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第十話「フローティングラインI」

…ただ無言で列車に揺られていた。

向かいにレイノアが俯いて座っている。

「…朝になったな」

何時間か動かしていない口を開いた。

それにビクッとレイノアが反応する。

「そ…そうだね!」そう言いレイノアは無理に笑顔を作ろうとしていた。

乗り込んだ始発列車はそれでも何故か人が乗っていた。多少高い個室を用意させ、クレイスとレイノアは座っていた。

「…朝飯は…携帯食料にしよう…」

「そうだね…」

二人はその後、食べ終わるまで一言も話さなかった。

「…え?」メイリルは目の前の光景が信じられなかった。

ラウルが死んだ。

私の目の前で。銃に撃たれて。

「オラ伏せろ!手を頭の後ろに組め!大人しくしてりゃ長生き出来るぜ!」

中型の機関銃で武装した、3、4人のグループが食堂を襲っていた。

「なんだよ、趣味悪いイベントだな…」

ズドン。

そう言った乗客の頭が飛んだ。

いや、正確には弾けた。

気絶する者、叫ぶ者、大人しく地面にうずくまり震えている者…。

「悪いな、お前たちの人生最後の、面白いイベントさ」

乗客を撃った男が言った。

そして次の瞬間に男たちは散開し、銃で脅しながら乗客を縛っていく…。

メイリルは舞台裏に逃げた。

今なら逃げられるかも知れない。

男たちは後方の車両から現れた。

ならば直感だが先頭車両付近にいる特殊な個室の使用者…そこに重要人物が乗っているならこのことを知らせて…

場合によっては保護してくれるかも…

ともかく先頭車両へ行こう…

「お…お前らサニィちゃんをどこにやった!サニィちゃんをどうする気だ!」

メイリルがもし今銃を持っていたら、今叫んだファンの馬鹿を撃っていただろう。

…余計なことを…っ…!

サニィとはメイリルの芸名である…。

「は?サニィちゃんだと?」

「そうか、お前らサニィちゃんが目的だったのか!なら何故こんなことを!争いは愛しか生まないんだぞ!」

(やめてぇぇぇ!!)

あんたは恥じらいなく言ってるでしょうが、こっちは死ぬほど恥ずかしいから!

ともあれ上手く気を引いてくれたようで、ひとまずこっそり食堂車両を抜けてドアを閉めた。…ため息がこぼれる。

だが…

「おい、今あのドアから誰か…」

「…!!!」

メイリルは走り出した。

最悪この列車を止めないといけない。

もう少しで湖の上を通る道に入ってしまう…そうなったら逃げられない!

「待ちやがれ!」

今いる4両目のドアが開き、男が二人メイリルに向けて機関銃を発砲した。

丁度3両目へのドアを使って防ぐ。

ガラスが割れ、腕から血が出たが、命があるだけまだ良い。

こう見えてメイリルの両親は格闘家だ。

足には自信がある。

3両目を駆け抜け、怪訝そうに見る乗客を尻目に走った。

乗客には悪いが、気を反らさせたら私が助かるんだ。

「死んでたまるか…っ!」2両目への扉を開き、一瞬外の風を浴びる。

そしてまた列車の中へ。

今は2両目。ここだ!

一瞬油断して足を止めた。

ズガガガ!

ガラスを貫通して左肩に銃弾を受ける。

「うあっ…」

でもまだ諦めない…私は…。

「捕まえたぜ!」「あっ…!」

男がにやつきながらメイリルを押し倒す。メイリルが暴れると舌打ちして、機関銃を背中に押し当てた。

さっきまで長時間発砲していたのか…銃口は熱されていて、押し付けられたメイリルの背中を容赦なく焼いていく…。

「ああぁぁぁ!!」

「ひひっ…コイツ背中貫通しそうだな…おもしれぇからやってみるか…なっ!」

「いやぁぁっあ!うあぁぁ…!」

…駄目だ…諦めちゃ駄目だっ!

「…ぐぅおっ!?」

メイリルは回し蹴りを相手に食らわせ、

相手から機関銃を奪った。

「このっ…死ね…っ!」

メイリルは引き金を引こうとした。

だが固くて引けなかった。

その瞬間に男に蹴りを入れられる。

「きゃあっ!」

「お前が死ね」男が銃を拾う。

そして機関銃の横のレバーを引いた。

…あぁ…そうやって使うんだ…

ドォン…

メイリルは目をつむった…痛みはない。

「あ…が…」男の絞り出すような声。

それと一瞬にドサッと倒れるような音。

「…え?」

メイリルは恐る恐る目を開ける。

目の前に血の水溜まりが出来ていた。

「ひっ……人殺し…?」思わず尻餅をついたまま後退りをする。

「あぁ、今殺したのは人殺しだったな」

後ろから声が聞こえた。

振り向くと黒づくめの長い光沢のあるコートに身を包んだ男が立っていた。

髪は灰色で、多少傷のある黒いカウボーイハットを被っている。

右手には大きな銃が握られ、今しがた撃ったばかりのように硝煙が…。

いや、あの男を彼が撃ったのだ。

吸い込まれそうな黒い瞳に冷酷な光をたたえながら黒い彼は…私に銃を向けた。

「え…あれ…?」

え?なんで…私何かしたかしら?

「クレイス…その娘は私には被害者に見えるんだけど…目が腐ったのかな?それとも脳ミソがスープになったのかな?」呆れたような顔をして彼の背後からハイジャック犯たちより一回り小さな機関銃を持った小さな少女が現れた。

髪は漆黒で、白い病弱そうな肌に血を落としたような赤い瞳。

黒い胸当てのついたネグリジェのような不思議な服を纏い、クレイスと呼んだ彼の横腹を指でつついた。

「…いや待てレイノア…!芸能人というのはなかなか大きな情報網を持っている。コイツを生かしたら俺たちの場所が筒抜けになるに違いない…!」

「ま…待ってよ!貴方達私を…」

「助けに来たよ」と少女が笑い。

「殺しに来た」と男が銃を向けた。

「…うっ…」メイリルは軽やかな身のこなしで死んだ男の機関銃を構えた。「た…只じゃ死なないからっ…!来なさい!」

「…」クレイスは右の銃を発砲した。

「きゃ…」腕に衝撃を感じメイリルは思わず機関銃を手から離した。

再び銃を向けられ、尻餅をつく。

「さて…悪く思うな…よ…?」

「うぅ…こんなの…嘘よ…」メイリルは涙が出てきた。

「うっ…」クレイスは頭を抱えた。「駄目だ…まさか同年代でもこうとは…」

「クレイス…」レイノアが呆れたような目でクレイスを睨む。「…変態」

「いや待て!誰だって女の子が目の前で泣いていたら躊躇しないか!?これは俺に限った話ではない筈だ!?」

「あ…れ?」メイリルは顔をあげた。

…助かった…の?

「始めっからこうしてればよかったんだよ…」レイノアがクレイスをつついた。

「…言うなレイノア。俺は自分の殺され方が今容易に予測できるぞ…」

クレイスはため息をついて背後にいるレイノアと、その隣で機関銃を持った少女を見つめた。

「…貴方達は…一体何者なのよ?」

メイリルがクレイスを上目遣いに見る。

「俺達は殺し屋だ」クレイスは二人に向き直って言う。「今はとある事情で帝国から追われている身だが…」

「再度突入するからメンバー募集中!…ってとこかな!」レイノアが笑う。

「…おい待て、誰もそんなことは…」

「え?帝国に…再突入って…まさか…」

メイリルが眉をひくつかせた。

「そ!私達は国際指名手配の【デュアル・レイ】なのでした!」

「…っ!知られたからには…」

クレイスはメイリルに銃を向ける。

「いいから生かしなさいよ!」

メイリルはクレイスの銃を片手で払いのけ、瞬時に眉間にチョップを浴びせた。

「…ぐはっ!…何だと…!?」

「…で、これからどうする?」

レイノアが首を傾げた。

「確か機関室に俺の知り合いがいたな」

クレイスは銃をしまいながら言う。

「…嫌な予感しかしないわね…」

メイリルは機関銃を構えながらやれやれといった仕草をした。

「…まぁ、マトモじゃない奴だと言うことは保証しよう」

クレイスはそう言いながら先頭車両へ足を進めていく。途中、特別室の前にガードマンが立っていた。レイノアがクレイスの陰に隠れる。

「この先には進めんぞ」ガードマンはクレイスよりも高い背丈で、通路を塞いだ。

「機関室にいる車掌に直ぐにでもこの電車を止めるよう言ってくれ」

クレイスは男を見上げて言う。

「どういうことだ」男は眉をひそめた。

「どうもこうも、機関銃を持った連中が食堂車からハイジャックを始めたのよ!」

メイリルがガードマンに訴えた。

「なに…分かった、暫し待て」ガードマンはさっと扉を開けて個室に入る。しばらくして中から声が聞こえた。

「私は旦那様を守る仕事がある。君達は先に機関室に向かっていてくれ!」

「…分かった、恩に着る」

クレイスはそう言うと走り出した。

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」慌ててメイリルが追いかける。「そういえば、レイノアが居ないんだけど!?」

「先に行ってくれている」

「いつの間に…」メイリルは苦笑する。

長く感じた通路を抜け、機関室に到着。

「クレイス!メイちゃん!無事!?」

機関室に入るとレイノアと合流出来た。

「メイちゃんって…」

「あぁ。ドレッドはいたか?」クレイスはレイノアの隣にいる人物に気がついた。

せっせと釜に石炭を入れる白い車掌服の若い男…。

「やあ、クレイス、久しぶりだねー」

石炭を入れながら男は口を開いた。

「…車掌の仕事は儲かるのか?」

「いやいや、ただの移動手段だよー。乗客と違って乗ればお金入るしー事故らせればそれはそれで楽しいしー」

「紹介する。殺し屋仲間のドレッドだ」

クレイスはメイリルの方を振り返る。

「…普通の車掌にしか見えないわね…言動以外は」

「彼は前の帝国突入時地図を書いていてな、ここの地図も当然…」

「あるよー」ドレッドはレイノアにポケットから取り出した紙の束を渡す。

「ありがとう!ドレッドさんはいい人だね!」レイノアはドレッドに笑いかけた。

「いやいやー。クレイスは性懲りもなくまた帝国に挑もうとしてるのかな?」

「…まぁ、今は逃げ続けられてはいるが…正直この逃亡生活も飽きてきたしな…」

「今の構成メンバーはー?」ドレッドはニコニコとクレイスに笑みを見せた。

「残念ながら十人といない。…合流したり、再編成する必要があってな…」

「ふーん…」ドレッドは石炭の方に視点を移す。「まぁ、結構死んだもんねー…」

クレイスはギリッと歯軋りをした。

「…仲間の手によってな」

「え?クレイス、何?」

レイノアがクレイスを心配そうに見る。

「なんでもない」

「話を戻そうかー」ドレッドは相変わらずのニコニコ顔で話す。「実はこの電車ねー、地下部分があってねー…そこで帝国の物資とか、運んでるみたいなんだよー」

「それってつまり、イルノイア研究街からクラシスへの軍事支援…ってこと?」

レイノアが首をかしげる。

「リヴィ・ノ基地に向けての支援かも」

そう言ったのはメイリルだ。

「…確かにクラシス共和国の近くには帝国の軍事拠点リヴィ・ノ基地があるな。」

「アイドルのお嬢さん、物知りだねー。あまり物知りだと…死んじゃうかもよ?」

「…っ…!」メイリルが後ずさった。

「…よし、地下に行こう」クレイスが提案する。「地下で帝国の軍事物資を強奪、兵装を整えた上でハイジャック犯を潰す」

「了解っ!」レイノアが敬礼した。

「りょ、了解」メイリルもつられる。

…微笑ましく思うのは俺だけか…?

「機関室は俺に任せていいよー」

ドレッドがサブマシンガン片手に言う。

「入り口は…!」クレイスが訊く。

「地下へはあそこからー」

ドレッドが指差した先にはマンホールのような蓋があった。

「ね、ねえ!」メイリルが呼び止めた。

「…どうした」

「列車は止めなくていいの?このままだと湖を横断するコースよ!?」

「いや、あえて走行させよう」クレイスは蓋を開けながら言う。「俺達の今の目的は帝国から逃げる…クラシスに行くことだ。列車が止まると困る」

「一般市民が危険に晒されてるのよ?」

メイリルは抗議した。

その瞬間に銃を向けられる。

レイノアにだった。

「顔も知らない市民さんはどうでもいいの。」レイノアは無表情で言う「私達は逃げてるの。怖かったらドレッドと一緒にいた方がいいよ?」

「…わかったわ」

メイリルは渋々了解した。

【続く】


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