早くこの領域から脱出しないと、共倒れになるんですよ!クレイスのマスターである貴方が死んだら、クレイスさんも死ぬんですよ!」

「え…」レイノアは耳を疑った。

「その顔だと知らなかったみたいですね…エネミーにはそれぞれ弱点があります。それらは一括して【コア】と呼ばれます。あの契約は、レイノアさんがエネミー化したクレイスさんを統制するためにクレイスさんのコアを己に封じ込める契約で…」

「じ…じゃあ私の中には…」

「簡単に言えばクレイスさんの心臓があると言って良いでしょう。…分かりましたか?本人は混乱すると思うので本人には言っていませんでしたが…」

フィアはため息をついた。

「私なら大丈夫です。ピンチを切り抜けられる切り札なら持ってます。だから…」

「…でも…でも…っ!」

「それならば、私が手伝いましょう」レイノアは不意に聞こえた声に振り向いた。

緑色の髪を両肩から前に垂らし、メイド服に身を包んだ女性がそこに立っていた。

…何だかどこかで見たような…?

「あ…ええと…?」

「すみません、レイノアさんのお仲間を助けた後で代わりにワールスさんの救助をお願いしたいのですが」

「ワールス…あっ」

…あ、思い出した。ワールスって、

マドゥル・シャンペンからクラシスまでの電車の中で、私が帝国の悪魔だって事を漏らしやがった史上最悪のゴミ博士だ。

はっきり言っていりません。

と言いたかったが今は一刻を争う。

迷っていると、いつの間にかそのメイドは瓦礫と建物を撤去してくれた。

「完了」短くそう言うとメイドは背中から翼のように煙を吐き出す。

一瞬ビビったが、単なる放熱らしい。

「た、助かりましたぁ…」

フィアは幸い外傷は無いようだった。

「さぁ、お二人ともどうか私に力を貸してください。こちらです」

メイドはスタスタと瓦礫が転がる道を歩いていく…。

レイノアは一瞬躊躇ったが、何の躊躇もなくフィアがスタスタついていくので苦笑しながら自分も後を追うことにした。

数分後。

「ワールスさん、お待たせしました」メイドは横倒しになったビルの下に声をかけた。…返事はない。「今、助けます…!」

メイドはビルの窓枠に力を込める。

「凄い力です…」フィアが呟いた。

「う…うああっ…お二方、すみませんがワールスさんを引っ張り出して下さい」

その声にレイノアとフィアは従った。

浮き上がったビルの少し奥に、血まみれの白衣を着た男の体があった。

おそらくワールスだ。

安全な場所まで引きずっていき、ドサッと体を横たえる。

「ワールスさん!!」メイドは背中から煙をふかしながらワールスの元へ走ってきた。「お気を確かに!アーフィーです!」

「ぐ…ほっ…」ワールスは薄く目を開けた「あぁ…アーフィーちゃん…。今日も可愛いよ…あ、リッシリアもいたのか…」

「無様だね。日頃の行いが悪いから…」

レイノアはワールスを睨み付けて言う。

「はは…違いないね…さ…て……」

「!…ワールスさん…」アーフィーと呼ばれたメイドはあることに気づいた。

「ごめんな…アーフィー…もうあまり時間が無くてね…」

よく見ると体の中心に杭と大きなガラスが刺さっている。…助かりそうもない。

「そんなっ…」フィアが声をあげる。

「アーフィー…ここから先は命令だ…」

「…」アーフィーは黙り込んだ。

「君の命を賭けてでも、リッシリアを護ること…これからは、リッシリアをマスターとして行動するように…それ…と…」

ワールスは息も絶え絶えに、レイノアの方を向く。

「リッシリア…もうこの世界は…駄目だ…救えるのは君たちしかいない…【黒翡の魔石】を集めるん…だ…ぁ…」ワールスはそこまで言うと息を引き取った。

「…ワールスさん。果たして死んでしまった今、貴方の命令は有効なのでしょうか…」そしてアーフィーはゆっくりとレイノアの方を見た。「私は…ただワールスさんの為だけに作られています…そんな私が…貴方のお役に立てるのでしょうか…?」

「…はいじゃあマスターとして命令っ」レイノアはパンパンと手を叩いた。「今から私とは【友達】という関係ね。私の仲間は絶対に護ること!…それが守れるならついてきてもいいよ」

ワールスは最低の男だったが、ワールスが作ったこの娘には(いまのところ)罪はないだろうと思う。

「友…達…」アーフィーは考え込んだ。「なるほど、まずはプラトニックな関係から…というわけですか」

「何か違うけど…まあそれでいいか」レイノアはアーフィーに抱きついた「という訳でよろしくっ!アーちゃん!」

「関節系への圧迫行為…ワールスさんもたまにしていた愛情表現ですね…」

アーフィーは首を傾げた。

「うん!アーちゃんもやってみたら?」

レイノアは笑顔で言った。

「分かりました!」

アーフィーはにこやかな笑みを浮かべて、レイノアの背中に腕を回し…

グキッ「ぎゃあああ…」

「ひいいい…」フィアが尻餅をついた。

「…くそっ…」

クレイスは起き上がる。まさか、空襲攻撃が来るとは思わなかった。

こうなった以上、どこにいても常に危険な状態だ。リーノが建物の倒壊に巻き込まれてくれれば幸いなのだが…

「…!…何故…!?」

「…っ!」

クレイスは素早く腰から紫色の光剣を引き抜き、出力を最低にして声の主…

つまりリーノの体に突き刺した。

「うああぁああ…!?」

これは副都に向かう道中で気づいた、光剣の新たな使い方である。

光剣とはつまるところ強力な光線を束ねた電子兵器であり、刀身が見えるか見えないかのギリギリの出力に設定しておくと、簡単なスタンガンとして使えるのだ。

リーノはぐったりと地面に倒れた。

…殺すまでもない。

この十大将の少女と、少し話をしたかった。という理由もある。

クレイスは剣をしまうと、倒れたリーノに近づいた…。

「…っ!りゃあああっ!」だがリーノはどうやら倒れたフリをしていたようだ。その普通の人なら背骨を真っ二つに折られるほどの強力な峰打ちがクレイスを捉えた。

確かな手応えがあった。

リーノは素早く体勢を整える。

…倒壊寸前にチャーがクレイスの首筋を噛みきっていたはずなのに。何故かクレイスは再び起き上がった。

でも、悪あがきもここまでだ。

…私がお前を殺して、部下達の無念を晴らしてやるっ!

…だが次の瞬間、乾いた声が響いた。

クレイスではない。

何故かリーノがバランスを崩した。

右のくるぶしになにかが刺さっている。

…太い弩の矢だ。

「いっ…あああっ…何でっ…」

リーノの部隊の弩の矢である…

リーノは逃げ出した。

どうして自分の部隊から襲われた?

理由が思い当たらない。

とある曲がり角にも味方がいた。

「隊長…恨まないでくださいっ」

途端に銃を乱射される。

銃弾がお腹に当たった。

「ぐっ…キミも…っ?」

「ははっ…うわああああ!?」ギリギリのタイミングで建物が倒壊した。

リーノはその隙に逃げ出す。

「助けて…誰か…助けてえっ!」

リーノは叫びながら町を走り…。

「おっと…手が滑りましたよ、隊長」

一番古株の隊員。彼がいつの間にか現れ、すれ違いざまに手に持ったワイヤーでリーノの首を締める。

「はッ…ぐ…」

走っていたということもあり、リーノが限界を迎えるのもすぐだった。

…リスティ…どこに行ったの…?

リーノは気を失う間際、妹とまだ遊んでいた時のことを思い出した。

…こっちなのなのですよー?


「…ふん」古株の隊員はそう鼻を鳴らすと、地面に力無く倒れたリーノめがけて先程の大型のナイフを振り下ろした。

「…どうだ?着替え終わったか?」

「ふっふっ…バッチリなのじゃっ」

イーリスとロバートは偶然、倒壊の被害を免れていた。

追っ手から逃げている最中に、偶然地下水路への道を発見していたのだ。そして今は背中を合わせて着替え中である。

「スーツ姿萌えだったのになぁ…」

ロバートは呻いた。

「文句を言うでない。この服でなければ様々なパターンの攻撃ができぬのじゃ」

「まぁそういう事なら仕方ないよな」ロバートはため息をついて、周りを見渡した。「だけど随分と広い地下水路だなぁ。空襲が来てもヒビひとつ無しだぜ?」

「うぅむ。これはただの推測なのじゃがなぁ…」イーリスは地下水路の壁を手でなぞりながら言った「もしかしたら、ここは地下水路としての役目以外に…何か別の」

「イーリス。話は後だ」

ロバートが短くそう言い、剣を抜いた。

「うぬう…もうちょっと空気を読んで欲しいのじゃ…」イーリスは火縄銃を取りだし、辺りを見回す。

すると…地下水路の水から突然何かが飛び出してきた!

ワニだ!だがただのワニではない…

全長はロバートの身長の二倍はあるし、ワニの顎の下がソードメイスのようにいくつか刃物のような物がついていた。

「イーリス!バックアップ頼んだ!」

ロバートはワニに向かって突撃する。

ワニは突然水から飛び上がった。

…なんて跳躍力だ!

ロバートは軽いステップで上空からのワニの強襲を回避すると、突然左の盾で攻撃を防いだ。

「うわっ…ちょっ、ニ体に増えたぞ!」

「ロバート、離れるのじゃ!」

イーリスの言葉にロバートは後ろへ思いっきり飛ぶ。瞬間爆発音がして、ニ体のワニが吹き飛ばされていった。

「ぐわあっ!?」ロバートが何故かこちらに転がって来る。

「三体目…じゃと…」

「イーリス…後ろだっ!」

イーリスはロバートの警告にさっと体をひねって回避すると、火縄銃ですれ違ったワニを吹き飛ばす。

「◆炎幻流奥義-居合い斬り!」

ロバートも先程不意打ちされたワニを素早い身のこなしで水に叩き戻した。

水にはプカプカとワニの死骸が浮いているが、数は何故か一向に減らない。

長い間戦い続けていれば、自ずと疲れも現れて来てしまう。気づけば、ロバートは起き上がらなくなっていた。

「…そんなバカな…ロバート、起きるのじゃ!…早く…ひあっ!」

不意に背中からワニの口に挟まれた。

そのまま地面に体を打ち付けられる。

「ぐほっ……」イーリスも火縄銃を取り落とした。この一撃で、体にほとんど力が入らなくなっていた。

更にそこにとどめとばかりにワニの顎が振り下ろされた。

「…………!!」

十二単を着ていたお陰で即死は免れたものの…イーリスは口から血を滴らせながら、倒れているロバートに手を伸ばした。

次の瞬間、イーリスは苦い臭いのする水の中へ引きずり込まれていった…。

何かの連続した銃声が響いた気もするが、イーリスは意識を失ってしまった。

【続く】



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