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第十三話「キャンバスに隠れる その2」

「凄いな。写真みたいだ」

クレイスはフィアの絵に感心する。

緑を大量にパレットに用意したのは森を描くためだったのだ。

木々が細部まで細かく描写されている…特に葉の部分に至っては本物の葉を中に入れたかのような鮮明さ…

思わず顔を近づけて見てしまう。

「ふふ、気に入って頂けたようで良かったです。」フィアは照れたように笑った。

「あぁ。大事にしよう」クレイスは絵を武器ケースの使っていない弾帯用のポケットに静かにしまった。

「いつもこの公園の近くで絵を売って暮らしてるんですよ。ただ今日は資金的にもノルマ達成出来たので、自由に絵を描いてみたいなーと思いまして」

「…フィアはしっかりしてるな」

「…」フィアは少しきょとんとしてクレイスを見た。「…まぁ、私がしっかりしてないと、おじいさんが…」

「お、ローザの嬢ちゃん!いいか?」

筋肉隆々の男ふたり組が突然フィアの肩をポンポン叩いて言った。

フィアが恐る恐る振り返る。

「な…なんでしょう…」

男は親指と人差し指で丸を作る。

「もう3ヶ月滞納してんだろ?」

…借金取りか…

「な、何言ってるんですか!先月分までは既に渡してサインも頂きましたよ?」

どうやらフィアは質の悪い場所からフィアは金を借りているようだ…。

「チッ…」男は舌打ちをするとクレイスを睨み付ける「おい、お前は関係…」

「借金はいくらだ?」クレイスはすました顔で言う。金は無いふりをしているが、BEAR攻略の時の大量の報酬がまだある。

「…はあ!?」「支払端末を出せ」

男の一人がしぶしぶ端末を出すと、クレイスは1000万ほど放り込んだ。

「うわっ…」男が尻餅をつく。

「何だよ…おわっ…!」もう一人が慌ててもう一人を起こす。「失礼しやした!」

…今の時代、こんな大金を持っているのは腕利きの賞金稼ぎや殺し屋ぐらいだ。

男たちは振り返らずに走り去った。

「…立てるか?」

「あ…ありがとう…ございます…」フィアも支払画面が見えたらしい。「あ…貴方はいったい…」

「さぁな」クレイスはフィアの方を向いて口元を緩める「…家まで送ろう」

クレイスは、彼女を送ることにした。

「…で、黒いコートの人に声をかけたら、結構怖そうな人で…まぁいい人だったんですけど、慣れないことはするものじゃないなって思いましたよ」

フィアは自分の家で一人話している。

「でもでも、絵も描かせてもらえましたし、なんと今月分の借金も払っていただいて…まあ、かなり変な金額でしたけど」

フィアは布団に向かって話している。

「…同業者…ですか。まぁ、私もそうだと思いますけど…あ、仕事ですね。」

ポストに何かが投函された音がした。

「それじゃあ、行ってきますね。今夜はカレーにしましょう…おじいさんも身体に気をつけてくださいね。」フィアはそう言って、誰もいない部屋を後にした。

玄関の壁に細長い箱がある。それを背中に背負い、フィアは家を出た。

通いなれた道を抜け、向かうのは賞金稼ぎの集う裏カフェ。

まだ若いマスターが出迎えてくれる。

「やぁ、朝のは見事だったね」

「別に…ふぇあ!?」

カフェに静かに入ろうとして、なんと自分で押し開けたドアに躓いた。

ダイブするように店の中に入る。

「お、フィアちゃんだ」

「【影捉】(えいそく)のフィアか…」

「え、あれが…?初めて見た…。」

軽く店の常連たちに会釈して席につく。

「さ、どうする?」マスターがカウンターから声をかけてきた。

「ぶ…ブラックマウンテンで!」

「…いつも言ってるよね…ブルーマウンテンだって」マスターは苦笑した。「コーヒーは甘口にしとくかい?」

「コーヒー1に対してミルク3ぐらいが妥当な選かと」

「ははは、それは別の飲み物だって…」

マスターは手早い手つきで飲み物を用意すると、カップの下に手配書を置いた。

フィアは早速広げる。

「…顔は白髭危機一髪って感じですね。あらあら…やってることはレディの敵じゃないですか」

「昼間での狙撃になるよ。そいつは午後3時には宿に戻るから、今すぐ中央国立広場に向かって始めてほしい。」

「…」フィアはコーヒーをイッキ飲みすると、手配書を受け取って店をあとに…

「すいません、スナイパー忘れて…」

細長い箱を再び背負って店を後にした。

残った客がマスターに怪訝そうに訊く。

「…あれが伝説の…本物なのか?」

「あぁ」マスターは腕を組んだ「親の代から素晴らしい働きをしてくれる…まぁ、性格がアレな分心配では有るんだがね…」

その日午後2時30分、中央国立広場で男が射殺された。持ち物から男は国際指名手配の犯人だと判明。罪は強盗殺人、特に女性をターゲットにする奴だったらしい。

死因は頭部への狙撃。

狙撃方向には目立った建物はなく、人が上れるような場所はなかったと言う。

「いつもながら…どうやったんだい?」

店に戻ったフィアにマスターが言った。

「近くに避雷針があったので、これを使って…」フィアはキャンバスを取り出す。

そこには避雷針の表面の錆やら何やらが鮮明に書かれた絵が書いてあった。

「まさか…これを…?」

「キャンバスを盾みたいに持って狙撃しました。」フィアは事も無げに言う。

「後ろにも露店通りはあったはず…」

「背中にも同じ絵を描いて背負ってましたから、避雷針の真下にでもいない限りは見えませんよ?」

つくづく敵に回したくない奴だな…。

「君には敵わないよ」マスターは次の依頼をフィアに渡した。

その手配書を一目見るなり、フィアの様子が豹変した。穴が空くように手配書を見つめ、体をわなわな震わせている。

「ん…フィア?」

「い…いえ、高いところにいたからちょっと震えちゃって…じゃ!」

フィアは逃げるように店を出た。

「賞金の額を見て驚いたかな…」

マスターは手配書の写しを見て呟いた。

手配書のターゲットは…クレイス・グラムスティール、と書いてあった…。

「疲れた…」

クレイスはベッドに倒れ込んだ。

「収穫は?」メイリルが水をすすめる。

「助かる…収穫はほぼ無しだ。体した装備品は入手出来なかったな…」

「残念ね。ロバートとイーリスも昔の仲間を探してくれてるけど…皆用事があったり、遠かったり、死んでたり…。」

「…4人で行くしかないのか」

「早くしないと別の基地に移動しちゃうかもしれないのよね…」

「遅くても明日には行きたいな…」

「あの車掌さんは?」

メイリルはベッド脇のお菓子を摘まみながらベッドに座っている。

「ドレッドはまた次のバイト先が見つかったらしい…面接で明日は忙しいと言ってたな…」クレイスはため息をついた。

「クレイスの他のあては?」

「ソフトとは連絡が取れないし、他は呼んで良いものか分からんし、帝国に寝返った馬鹿もいるしな…」

「役に立たないわね」「ぐはっ」

「…昼間どこいってたのよ」メイリルは自分の髪を指に巻き付けながら言う。

「…装備品を整えにな」

「レシートは店ひとつ分しか無かったけど?」メイリルはクレイスを睨んだ。

「な…何故敵意を向ける必要が…」

「睨んでるだけよ」

「殺意が伝わってくるんだが…あぁ、実は街を歩いていたら絵師に会ってな…」

クレイスはフィアについて話した。

「…その絵は?」

「待て…あった、上手いだろう?」

フィアの絵をメイリルに見せる。

「わぁ…素敵な絵ね…引き込まれそう」

メイリルは目を輝かせた。

「機会があったら書いてもらえればいいだろう。レイノアを見つけたらまた一旦クラシスに戻るつもりだからな」

「そうするわ」メイリルは何故か安心したような顔をしてベッドから立ち上がる。

「俺は少し寝ている事にしよう」

「私はちょっとお風呂…」メイリルはクレイスを怪訝な目で見る「部屋のシャワー使うけど、覗かないでよ…」

「俺を何だと思ってるんだ…。」

メイリルは他には何も言わずシャワールームに入って行った。

クレイスはしばらくのんびりとベッドに横たわっていたが、だるけが抜けると起き、時計を確認した。

午後5時。丁度外が騒がしかったので、クレイスは窓を開けた。

階下の大通りを、芸術品を展示した車が5台ほど並び、華やかな衣装を纏った人々パレードしているのが見える。

「変わった街だな…」

大戦の傷跡も刻まれ、最近はエネミー等が荒らしているせいで低迷ぎみの文化が発展している。良いことだと思った。

しばらくクレイスはパレード車に飾られた絵を見たり、あの衣装をレイノアに着せたらなどと妄想していたが、寒くなってきたので窓を閉めようとした…その時。

「…はっ!?」

クレイスは自分に向けられる明確な殺意を感じて反射的に顔を反らした。

何かがこめかみをかすめる。

その何かは地面で跳ね返り壁に当たって飛び、クレイスの足元に転がった。

「スナイパー…だと!?」

姿勢を屈め近くの武器ケースからサプレッサー付きのマスケット【猟銃】を出す。

少し昔に対スナイパー戦の時のために用意し、使わなくなっていた物だ。

「スナイパーなら場所を変えた筈だ…」

命中してもしなくても、狙撃手というのは自分の場所を隠す為移動する。

クレイスはマスケットを持ち、シャワールームにいるメイリルに声をかけた。

「ちょっと外の風に当たりに行く。夕飯までに戻らないようなら通信を頼む」

「分かったわ。遅くならないようにね」

メイリルの返事を聞くなりクレイスは走ってホテルを後にする。

大体狙撃場所付近で身を晒していれば二発目を撃ってくる筈だ。

そこで居場所を特定して、マスケットの奥義で倒す。

そうクレイスは作戦を立てていた。

こめかみに手をやると出血している。

触ったところでは傷は浅いようだ。

「街中とはいえ…俺が手傷を負うとは」

面白い。クレイスは狂喜していた。

殺し屋としての血が騒ぐ。

クレイスに傷を負わせる程の手練れだ。殺すのには惜しい気もするが、クレイスはもはや戦う獣と化していた。

気配を感じる特技を更に解放し、少しの殺意も見逃さないように集中する。

スナイパーが逃げた方角にあったビルの近くにたどり着くと、二発目の狙撃を受ける。頬をかすめ、血が滴るのを感じる。

反射的にマスケットで撃つが、使いなれていない長銃の為、多少狙いがぶれた。

「ちっ…」クレイスは舌打ちすると、とうとうその気配を捕捉した。…ビルからビルへと飛び移る気配、かすかにガチャガチャと銃器が擦れる音も聞こえた。

「逃がさん!」

クレイスは逃亡する気配を追った。

「…え…そ、そんなぁ…!」

フィアは絶望した。初撃を外してしまったというのはかなりショックだった。

今窓に隠れているクレイスという男、ただ者ではない。まぁ殺害賞金が一億という時点で可笑しいとは思ったのだが、逃げるように受けてしまった手前、今さら店に謝りに行くなんて気もさらさらなかった。

「に、逃げよう…」

今日は挨拶代わりだ。また明日…今度は完全に寝ている隙を狙って…

フィアは何となくホテルの入り口を振り返って硬直した。

まずい…追ってきてる!

「な…」口を動かす前に足よ動け足!「ふぇぇああ!」

フィアは一度転んでから走り出す。

「はやく逃げなきゃ…はやく…!」

急いで鎧からワイヤーを出して反対側のビルに飛び込む。この先はビルや建物が多いわりに人も少ない。

誰にも見つからずに移動だ。

下を見るとクレイスがキョロキョロしている。丁度後ろががら空きだった。

「ラッキー!」

フィアはスナイパーライフルのフィットストックをサッと下ろし、一瞬で滑り込むように狙撃の体制になる。

「おやすみ!」これは外さないだろう。

何せ相手にはこちらが分かっていない。

…と思っていたのだが。

撃った弾はまた外れた。

相手の銃弾が飛んでくる…。

「ひいっ…ごめんなさいぃ!」

フィアは涙目になりながら慌てて近くのビルに飛び移って逃げる。

ここまで駄目なら、【あそこ】を使うしかない。フィアには最終手段としてとってある秘密の場所があった。

…そこにたどり着ければ、勝てる!

フィアはそう心の中で叫んだ。

【続く】


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