↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/6

未来を描くキャンバス

 空洞山遺跡。


 とある山にトンネルを掘っていたところ発見された、超巨大な遺跡である。


 発掘の結果、元々ここに山はなく、最初に遺跡があった。


 長い年月を経て、度重なる火山灰の蓄積により遺跡の上に山が出来上がったのが真相であった。


 すでに発掘や調査は終わっているが、それでも歴史ある遺跡に変わりはない。


 だがその遺跡の価値もわからないテロリストたちは、最後の拠点として陣取っていた。


 彼らの顔色はとても悪い。つい先日、大願成就の大成功を果たしたはずだった。


 人生一発大逆転の花火を打ち上げたはずだった。


 グランドマスターメイジを捕らえ、マスターメイジ三人を討ち取ったはずだった。

 魔剣を奪い、ゴウフェンリルを支配し、多くのマジックアイテムや資源を独占したはずだった。


 はずだった、ではない。それを成し遂げたのだ。


 だが一番弱いはずの序列五位サムソンが生き残った。

 奴は各地の同志たちを殺して回り、ついに残ったのはここだけになってしまった。


 一番後回しになったことは、幸運、ではあったのかもしれない。

 だが絶望しきってから、もう絶対にここに来るという段階になってしまったことは不運だった。


 実際には、そもそも犯行に及ばなければこんなことにならないので、不運ではなく選択の結果でしかないのだが、そんなことを彼らが考えるはずがない。


 テロの参加者である低位の魔法使いたちは、『ボス』の指示通りに遺跡前にバリケードを構築し、そこで籠城の構えを取っている。

 最善ではあるのだろう。だがこの程度の作戦で勝てないことはわかり切っている。相手がマスターメイジなのだから、コレは作戦にもなっていない。

 鼠用の罠で象に対抗しようとするようなものだ。


「ボスのアレはまだ終わってねえのか?」


「そろそろ、そろそろのはずなんだ……はずなんだよ! ちくしょう!」


「早く終わってくれ、早く……!」

 

 象に対抗する策が完成するという希望はある。

 だがそれが間に合わなければ意味がない。


 時間稼ぎをするのが自分たちの役目ではあるのだが、それができないこともわかっているわけで……。


「……来やがった!」


 はるか遠くから、黄金のオーラを立ち上らせる男が近づいてきていた。


 人影は遠くから観る分には小さいのだが、その存在感は巨人を思わせる。


 希望が間に合わなかった。

 犯罪者の彼らに『最後まで役目をまっとうする』という誠実さがあるわけもない。

 持ち場を放棄して逃げ出そうとするか、両手を上げて降参するか、そのいずれかを選ぼうとした。


 だがそれはどちらも達成できなかった。


 速攻で勝負をつけるつもりのサムソンが、一気に跳躍してバリケードに衝突したからである。


 その衝撃波は黄金のオーラに守られたサムソン自身以外のあらゆるものを粉砕していった。


 鎧袖一触どころではない。

 もはや触れることも、一瞥すらも必要なかった。


 サムソンが通り過ぎるだけで、何もかもが粉砕される。


 犯罪者の予想通り。サムソンを相手にするには戦力が不足しすぎていたのだった。


 そしてサムソンは一瞥を向けることもなく前に進む。


 この入口の奥に、最悪が待っていることを確信しながら。


※


 空洞山遺跡。


 火山灰によって隠されていた、太古に栄えた文明の神殿である。


 レンガや加工された石を精緻に組んで作り上げた神殿は、悠久の時を越えて、火山灰に埋まってなお健在であった。


 その暗い遺跡の内部。


 最奥の祭壇に『彼』はいた。


 そのすぐそばには、年老いた老人の死体が転がっている。


 サムソンは無駄口をたたくことなく、祭壇の上の彼を確かめた。


 現グランドマスターメイジ、リガシーラその人である。


 歴代でも最年少の若さでその地位に就き、実力も歴代最強と誉れ高い。


 現在でも20という、若々しい青年であった。


 その周囲には錬金術の道具らしきケーブルや注射器、薬品などが散乱している。


 本来は高度で清潔な道具なのだろうが、置き方が雑すぎて不衛生に思えた。


 サムソンは軽く息を吐いてから、リガシーラの体を揺らす。


「……」


 サムソンは無言であった。


 ほどなくして、グランドマスターメイジ、リガシーラが目を覚ます。


 最初は祭壇の上で寝ていた彼も、ぼんやりと目を開けた。


「サムソン殿?」


「何が、サムソン殿、だ。ちょっとは緊張感を持て」


 まったく笑っていない目で、サムソンはリガシーラを叱る。


 リガシーラが体を起こす間も、ずっと説教をしていた。


「話は聞いたぞ。お前、人質を取られて、その交換条件として自分の体を差し出したらしいな? いくら何でもありえない。お前はもっとグランドマスターメイジとしての自覚を持て! 先生やクリテイツカなら間違ってもそんなことはしなかったぞ」


「む……私をグランドマスターメイジだと認めてくださるのに、末席の貴方が注意するのはおかしくないですか? それに私は間違ったことをしたとは思っていません!」


「ほざけ!」


 少しむっとした顔のリガシーラに対して、サムソンは怒鳴りつけた。


「今回のテロで、お前と俺様を除いて……マスターメイジが三人も殺されたんだぞ! 最高責任者であるお前が問題を感じなくてどうする! 結局、その下手人どもは全員俺が始末したんだぞ? 本当はそれをするのはお前のはずだろうが!」


「それは……返す言葉もありません」


 起き上がり、祭壇から降りたリガシーラは、視線を動かした。

 何かを探している様子である。


「コレは……!」


 老人の死体を見つけたリガシーラは、手から『光』の魔法を放った。


「光(ライト)……速射弾(カジュアル)!」


 一瞬のためもなく、超強力な弾丸が発射され、老人の死体は跡形もなく消え去る。その付近一帯もまた蒸発し、煙を発していた。


 グランドマスターメイジたる彼にとっては全く大したことではない。

 だがリガシーラは感動に震えており、それを隠している様子だった。


「コレが、今回のテロの首謀者です。どうやら私に何か外法を使おうとしたところ、死んでしまったようで……」


「そーか」


「この男のせいで多くの三人のマスターメイジが死んでしまったこと、サムソン殿に手を煩わせてしまったこと、申し訳なく思います」


「そーか」


「今度二度とこのようなことが無い様、精進します」


「何を言ってるんだ、お前」


 サムソンはもうどうでもいい、という顔で演技を辞めた。


「先生……皇帝陛下からの命令だ。お前はグランドマスターとしての職を辞し、死ね。つまり死刑だ」


「……は?」


「何を驚いているんだ。お前は知っているはずだろう。グランドマスターメイジだけじゃない、マスターメイジには『敵に捕まってはならない』という義務があると。まさか知らないとでも?」


「それは、もちろん、知って、います、が……」


「理由は覚えているか?」


「それは、その、寝起きで、頭が働かず……」


「封印された錬金術の禁忌に人格移植(アカウントハック)ってもんがある。簡単に言えば、相手に乗り移ってその体と魔法をすべて好きなように使えるようになる外法だ」


 リガシーラの体が、びくっと震えた。その顔は、好青年と程遠い、隠しきれない憎悪まみれであった。


「お前はその外法を使われている可能性がある。その時点でもう殺すしかない。わかるな? お前が模範的で立派なグランドマスターメイジなら、この命令に従えるはずだ。少なくとも『リガシーラ』は、そのことを覚悟でテロ組織に捕まったはずだ」


「……一つ、お伺いしたい。もしも私が死ねば、誰がグランドマスターメイジを務めるのですか?」


「法的に俺様がやることになる。だが何の問題もないだろう? お前や他のマスターメイジと違ってテロ組織を返り討ちにしているし、お前も救助しただろう。もちろん実績も新人のお前より上だ。誰も文句は言えないさ」


「……」


「さあ、エミュレートしてみろ。お前の考える立派なグランドマスターメイジを想像して、そのように受け答えして見せろ。できるもんならな」


 リガシーラは、頭を掻きむしった。


 彼は演技でも何でもなく、ありのままの自分をさらけ出す。


「そんなバカな話があるか! グランドマスターメイジをお前が務める!? 末席のお前が!? リガシーラを差し置いて!? ありえない!」


「あり得るだろうが、爺さん。お前なんぞに体を奪われた奴に、国家を背負えるわけがねえ。まして体を奪っただけのお前にな!」


 サムソンの全身から黄金のオーラがあふれ出す。


 リガシーラの体を乗っ取っている老人もまた、その体から光のオーラを発し始めた。


「まあ、国家を背負えるかどうかはともかく、国家転覆を成功させかけたことは認めてやるよ。お前の仲間たちは大したもんだった、そいつらに策と違法改造を与えたお前もまた大したもんだ。名前ぐらいは聞いてやるよ」


「何を言っている……リガシーラ(わたし)の名前はリガシーラ(いだいなえいゆう)だ!」


 サムソンは不意を突かれていた。


 驚いて、何も言えない。


「リガシーラ(わたし)は両親からリガシーラ(いだいなえいゆう)という名前を授かった! 星占いにおいて最高の日、最高の曜日、最高の時間に生まれた私に、両親は最高の名前を与えてくれた! お前はいずれ大成すると教えてくれた! リガシーラ(わたし)はそれを信じて生きてきた! それなのに、それなのに! 何も起きなかった! リガシーラ(わたし)の人生はリガシーラ(いだいなえいゆう)の人生ではなかった! そんなはずがないのに!」


 一人称単数が自分の名前である老人の圧に、サムソンをして何も言えなかった。


「老いていく中で、リガシーラ(わたし)ではないリガシーラ(いだいなえいゆう)の名を聞いた。最高の才能を持ち、不断の努力を経て、グランドマスターメイジに最年少に至ったリガシーラ(いだいなえいゆう)がいると! リガシーラ(わたし)と同じ最高の日、最高の曜日、最高の時間に生まれたリガシーラ(いだいなえいゆう)が現れたと! やはり占いは正しかった! なのに、なのに、なのに! なぜリガシーラ(わたし)はリガシーラ(いだいなえいゆう)じゃないんだ! 占いで同じ結果になる者同士なら、その人生も同じであるべきだ! いいや、いいや……同じ占いの結果がでるのなら、どっちでもいいじゃないか! リガシーラ(わたし)がグランドマスターメイジになってもいいはずだ! その権利があるはずだ!」


「……絶句だな。俺様は自分を結構な常識人だと思っていたが、それを人生で一番強く感じてるぜ」


「サムソン、サムソン! お前の名前、お前の生年月日は把握している! お前にグランドマスターメイジはふさわしくない! 人の運命は占いで決まっている! それに反するなど許されない! リガシーラ(わたし)が許さない! それではリガシーラ(わたし)が報われない!」


「人の運命は決まっている、ねえ……間違っているとは俺様も言えねえ。さすがにそこまで世間知らずでもないんでな。だが……爺さんの人生の運命は、俺様が決めてやるぜ」


「ほざけ! リガシーラ(わたし)のことはリガシーラ(いだいなえいゆう)と呼べ! 末席がふさわしい男風情が!」


 サムソンにとって、何一つ意外性のない戦いが始まった。


※


 空洞山遺跡が揺れ、崩れ始めた。


 内側から支えていたはずの遺跡が倒壊し、つぶれていったのである。


 悠久の時を越えて存続していたはずのものが崩れていく内側から、二人の大魔法使いが跳び出してきた。


「リガシーラ(わたし)はグランドマスターメイジだ! 部下たちとは違う! 純粋な格上に、お前のような雑魚マスターメイジが勝てるものか!」


「雑魚マスターメイジなんて聞いたことがねえ言葉を吐くなよ!」


「死ねえ!」


 テロリストのボスは全身から光を放つと一気に加速する。


 グランドマスターメイジから奪った魔法を十全に扱い、光る拳を叩き込む。


「光(ライト)、強化(ブースト)、コンボ! 弱当(イージー)!」


「強欲なる者への祝福(ゴールドローブ)、完全発動真絶対防御(インポッシブル)!」


 強化された拳が光を纏い、サムソンを襲う。サムソンは黄金のオーラで受け止めるが、しばらく拮抗状態に持ち込まれた。


「お前が使えるのは防壁(バリア)じゃないのか!?」


「ああ、本気の防御だ」


「そうか、それは面白い……!」


 ボスはいやらしく笑う。

 精悍な青年の顔が、邪悪にゆがむ。


 サムソンは嫌悪を隠せないが、一蹴できる相手でもなかった。


「何が面白いんだ!? 俺様は全然面白くないぜ」


「せっかくリガシーラ(わたし)に相応しい人生(からだ)を得たというのに、使う相手がいないのは悲しいだろう? お前の体でダメージチェックをしてやる!」


「俺様もお前相手には多くの魔法を使うことになるだろうが、楽しくはないぜ?」


 サムソンの周囲に、銅色の巨大な拳が展開される。


 一つ二つではない、一気に三十八も展開した。


「神像の大いなる拳(ブロンズフィスト)!」


 その拳をもって、サムソンは自分を殴りつけているボスを弾き飛ばす。


 距離が生まれるや否や、その手をすべて開き、弾幕を生み出した。


「全手開放衆生誅殺三十八掌(ルナティック)!」


 美しい弾幕の雨あられが、弾け飛ばされたボスへ……その周辺一帯を制圧する形で放たれる。


 ゴウフェンリルすら掃討した弾幕を前にしても、ボスは笑顔のままだった。


「光(ライト)、大量弾幕(ルーティンワーク)!」


 三十八からなる掌から放たれる弾幕を、己の発する大量の光で相殺していく。


 恐るべきことに、彼はそれを片手間で行っていた。


 もう片方の手では、さらなる攻撃の準備を行っている。


 光をためて、最大放出をしようとしていた。


「光(ライト)、強化(ブースト)、コンボ! 栄光弾道(レールウェイ)!」


 光の魔法そのものを強化し放たれた、超強力なる閃光。


 衆生誅殺三十八掌(ルナティック)の弾幕をものともせず突き進む姿は、さながら横綱相撲か。


 強い魔法を撃てるからそのまま打てば勝てるという最適解に、サムソンは赤い剣を構築して打ち払う。


「誰もが求める(マゼンタ)一振りの剣(ソード)!」


 最強の攻撃魔法の一閃が、自らも消えながら列車のような弾丸を切り払う。


 互いの攻撃が消えあった瞬間、双方が互いの姿を視認した。


 余裕のないサムソンの顔には汗が浮かび、ボスの顔には余裕だけがある。


「ふははは! ずいぶん粘るじゃないか、末席!」


 光の剣を構築し、再び間合いを詰めていく。


「光(ライト)、強化(ブースト)、コンボ! 心配御無用剣(ノープログレム)!」


「臨界刀身奈落送り(ノーフューチャー)!」


 光り輝く剣を、赤い剣が迎え撃つ。


 最強の攻撃魔法の臨界刀身は、その名に恥じぬ結果を出した。


 サムソンが打ち勝ち、光の剣は破られる。


 ボスは辛くも回避するが、それでもなお笑っていた。


「最強の防御魔法強欲なる者への祝福(ゴールドローブ)、最強の攻撃魔法誰もが求める(マゼンタ)一振りの剣(ソード)。どれも素晴らしい魔法だ、伝説の魔法だ。だが、それだけ高威力の魔法を連発していたら、さすがの君でも厳しいんじゃないのかな? 神像の大いなる拳(ブロンズフィスト)も内蔵している魔力が枯渇しかかっているのでは?」


 全力で魔法を行使し続けているサムソンは息が荒くなってきていた。

 だがそれでも解決策は存在する。


「心配無用だ……血河の湧き踊る屍の山《ブラッドレッドマウンテン》、架空数値海溝を満たすほどに(アビサル)!」


 サムソンの背後に巨大な屍の山が現れる。

 そこから湧き出る血のような魔力が、サムソンや三十八の掌へ注がれていった。


 消耗していた魔力が一気に回復し、サムソンの体調も良くなる。


 だがそれを見ても、ボスの余裕は消えなかった。


 自尊心の塊、自己中心的で利己主義な男は、この運命に感激を受けていた。



「素晴らしい……なんてすばらしい人生(からだ)だ! この体になってから、素晴らしいことしか起きていない! 強大な力を得て、それをぶつけられる相手がいるのだから!」



 異常な精神状態に思えるが、おかしくはない。


 歴代最強と謳われたグランドマスターメイジは、まだまだ底を見せていない。

 

「いやいや、君は素晴らしいよ。伝説の魔法を四つも持っているのだから! もしかして、他にもまだあるのかな? だが何の問題もない! リガシーラ(わたし)にもあるのだよ……攻撃魔法の中で最強だとか、防御魔法の中で最強だとかじゃない……純粋に最強の魔法があるのだ!」


 ボスの体が、緑色に輝き始めた。


 サムソンはそれを冷めた目で見ている。


 これこそ、現グランドマスターメイジが最強たるゆえん。

 先代であるクリテイツカに勝った力。



「最強の伝説の魔法……少年の蛮勇(スウィートグリーン)だ!」



 緑色のオーラは、彼の周囲から全く動かない。

 サムソンへ向かっていくことはなく、かといって何かを生み出しているようにも見えない。

 実体をもって術者を守っているようにも見えない。


 この魔法は、そういう類ではないのだ。


「どうして攻撃してくれないんだ? そうしてくれないと、リガシーラ(わたし)の真の力が発揮できないじゃないか」


「……」


「ああ、そうか。仲間だからこそ、部下だからこそ、この魔法の恐ろしさが、どうしようもなさがわかるのだね!」


「ちっ……衆生誅殺三十八掌(ルナティック)!」


「そうそう、そうしてくれないと困るんだよ!」


 三十八の掌から発射される弾幕の嵐。

 その中でボスは涼しげに棒立ちしていた。


 回避も防御も相殺もしていない。

 ただ立っているだけで、弾が一発も当たっていなかった。


「これだ……これだよ! はははは!」


 ありえないことが起きているのに、ボスはそれを受け入れていた。


 そのまま走り出し、三十八からなる掌を一つ一つ破壊していく。


「簡単だ! 余裕だ! 何の問題もない! 実にスムーズだ! 部下どもを簡単に倒したであろう弾が、当たりもしない! リガシーラ(わたし)には簡単なことだ!」


 一つ一つと、順番に破壊されていく掌。


 最初は膨大だった弾幕が、いつの間にか減っていき、完全になくなっていた。


「パーフェクトだ! コールドだ! なんてすばらしい実力だ! さあ、このまま……その山も破壊してやろう!」


「させるか!」


 サムソンは誰もが求める(マゼンタ)一振りの剣(ソード)の臨界刀身奈落送り(ノーフューチャー)で切りかかる。もちろん強欲なる者への祝福(ゴールドローブ)の完全発動真絶対防御(インポッシブル)も維持したままだ。


 無敵の防御力を持つ男が行う、当たれば体を切り裂かれるであろう斬撃を、やはりボスは回避しない。


 結果としてサムソンの攻撃は素振りに終わり、ボスは光り輝く拳で屍の山を破壊していた。


 それによりサムソンへの魔力供給も止まり、サムソンの体からはまたも汗が浮かび上がる。


「これだ……これが欲しかった! これがリガシーラ(わたし)の物になるべき魔法だった……少年の蛮勇(スウィートグリーン)の確定事象成るように成る(ピースオブケーキ)!」


 少年の蛮勇(スウィートグリーン)の効果は、わかりやすく言うと運が良くなることである。


 コインをトスすれば狙った面が出せる。

 六面サイコロだろうが百面サイコロだろうが狙った目が出せる。


 極まれば、弾幕の嵐であっても当たることは無く、逆に自分の攻撃はすべて成功する。


 最強の魔法と呼ぶことに、なんら違和感はないだろう。


「未来を選び、決める力。それがこの魔法……リガシーラ(わたし)に相応しい人生を選ぶ力だ」


「ずいぶんとご機嫌だな。もう勝ったつもりか? 俺様はまだ戦えるぜ」


 サムソンは自分の体の中から、無垢なる供物の群れ《ブラックサクリファイス》の道連れの山羊(エクストラ)と身代わりの羊(サバイバー)を同時に展開する。


 それを見て、ボスは驚くが余裕は消えなかった。


「無垢なる供物の群れ《ブラックサクリファイス》まで持っているのか? 凄い凄い、凄いじゃないか。ああ、凄い凄い。伝説の魔法を五つも持っているなんてねえ。だがそれで何をできると言うんだね? 回数制限のある蘇生と呪殺が使えるからと言って勝てるとでも? 使っても意味がないと知っているからこそ、君も今まで出さなかったんじゃないか?」


 伝説の魔法だからこそ、効果は広く知られている。


 サムソンの隠し札も、有効ではないと理解されてしまう。


 否、ここからどんな魔法を出されたとしても、もう負けるはずだない。


 これは思い上がりではなく、論理的な帰結だった。


「象徴魔法は一度破壊されるとしばらくの間再使用できない。つまり神像の大いなる拳(ブロンズフィスト)も血河の湧き踊る屍の山《ブラッドレッドマウンテン》も再発動できない。君の魔力は刻一刻と減っていく。そうなれば、強欲なる者への祝福(ゴールドローブ)も誰もが求める(マゼンタ)一振りの剣(ソード)も意味をなさない! 万が一にかけて、残り時間で勝つ気かね? この、未来を選ぶリガシーラ(いだいなえいゆう)を相手に!」


 少年の蛮勇(スウィートグリーン)の厄介なところはコレであった。


 格上が相手で、勝率が1パーセントだったとしても、それを絶対に引き当てられる。

 逆に万が一に負ける可能性があっても、それをなかったことにできる。


 この魔法を前にすれば、ゼロと百以外は意味をなさないのだ。


「お前は俺様の魔法を知った気になっているんだな。だが、こうも思わないか? そもそも勝てないことが分かっているのなら、お前さんを起こす前に殺すとか、他に仲間を呼ぶとか、そういう事をするはずだろ? 俺様はお前が体を乗っ取っていることを察していたんだからな」


「……何が言いたいのだ?」


「俺様は勝算があってここにいるんだよ」


「バカバカしい」


 ボスは白けた顔で小ばかにした。


 せっかく楽しんでいたのに、水を差された気分だった。


「そんなことは不可能だ。このリガシーラ(いだいなえいゆう)は絶対に誰にも負けない」


「どうかな? 俺様の無垢なる供物の群れ《ブラックサクリファイス》は、50,50の全百体までストックできる。だからこういうこともできる……」


 サムソンの周囲に浮かんでいた黒い羊、身代わりの羊(サバイバー)が一気に数を減らした。

 40近く、正しくは三十九の羊が消滅し、代わりにすべての神像の大いなる拳(ブロンズフィスト)と血河の湧き踊る屍の山《ブラッドレッドマウンテン》が再出現する。


 先ほど蹴散らされた象徴が一瞬で復元していたのだ。


「な……そ、そんなバカな! 象徴が破壊されれば、象徴魔法はしばらく再使用できないはず……!? 無垢なる供物の群れ《ブラックサクリファイス》にはそんなこともできたのか!?」


「お前は伝説の魔法を一つずつでは知っていても、全部持っている奴に合ったのは初めてだろ? それに失った身代わりの羊(サバイバー)の数も……この通りだ」


 復活した血河の湧き踊る屍の山《ブラッドレッドマウンテン》からの魔力供給により、黒い羊たちが再び蓄積されていく。


 大幅に数を失ったはずが、一分と立たずに再補充されたのだ。


「振出しに戻ったわけだが……どう思う? 一人で俺様に勝てると思うか?」


「うぐ、うぐ……あ……」


「確かにその体は破格だ。三つの魔法を持っているうえで、先生と同等の☆六つの魔力量と出力を誇っている。グランドマスターメイジに相応しい実力があるだろうよ。で? このクソコンボをどうにかできるか?」


 本人がクソコンボというだけのことはあった。


 象徴を一つずつ潰すという攻略法が通じない。

 最強の防御魔法に守られた相手を、ストックが補充されるよりも早く殺し続けなければならない。


 これをなしとげる『可能性(みらい)』が、手段が、戦術が、ボスには想像もできなかった。


「どうやら、解決策はないようだな」


 沈黙を図星ととらえたのか、サムソンはさらに嘲った。


「お前の部下たちは想定外の切り札を持っていた。だから俺様も慎重にならざるを得なかった。だがお前自身はそれがない。奪って自分のものにした体にリスクのある違法改造をしたくなかったのか、それとも単に時間がなかったのかはわからないが……俺様の知っているリガシーラと変わらないのなら、勝ち目なんてねえよ。手の内は全部知っている。俺様の方がリガシーラより圧倒的に強いこともわかっているんだからな!」


 サムソンにとって、目の前の相手は脅威でもなんでもない。

 自分よりも弱い上に、知っていることしかしてこないのなら、どう戦っても負けるわけがなかった。


「こんな、バカな話があっていいはずがない……リガシーラ(いだいなえいゆう)よりも強い魔法使いがいるわけがない。リガシーラ(いだいなえいゆう)は絶対無敵のはずなのだ!」


 今度は道連れの山羊(エクストラ)が大量に消失する。

 同時に復活した神像の大いなる拳(ブロンズフィスト)が黒い呪いを帯びる。


「衆生誅殺三十八掌(ルナティック)、道連れの山羊(エクストラ)、コンボ! たった一人のための(ルナティック)最終戦争《エクストラ》!」


 呪いを帯びた誘導弾が、弾幕となって発射される。


 先ほどは笑って棒立ちしていたが、今度はそうもいかなかった。


 当たるまで追い続ける誘導弾を前に、命中率を変えることは意味を持たない。


「侮るなよ! リガシーラ(わたし)はリガシーラ(いだいなえいゆう)だ、グランドマスターメイジだ! この程度……余裕で防げる!」


 先ほどの弾幕と威力が変わらないのか、光の防御壁を構築することで防ぎきれた。


 必中の誘導弾は一発も届いていない。


 それでもボスの顔は曇っていた。


 これを続けて何になる。


 無限に思えた膨大な魔力が、刻一刻と減っていくことを感じてしまう。


 本当の意味で無尽の魔力を持つ相手と無駄に消耗戦をしているだけではないか。


「このままリガシーラ(わたし)を消耗させて勝つ気か!? そんなことをさせると思うか!?」


「そんなことをするなんて、俺様は言ってないぜ?」


 掌から放たれ続ける弾幕の中を、サムソンは無敵のバリアに守られながら移動していた。


 複数の道連れの山羊(エクストラ)を消費しながら、赤い剣を構築している。


 それが追尾効果を持つ刃であることは明白だった。


 つまりこの攻撃もまた、幸運で回避できない斬撃であり、その威力は先ほどと変わらないという事。


 ボスはぞっとした。見えているのに、時間があるのに対処できない。


 圧倒的な格上からの、悠々たる攻撃であった。


「く、ぐぅ……光(ライト)、強化(ブースト)、コンボ! 心配御無用剣(ノープログレム)!」


「奈落送り(ノーフューチャー)、道連れの山羊(エクストラ)、コンボ。地獄に次ぐ地獄(ノーフューチャー)の最奥にて(エクストラ)!」


 双方の最強の斬撃が、真っ向からぶつかり合う。


 しかしその結果は、すでに見えている。


 やはり幸運のさしはさまる余地はなく、サムソンの斬撃が一方的に光の刃を切り裂いた。


 そこまでは先ほどと同様である。違うのは、ボスが攻撃を回避できなかったという事。


「ぐああああああああ!」


 グランドマスターメイジの片腕は切り落とされていた。


 夥しい出血があふれ、ボスはその部位を抑えて、なお猛る。


「がぐあ……よくも、よくも……リガシーラ(わたし)の腕を……リガシーラ(いだいなえいゆう)のリガシーラ(からだ)に、リガシーラ(じんせい)に、なんてことを……!」


 その顔に恐怖はない。

 ただ怒りだけがある。


 しかしそれは、現状を把握しているからではなかった。


 サムソンはそれを理解したうえで見下す。



「さて……お前に未来を選ばせてやろう。逃げるか、命乞いをするか、それとも奇跡を信じて戦うか」



 今度はサムソンが余裕を見せる番だった。


 このまま戦っていれば勝てただろうに、あえて誘う言葉を吐いた。


「まあどれを選んだとしても望みは薄い。幸運でどうにかなる状況じゃないがな」


 少年の蛮勇(スウィートグリーン)は確率に介入するが、人心には介入できない。


 この状況では、何を選んでもサムソンに殺されるだけだろう。


 それを本人はわかったうえであおっている。 


「……その三つの中から選べ、だと。笑止、だ! そんな未来を、リガシーラ(わたし)は望まない! お前が決めた未来の中に、リガシーラ(わたし)が選ぶ未来は一つもない!」


「くかかか! 素敵なセリフだな! 他人の体を乗っ取った悪人が言ってるとは思えないぜ!」


「黙れ! リガシーラ(わたし)はリガシーラ(いだいなえいゆう)でありグランドマスターメイジだ! その戦いは常に一方的で絶対的で、完璧で完全で、無傷で無敵でなければならない!」


「もうすでに片腕を失っているけどな」


「黙れ……黙れ! こんなことは、あってはならない! この傷など、リガシーラ(わたし)の技術で何とでもしてみせる! そうだ、腕の一本ぐらいどうとでもなる! なかったことにできる!」


「それは素直にすごいな。で、今この瞬間にどうにかできんのかよ。俺様にどうやって勝つんだ?」


 ーーーこのボスは、高い理想を掲げていた。

 現実とのギャップに耐えかねていたが、その差からくる不満こそが彼のモチベーションだった。


 理想の未来が欲しかった。


 夢に描く最高の英雄になって、辛い思いも苦しい思いもせず、羨望のまなざしを向けられるだけの人生を求めていた。


 それは凄まじいことだった。


 だが、現在ことここに至って、ついにどうにもならなくなった。


 ココからどうあがいても、自分の望む未来にたどり着けない。


 目的ははっきりしているのに、そこまでの道筋がまったく立たない。


「黙れ! リガシーラ(わたし)の未来は、リガシーラ(わたし)が決める! こんな過去を、現在を認めるものか! どうとでも……!?」


 ボスはよろめいた。


 幻覚が見えたのである。


 目に見えている類ではない。


 しいて言えば、妄想に近い。


 己の脳内に、うすぼんやりとした『黒板』が見えたのだ。


 今もしっかりと両目を開けて前を観ているのに、集中が乱れる。

 自分の脳内の画像に神経が持っていかれている。


「貴様、何をした!?」


「……俺様は七つの伝説級魔法をもっている。が、伝説級魔法と、伝説の魔法じゃあ意味合いが違うよなあ」


「何が言いたい!?」


「その内一つは、伝説の魔法じゃない。少なくとも記録に残っている限り、俺様しか発現していない魔法だ。だから俺様や先生しか知らない魔法だ」


「……どんな効果がある?」


「お前が体験している通りの幻覚魔法であり、精神への封印魔法だ。発動条件は簡単……ぶっちゃけ相手次第だ」


 問答をしているだけでボスのいら立ちは募っていく。


 七つの伝説級魔法を持つうえで、そのうち一つが彼専用の魔法だという。

 それではまるでリガシーラ(しゅじんこう)のようではないか。

 否、それこそリガシーラ(しゅじんこう)以外が持っていていい魔法ではない。


 だが現実は、自分以外が、それも敵が持っている。

 許せない。そんなことはあってはならない。


 それも自分が持つべきであろうに。

 物語の設定へ文句をつけるかのように、現実の状況に不満を抱えていた。


「対象が『現在過去とつながらない未来』を考えれば考えるほど、その思考を利用して相手を幻覚に落としていく。相手は自分が描いた妄想にとらわれていき、そこから抜け出せなくなる。相手の現実逃避を後押しする魔法だと思いな」


「なんだ、それは……」


「説明を聞くと情けなくなるだろう? それこそお前が考えるリガシーラ(いだいなえいゆう)なら振り払えるはずの幻覚だ。こんなんにハマるのは現実と向き合えない、ぶっちゃけ心が弱い奴だよ」


「そんなわけがあるか! リガシーラ(わたし)はリガシーラ(いだいなえいゆう)だ! こんな幻覚……こんな、こんな幻覚……」


 ボスは幻覚を打破する自分を想像した。


 心の弱さに付け込む悪しき魔法を破り、サムソンに立ち向かい、そのまま鮮やかに勝つ未来を描いた。


 もちろん、そこに自分の両手はそろっている。


 今現在の自分の負傷も、幻覚によるものだと思い込もうとしていた。


 相手が自分よりも強い、絶対に勝てないという事実も幻覚だと思い込もうとする。


 その方が都合がいいからだ。そうでないと嫌だからだ。


 本当は違うとわかっていても、その思いをこの魔法は利用する。


「おいおいどうした、ずいぶんと目がうつろだぞ?」


「だまれ……だまれ……」


 睡魔に襲われても、眠いと認めない者のようだった。


 ボスは現在も現実を見ているし、両目はしっかりと開いている。


 だが頭の中に描かれた黒板に映る理想の自分像がどんどん鮮明になっていく。


「俺様に勝てない現実から目を背けて、自分の頭の中の画に囚われればいい。その方がきっと、世間も幸せになれるぜ」


「黙れ……リガシーラ(わたし)は……」


 ついに、ボスは地面に倒れた。

 すでに出血している傷跡を抑えてすらいない。


 彼は己の脳内に描かれた黒板に夢中になっていた。


 第三者目線で、自分の活躍を映し出す黒板だった。


 絵物語を読んでいるかのように、自分の大活躍を見て楽しむことができる。


 自分のこうだったらいいという願いや願望がその場その場で画像となって、文章となって、あるいは音声となっていた。


 サムソンを華麗に倒す絵があった。かと思えば、サムソンが自分に感服して部下になっていた。あるいはサムソンなど最初からいなくて、本来の人生を得た自分が順調にグランドマスターメイジとして周囲から尊敬される話になっていた。


 筋書きがなく、設定もなく、何より現実に一切の影響を及ぼさない脳内劇場だった。


 ボスは己の作り出す幻覚に囚われ、自らをそこに沈めていた。


 サムソンはそれを確認すると、魔法の名前を告げる。



「邯鄲で呂翁の枕に眠る(キャンバスライフ)、完全没入盧生は目覚めなかった(スーパーヒーロー)」



 現実逃避。

 自らの可能性を見ることに集中し、自分の可能性を完全に閉ざす。

 自己保持回路のごとく、己の力で己を封じさせる魔法が完成していた。


「スティンガーにも言ったことだが、俺様はお前たちが無価値だとは思ってねえ」


 本来なら虫けら程度の存在でしかないボスを、サムソンは全力で憎悪していた。


 人間が不快害虫一匹に憎悪を向けるわけがない。


 相手を怨敵と認めているからこその憎悪だった。


「俺様たちマスターメイジを軽く見る奴は多い。しょせん防御しか取り柄がない、収束魔法を当てればいいとか。魔力が乏しいんだから、消耗戦に持ち込めばいいとか。本人が弱いんだから、ペットを奪えばいいんだとか。若造に負けたんだから落ち目だとか。俺様たちを軽く見て、勝つ未来を妄想して、悦に浸る輩は多い。相手をする価値もない無辜の民さ。ま、皮肉だなが」


 仲間の体を乗っ取った怨敵や、すでに倒したテロリストたちも、ある意味では妄想している輩と同類だろう。


 だが彼らと違うのは、妄言で終わらせず、実際に準備をして実行に移し、ほぼ成功させたことだ。


 その違いは果てしなく大きい。


 その意味で、主導したボスも無能ではない。

 それは彼の部下たちも認めているところだろう。


 彼は、自己認識通りに優秀で有能で、計画性と実行力のある英雄ではあった。


 そんなボスにとってこんな魔法で陥れられることはさぞ屈辱的なのだろう。


 今の彼の主観では幸せでも、この結果が歴史に残れば不満を抱くどころではない。


「お前たちは本当にすごい奴らだった。そのボスであるお前もな。だからこそ全力で憎み、全力で屈辱を味わわせてやった……!」


 現実を放棄して自らを封印するに至ったボスを、サムソンは見下しつつも、共感を禁じ得なかった。


 ほかならぬこのボスこそが、サムソンに現実逃避を強いていた。


 この男がいなければ、自分は仲間と一緒に楽しく過ごせていた。

 自分がグランドマスターメイジになってさえいれば、仲間たちが死ぬこともなかったかもしれない。


 こんなにも強い自分なのに、未来は都合よくならない。


 サムソンもまた、今回の事件で『もしも』や『あるいは』を想わずにいられなかった。

 それでも受け入れていられるのは、まだ大切な人が残っているからだろう。


 何より……自分にとって都合のいい夢に逃げ込む姿を見て、反面教師にせざるを得なかった。



「う……サムソン、様」

「リガシーラか!?」



 うめくような声を聞いて、サムソンは思わず駆け寄った。


 自分が切り捨てた腕の傷を抑えながら、彼は仲間の体を抱き起した。


「お前は相変わらず、俺様たちのことも様付けで呼ぶんだな。それ、慇懃無礼だから辞めろって言ってるだろ?」


「新参者の私が、多くの実績を上げていた皆さんのことを呼び捨てになんてできませんよ。それに、もう……結局、私は、グランドマスターメイジに相応しいだけの実勢を上げられませんでしたから。貴方のおっしゃる通り、もう死ぬしかありません」


 ボスの精神が封印されたことで、リガシーラの残っていた精神が表に出ていた。


 だがあまりにも弱弱しく、すぐに消えそうである。


「……死刑になることは、覚悟の上か」


「はい。もちろんです。人質との交換の時、こうなることは想像できていました。それでも……目の前の人を見捨てられず……」


「何が、想像通りだ! 俺様がバカみたいに強かったからよかったようなものを! 下手したら、あのバカボスがこの国を滅ぼしていたかもしれないんだぞ!?」


「はい。それでも……それでも、見捨てられませんでした」


「馬鹿野郎が」


 思わず、涙がこぼれそうになる。


 認めていた仲間たちが全員死んだという事実と、いよいよ向き合わなければならなくなる。


 せめて一人でも生きていて欲しい、という思いにも負けそうだった。


 だが、さんざん偉そうに説教しておいて、自分が間違ったことをするわけにはいかない。


「やはり、私はグランドマスターメイジに相応しくありませんでした。貴方にこそふさわしい。どうか……あとはお願いします」


「勝手なことを言いやがって……馬鹿野郎が」


 サムソンは、リガシーラの体を優しく地面に置いた。


 仰向けに寝転がっている仲間の顔は、弱っているが笑顔だった。


「誰もが求める(マゼンタ)一振りの剣(ソード)、臨界刀身……奈落送り(ノーフューチャー)」

 

 できるだけ破壊をしないよう、針のような剣で脳天を突き刺す。


 強すぎて、それ以上に優しすぎたグランドマスターメイジは、己に巣くった夢追い人と共にこの世を去ったのだった。


 かくて、帝政オリュンポス最大の事件は幕を下ろしたのである。

邯鄲で呂翁の枕に眠る(キャンバスライフ)、完全没入盧生は目覚めなかった(スーパーヒーロー)

希少性 ☆☆☆☆☆

応用性 ☆

区分 封印 幻覚 契約魔法

相手が『現在や過去とつながらない未来』を想像するたびに『自分にとって都合のいい現実』の幻覚が見えるようになっていく。

その幻覚を見れば見るほど、現実と幻覚の区別がつかなくなっていく。

最終的には対象が完全に幻覚にとらわれ封印され、対象自身がその幻覚と封印を維持する。

封印を破棄すれば対象自身が死ぬ。



リガシーラ

魔力量 ☆☆☆☆☆☆

出力  ☆☆☆☆☆☆


少年の蛮勇(スウィートグリーン)

希少性 ☆☆☆☆☆

応用性 ☆☆

区分 通常魔法

伝説級の魔法。

特殊なバフ。

確率に介入することができる。

雑に言うとものすごく幸運になれる魔法。

出力が低ければコインの裏表のような二分の一ぐらいの確率にしか介入できないが、高ければ限りなくゼロに近い確率すら意図的に起こせる。

もちろんその分消費量は増える。


光(ライト)

希少性 ☆

応用性 ☆☆☆☆

区分 通常魔法(属性魔法)

光を発生させる。

他の属性魔法と同じく、応用性は非常に高い。

修練を積めば様々な条件付けができる。


強化(ブースト)

希少性 ☆☆

応用性 ☆☆

自分や他者への強化が可能。

何を強化するかは調整できる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。