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ロバート・ダドリー

その場を目撃したのは偶然だった。

柱の影から伺い見る小さなそれに、誰一人として気付いていない。


「忌地人がっ……」

「こいつ、見習いの癖に出しゃばって治癒師派遣に行ったらしいぜ」

「しかも、失敗して集落全滅とかwww」


教会の歳若い下級聖職者達が、ルトを取り囲むように壁際に追い詰めていた。ロバート・ダドリーとその取り巻き3人だ。3人の少年の間を抜けて、ロバート・ダドリーがルトに詰め寄り、背にした壁にドンっと手を突くと、柱の影に潜んだ白猫が「か、壁どん……」と意味不明な呟きと共に悶えていた。


「貴様が行かなければ、その村は助かったのではないのか?それとも、さすが凶兆を運ぶ忌地人ということか。病魔を運ぶ前にこの国から消えろ!そうだ、国へ帰ればいい。まあ、その国も汚染で人が住める状態ではないらしいが、どうせ貴様も汚染された身だ、大丈夫だろう」


口元には薄い笑みを浮かべ、然も優しい紳士の様に語るダドリー口から出た言葉に白猫が飛び出そうとした瞬間、いつの間にか後ろから延びた白い腕が猫を絡めとった。左腕に猫を抱き上げ、右の人差し指を口元に当てて微笑む男は、猫にさえ気付かせずに忍び寄り様子を見守っていたのだ。

どんなの化け物だよ!と驚愕する白猫を余所に、その男はサラリと流れ落ちた3色の色紐を優美な所作で肩へ払った。

眼前では小柄なルトが、自身より体の大きな相手に取り囲まれている。

その様子は、あたかも肉食獣から逃げようと、必死に目を逸らしてカタカタと震える小動物のようだった。


「(止めないの?)」

「(止めていいのですか?…ルトも何時までもやられっ放しではいけないでしょう)」


そう言いのけた男だか、その身体から漏れ出る冷気のような怒気は親馬鹿さを隠してはいない。


「……ご、ごめ…」

「……ッチ」

「ぷぷぷっwww」

「死んだ人間は帰ってこないしねー」

「貴様のそれは何に対しての謝罪だ?役立たずだって事か?それともこの国に(まが)を運んできたことか?」


益々小さくなったルトと、声を大きく攻め立てる4人。

竜禍の浄化で多少の自信をつけたのでは?と期待した眉目秀麗な後見人だったが、気の弱いルトは言い返すどころか震える子栗鼠のようだ。


――ここまでか


助勢に出ようかと1人と1匹が思い巡らせていると、聞き逃してしまいそうな小さな声がそれを押し止めた。


「……め…んなさい。皆を助けられ…なくて」

「あ?」

「……も、もっとちゃんと祈りが届くように、れ、練習するから。ちゃんと皆助けるから」


加護持ちの能力とは生来のモノである。世に生れ落ちた瞬間に加護の強さが決まるのだが、元の素質が影響するものの、訓練次第である程度その才を伸ばすことが可能であった。

無知なまま加護を行使してもある程度の治癒は可能だ。ところが、病状や怪我の状態を正しく理解し、明確なイメージをもって力を使った場合の方が格段に効果は高いのだ。その為、神殿では様々な事例を知識として学び、また先輩達からの導きによってその能力を伸ばしている。

しかし、加護で死人が息を吹き返すわけではない。幾ら加護の力が強くなろうと、それだけは不可能なのだ。まして、山村での事件は竜禍である。治癒以上に難しく、術者には大きな負担がかかる。

ルトはまじめな生徒だ。これらを理解していない筈がない。


「お前……」

「あれらは手遅れでした」


ダドリーの声を遮って突如現れた主教の姿に、少年達は気まずそうに視線を逸らす。


「……アスィール主教様」


ダドリーがルトから身を離すと、周囲の少年たちもそれに習い一歩後ろへ下がった。

前へ進み出た〈ティタの至宝〉は、強い語気で言葉を紡ぐ。


「あれらは手遅れでした。私にも、聖座にも助けることは叶わなかった」

「…………」

「ルト、我々は確かに癒し助ける。だが、すべての人を助けることはできない」

「……は…い」

「それでも、お前が助けとなった命があっただろう?私はそれを評価しているし、我が養い子を誇りにしているよ」


俯いていた碧の瞳がその紫を捉える。信を問うような面持ちのルトに、アスィールは笑みで答えた。


「……さて、今回の案件について何か誤解があったようですね」


くるりと振り返ったアスィールが4人へ視線を向けると、あからさまな動揺を見せた3人の若者が言葉に詰まる中、ただ一人ロバート・ダドリーは落ち着いた様子で一礼する。


「確か、ダドリー伯爵家の」

「はい。侍者のロバート・ダドリーです」

「最近お見かけしませんが、祖母君様は息災ですか?」


敬虔な信徒としてよく礼拝に来ていた白髪のご婦人の優しげな面差しを思い起こし、目の前の少年にその面影を重ねた。


「はい……風邪で外出を控えておりますが、毎日の様に手紙が届きます」

「……お歳ですからね。大事に至らなければ良いのですが」

「ティタの至宝と名高い主教様に心配頂いたと聞けば、祖母もすぐ良くなるでしょう」


アスィールの腕に抱かれたままだった白猫が、何故かビクリと身体を強張らせた。


「とはいえ心配でしょう。お屋敷へ伺っても構わなければ、すぐにでも治癒できるのですが」

「えっ? ……よ、宜しいのですか?」


さすがのダドリーもこの提案には驚愕する。

王族でもない一介の貴族が、軽い風邪程度でルルドの主教クラスを自宅へ呼んで治癒するなど前代未聞である。

だが〈ティタの至宝〉とのコネがあると知れれば、自身の経歴に箔がつき、さらに実家の評判にも繋がるだろう。何より、これまで自分を無能扱いしてきた長兄に恩が売れるまたとないチャンスだと、瞬時に様々な利を予測した。


「しゅ…主教様、本当に宜しいのでしょうか?」

「ええ、彼女は敬虔な信徒さんです。急にぱたりと姿が見えなくなり、私も気がかりでしたから」


主教の言葉を得て、内心ガッツポーズを決めているであろうダドリーが「是非に」と頭を下げた。


「では、早々にルトをお屋敷へ向かわせましょう」


満面の笑みでそう答えるアスィールの腕に白猫が噛み付いた。


「…えっ?えっ??……あの、主教様……」


一同が困惑する中、一人話を進めるアスィール。


「主教である私が出向くことは問題ですが、幸いルトはまだ見習いです。ああ、祖母君様には私から一筆したためておきましょう。ルト、明日にでも前触れを出しますから、ダドリー侍者に案内して頂きなさい。では、ダドリー侍者、ルトをよろしく願います」


ポカンと呆けているルトと、思惑がトンでもない方向に向かってしまったダドリー。

「いえ、あの、その」とダドリーが果敢にも軌道修正を試みるが、主教であるアスィールに強引に押し切られる事となった。







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