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第十ニ話「キャンパスに隠れる その1」

美術国クラシスに着いたのは次の日の朝だった。因みにクレイスもメイリルも一睡も出来ていない。

林の茂みに小型犬サイズのエネミーが結構な数放されているのだ。

たちの悪いことに寝るまで遠くで待ち伏せ、寝かけた所で集団で襲ってくるのでクレイスは愚か、戦闘になればメイリルも寝てはいられない。

「スリープハンター…だそうよ…」

フラフラになりながらメイリルが看板を見つけてそれに掴まった。

【小型敵スリープハンター出没!野宿禁止!貴方の命は貴方が管理しましょう!】

看板にはそう書いてある。

「敵…ってエネミーのことだよな」

「面倒な時代になったわね…。」

「だな…早く行こう…。」

お陰で思うように徒歩で街に行けず、かなり遠回りをするコースを取っている。

メイリルは髪と同じピンク色のフード付ジャンパーを着て髪はボサボサ、とてもアイドルには見えない…。

しかしそんな姿になっても、スッとした綺麗な顔立ちは変わらなかった。

やはり人の持って生まれた美貌というのはどんなことがあっても変わらない物だな。とクレイスは思った。

「早くお風呂に入りたいわ…」

「…飯が先じゃないのか…」

「貴方も女の子になったら分かるわ…」

暫く歩くと、ようやく街道に出た。

石畳が綺麗に敷かれ、所々に様々な塗装の石が混じっている不思議な雰囲気の街道だった。

…さすが美術国クラシスと言われるだけはあるな…

「やったー…!」メイリルが座り込む。「あとちょっとー…。」

「…歩けるか?」クレイスはメイリルの手を取って立ち上がらせた。

「…ありがと、まだ行けるわ」

メイリルの手を引きながら数分間歩くと、ようやくクラシスに着いた。

クラシスは美術国の名の通り、とても美術に力を入れた街だ。

元々王政だった時期に国王が街のあちこちに石像や噴水を作らせたのが始まりだ。

至るところに美術館が配置され、街には石像の類いはもちろん、大小様々な芸術的な作品が散りばめられていた。

気候は温暖な場所で、そろそろ夏場だ。

とても蒸し暑くなるらしい…。

「夜通し歩いて疲れたんだ…悪いがすぐ眠れる用意をしてほしいんだが」

始めに目についたホテルに駆け込み、クレイスはチェックインを済ませた。

部屋に駆け込み、ベッドに倒れ込む。

「ふう…」

「あ…あの、クレイス?」

おずおずとメイリルが声をかけてくる。

「どうした」「…えと…一緒なの…?」

そういえばいつもの癖で部屋を一つしか頼んでいなかったことに気づく。

「宿代もかさむし、仕方がないだろう」

「いや…でも…」

「レイノアとはずっと同じ部屋だったからな…つい癖で…すまん」

突然メイリルが更に赤くなる。

「べ…別に嫌な訳じゃ…」

「なら良いんだが」「…っ!」

ベッドに横になることでようやく冷静な心が戻ってくる…そしてクレイスはこの部屋の違和感に気づいた。

「…!」驚きでベッドがら飛び上がる。

「え…ちょ何…何よ!?」

「血の臭いがする」「…!?」

メイリルは真剣な顔になって光剣に手をかける。二人であちこちを調べた。

怪しいものは何もない。だが、掃除してもほんの何時間か前、ここで誰かの命が断たれたような…いわば死臭がするのだ。

「窓ガラスが張り替えてあるな…向かいはビルか…今、感じられる気配はないが」

「…部屋、変えた方がいいわよ…?」

「いや、これはホテル側からしたらまずい事実だ。ここで人が死んだ事実を隠すために俺達が消される可能性もある。」

「じ、じゃあこの気味の悪い部屋で寝泊まりしなきゃいけないわけ?…最悪…」

突然、部屋のドアをノックする音。

「誰だ!」クレイスは声を張り上げた。

「ワシじゃ」「クレイス!俺様だよ」

扉を開けると甲冑に身を包んだ男と、東方の着物姿の琥珀の髪の女の子が現れた。

「ロバートにイーリスか…」

「知り合い?」「仲間だ」

「お互い生きてて何よりだな!あれ、レイノアちゃんイメチェンした?」

「な…背もクレイス程有るではないか」

二人は部屋の中にいたメイリルに気づくと、躊躇いもせず部屋に入っていった。

「ロビーでくつろいでたらお前の顔が見えたからさ、部屋を訊いて来たんだよ」

ロバートがそう言う。

「丁度いい…お前達の力を借りたい」

クレイスは今までの事を話した。

「なんと…レイノアが…」

イーリスは少し考え込むように言った。

「リヴィ・ノ基地か…俺様達が加わっても4人だろ?単純に全力で突っ込んだとしてもあんまり勝算はないと思うぜ?」

ロバートはお手上げだとばかりに両手をあげる仕草をした。

「ソフトとも今は連絡が取れないしな」

しみじみとクレイスは言った。

「で、そこの女の子は何使いなんだ?」

ロバートがメイリルを指差した。

「自己紹介するわ、私はメイリルよ。ちょっと訳あってクレイスに同行してるわ。一応光剣を使ってるけど、親が武術家だったから銃は使えないわ」

「へぇ、俺様と同じだね」ロバートは自分の左手についた盾を見せる「俺様はロバートだ。見ての通り盾と長剣使い。君と同じく銃は得意じゃない…ってことにしておこうかな?」

「ワシはイーリスじゃ。爆発物の扱いは任せておくのじゃ。」イーリスはそう言うと懐から携帯端末を取り出した。「ワシは古いツテも使って人を集めてみようかの」

「助かる。俺は装備を揃えてくる」

「俺様は?」ロバートが部屋を出ようとするクレイスについてきた。

「この部屋、少し血の臭いがする…悪いがメイリルを頼む…メイリルは今のうちに風呂と睡眠を終わらせておけ。人が集まり次第出発するからな」

「わかったわ…浴場はどこかしら?」

「ワシが教えよう。ロバート、後頼む」

「ちょ、お前電話コール中に回すなよ…もしもし!あ、すいません忙しい所…」

クレイスは部屋を後にした。

あの二人は、自分達を置いていって一人逃げ去った俺を、まだリーダーとして見ていてくれている。

黒いトカゲが現れた時のようなことは、もう二度と起こしてはならない。

…必ずレイノアを見つけて帰る…!

これはクレイスが部屋に入る数時間前の話である…。

「よし、これでのんびり出来るな!」

彼は少しは名の知れた殺し屋だった。

マドゥル・シャンペンから汽車に乗り、クラシスで賞金稼ぎの支部の奇襲を考えていた。場所は調べがついてる。

ただ…クラシスの支部には実は殺し屋にして賞金稼ぎをやってる凄腕のスナイパーがいると言う話だ。

誰も姿を見たことがなく、深入りした場合命の保証はない。

「…まぁ、スナイパーなら不意討ち出来るだろうな。そいつが店に入った所で…」

ズドン。

男は地面に倒れて動かなくなった。

頭が潰れ、その上に割れた窓ガラスが降りかかる。

「どうしまし…うっ!」

ホテルマンの一人が死体に気づいた。

…まただ。

このホテルに異動になってからずっと、身元不確かな客がこの部屋で狙撃される。

身元不確かなので死体は片付ければいいし、ホテルの評判も落としたくはない。

幸い狙撃の時間は人が騒ぎ出したり完全に寝ている時間…客にはガス菅の温度変化による音だとそれらしい説明をしている。

なるべくこの部屋の周囲は人を入れないようにもしている。お陰で変な噂は立たなくなったのだが…。

「向かいのビルから狙撃か…」

にしても、大通り一つ挟む程の超遠距離での狙撃である。

「一体誰が…」日が登り始める時間帯、窓の外には人はいなく、ただ一人キャンバスを持って日の出の絵を描きにいく小柄な画家が一人見えただけだった。

露店の多い通りをクレイスは歩いていた

「この俺が…迷子…だと…」

はっきり言ってクラシスは案内人無しでは必ずといって迷子になる場所である。

露店をいくつかひやかしつつ、宿への道を聞き出しながらクレイスは歩いた。

しばらくして通信機が鳴り出す。

「おういクレイス?昼飯どうする?」

ロバートからだった。

「予想よりいい装備が見当たらないからな…俺は何とかするからメイリルを連れて食べていてくれないか?」

「了解、夜までには戻ってこいよな」

そうして通信を終える。

「あ、あの…」後ろから小さな声がした「す、すみません…」

「ん?」振り返ると葉っぱの塊…いや、葉に見立てた緑色の鉄板を鱗状に束ねて作った鎖かたびらにも見える服に水色のセミロングの髪、目は深い緑をしたレイノアぐらいの背丈の女の子がいた。

「えっと」うす緑色のバルーンハットにそれと同じ色のマントを着ている。

「すまん、邪魔だったか?」

レイノアがいないからか、それとも彼女の少し変わった服装に目を奪われたか、クレイスは彼女を舐めるように見ていた自分を撃ち殺したい気持ちになった。

「じ、邪魔ではないです!そんな滅相もない!むしろ邪魔なのは私のほう…」

「なら…道に迷ったのか?」

目線を合わせようと思い、クレイスは身を屈めて少女を見つめた。よく見ると右腕にキャンバスを抱えている。

「えっと…あの…ふ…ふぇ…」

少女はだんだん涙目になっていった。

「お…おい待て!泣くな!落ち着け!」

クレイスは少女の肩に両手を置く。

少女はやがて深呼吸を始めた。

「絵を描いていいですきゃブッ…」

…舌噛んだな…今…

俯き口を押さえながらポロポロ涙を流す少しおかしな少女はどうやら画家らしい。

近くに公園があったので冷たい飲み物を近くで買い、そこのベンチに座った。

「…良かったです、貴方が良い人で」

「絵を書きたいって言ってたな…と言うことは俺の絵を…?」

「えぇ。なんか全身真っ黒でとても格好よかったので!」

「そ、そうか…?」

クレイスは少し照れた。この服装を格好良いと言ってくれた人は彼女が始めてだ。

「えぇ!一見するとセンスもヘッタクレも無いです…がよくよく見ると胸元の小さなボタンとか、なんかジジ臭い帽子とかも全体的に見ていて格好良いと思える不思議…あれ、どうしました」

クレイスは地面に突っ伏しショックをひたすら耐えていた…。

「お前な…」「?」

彼女は首をかしげた。その仕草がレイノアに重なる。クレイスはため息をついた。

「あ、自己紹介がまだでした!」彼女はにっこり笑う。「私、フィア・ローザです!画家をやってます!」

「俺はクレイス」クレイスは左のホルスターから手をそっと離した。フィアというこの少女からは殺意が感じられない。

ただ…多少の違和感があった。

ただの画家が、どうしてこんな季節に金属製の鎧を着ているのか。鎧自体には袖が無いが、マントの形状は、かなり戦場に関わった物が着ている物だ。

…親が兵士だったんだろうか…。

まぁこのご時世、鎧を着ている人なんて大して珍しいことでは無いのだが…

「よし、では、あの、描いても?」

フィアがパレットとキャンバスを持って言った。パレットは緑色に塗装…いや…

「…そのパレット…」

パレットにはかなりカラフルな【緑】だらけの色が作られていた。黄緑から抹茶まで、とことんまで緑である。

…大丈夫なんだろうか…

「じゃあ、描きますねー。多少は動いても大丈夫ですー。座っている絵は描かないので…そのままゆっくりしていて下さい」

…俺は何か勘違いしてたな…

レイノアと一緒に居たからだ。よくよく考えろ、彼女はただの子供じゃないか。

「…フィア、お前いくつなんだ?」

「歳です?私は12年生きてますよー」

クレイスは更に訊いてみた。

「親は兵士だったのか?」

「え?」

「お前のマントだ。ポケットの位置や形から言って多分射手用の…」

「よく分かりましたね。えぇ、前の大戦の時、クラシスの最高のスナイパーだったと聞いています…もう居ませんが…」

「…悪い、悪い事をを聞いたな」

「いえいえ、クレイスさんはとても良い人です」フィアはキャンバスを睨みながら言う。「絵は…ずっと残りますから、是非持ち帰って下さい。拙い腕ですが…」

「一生懸命描いているんだ。きっと良いものが出来る」クレイスは空を見上げた。


完成した絵は写真のようだった。

森の中でクレイスが立って両手を上げ笑っている。絵の題名は【再開】。

クレイスはレイノアのことを思いながら、その絵を受け取った。

【続く】


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