【静かな森の探索】
「それじゃあ、どんなスキルを作るか考えてみようか」
目の前に浮かぶステータス画面を見ながら、レーテに話しかけた。
「そうですね。まずは、どのような効果を持たせたいのか決めましょう」
「やっぱり、ステータスの表示を自由に変えられるものがいいかな」
今のままでは、誰かに能力を調べられたとき、不審がられる可能性がある。
「例えば、種族や職業、それに能力値なんかも別のものに見せられたら便利だと思うんだけど」
「なるほど。実際の情報はそのままに、他者から確認できる内容だけを変更するということですね」
「うん。それなら、本来の能力に影響を与えずに済むだろうし」
「確かに、それでしたら目的にも合っています。表示する数値や項目を調整できるようにすれば、状況に応じて使い分けることも可能でしょう」
「じゃあ、今回はそれを目指そう」
「承知しました。ステータスの表示を改変するスキルですね」
方針がまとまったところで、肝心なことを尋ねた。
「実際に作るには何が必要なの?」
「能力の創造には、いくつか条件があります。まず、スキルを作るには、リリー様のSPを消費します。必要な量はスキルによって異なります」
「それから、魔晶石も用意していただきたいです」
「魔晶石か……」
その名前を聞いて、昔の記憶が蘇ってきた。
確か、魔力を宿した結晶だったはずだ。火や水といった属性を持つものもあれば、特別な性質を備えたものも存在していた。
魔法に関係する道具や、さまざまな用途に利用されていたことも覚えている。
「魔晶石なら知ってるよ。魔力を含んでいて、種類によって性質が違うんだよね?」
「はい、その認識で間違いありません」
もっとも、覚えているのは昔のことだ。どれぐらい経っているかわからないが、今では扱い方や利用方法も変わっているかもしれない。
「今も魔物から手に入るのかな?」
「はい。基本的には、倒した魔物や魔獣からも手に入ります」
「なるほど。魔物か魔獣を探す必要がありそうだな」
周囲に広がる森へと視線を向けた。
「そういえば、レーテ。この森ってどんな場所なんだ?」
魔物を探すにしても、まずは周辺のことを知っておきたい。
「この森についてですね。実は、リリー様に深い関わりがあるとされている場所なんですよ」
「俺に?」
「はい。ここは、創造の女神が最後に目撃された場所だと伝えられています」
「……え?」
「それって、俺が最後にいた場所ってこと?」
「その可能性はあります。ただし、確かな記録が残っているわけではありません。あくまでも、そのような噂が伝わっているだけなんです」
「なるほど……」
周囲を見渡してみるが、特に懐かしいとは感じなかった。
そもそも女神だった頃の記憶は残っているものの、すべてを覚えているわけではない。特に転生に関わる部分は曖昧になっている。
ここに来たことがあるのかさえ、わからなかった。
「それで、この森自体はどんなところなの?」
「非常に広大な森林地帯です。樹木が密集している場所も多く、奥へ進むほど周囲の様子がわかりにくくなります」
「迷わないように気をつけないといけないな」
「はい。道らしいものはほとんどありませんので、現在地には注意したほうがよいでしょう」
「ちなみに、魔物か魔獣はどんな種類がいるんだ?」
「この森に生息しているのは魔獣だけです。魔物は今のところ確認されていません」
「へえ、そうなんだ」
「はい。獣の姿をしたものをはじめ、さまざまな魔獣が生息しています。ただ、これまでに確認されているのは比較的弱い個体ばかりなので、リリー様が苦戦することはないでしょう」
「よし。それじゃあ、魔獣を探しに行こうか」
「はい。周囲の気配にも気を配っておきますね」
レーテに頷き、森の奥へと歩き始めた。
地面には草や木の根が広がっていたが、足取りを妨げるほどではない。枝の張り出した場所を避けながら、ゆっくりと先へ進んでいく。
しばらく歩いていると、近くの茂みから物音が聞こえてきた。
「……ん?」
足を止めて音のした方向を確かめる。
茂みから姿を現したのは、小型のウサギに似た魔獣だった。
耳を動かしながら、周囲の様子をうかがっている。
「レーテ、あれは魔獣だよね?」
「はい。比較的弱い種類ですね。今のリリー様でしたら、問題なく倒せると思います」
「そうなんだ。じゃあ、ちょうどいいかな」
こちらに気づいた相手は、警戒するように身体を低くした。
近づいていくと、地面を蹴って飛びかかってきた。
「おっと」
横へ移動して攻撃をかわすと、着地した相手との距離を一気に詰めた。
振り返ろうとする魔獣の胴体に拳を叩き込む。
「はっ!」
短い衝撃音とともに、相手は吹き飛んだ。
そのまま地面に倒れ込み、動かなくなる。
「……あれ、もう終わり?」
思っていた以上にあっけない決着だった。
「お見事です、リリー様。やはり、この辺りの魔獣では相手になりませんね」
「うーん。自分でも驚くくらい簡単だったな」
倒れた魔獣に近づき、その様子を確認した。
そこで、レーテが声をかけてきた。
「リリー様、魔晶石を確認してみましょう」
「そうだった。それが目的だったね」
「はい。魔晶石は基本的に魔獣の体内にありますので、取り出す必要があります」
「うわ……体の中から取り出すのか。あまり想像したくないな」
「そうですね。ですが、魔晶石を手に入れるには必要な作業です」
「それじゃあ、さっそく始めようか」
そう言ってしゃがみ込んだものの、解体に使えそうな道具は持っていなかった。
「……そういえば、刃物がないな」
「今後のことも考えると、解体用の道具は用意しておいたほうがよさそうですね」
「うん。でも、今はあるもので何とかしよう」
周囲を探してみると、欠けた部分が鋭くなった石を見つけた。
それを拾い上げ、魔獣の身体に当てる。
慣れない作業に少し手間取ったが、どうにか皮を切り開くことができた。
内部を調べていくと、硬い感触のあるものが見つかった。
「……あった。これかな?」
取り出したのは、黒く輝く結晶だった。
「はい。それが魔晶石です」
表面についた汚れを草で拭き取り、手のひらに載せて眺める。
「これ一つでスキルを作れる?」
「いえ、今回の創造にはまだ足りませんね。もう少し集めておきましょう」
「そっか。だったら、ほかの魔獣も探さないとね」
せっかく倒したのだから、利用できる部分も持っていきたい。
残った身体から毛皮を取り分けた。
「こういう素材も、何かに使えるだろうし」
「そうですね。魔獣の素材には、売却できるものもありますよ」
「それなら、集めておいて損はなさそうだ」
集めた素材と魔晶石をまとめて、〈魂の世界〉の保管室へ収納した。
目の前からそれらが消え、無事に収められたことを確認する。
「うん。これなら荷物を持ち歩かずに済むから便利だな」
魔晶石と素材を収納したところで、再び探索を始めた。
森を進んでいくと、先ほどと同じようなウサギ型の魔獣を何匹か見つけた。
どれも大した脅威にはならず、拳や蹴りで難なく倒していった。
「やっぱり、この辺りの魔獣なら問題なさそうだな」
「はい。リリー様の身体能力でしたら、十分に対応できますね」
解体を繰り返すうちに、少しずつ手際もよくなってきた。
手に入れた魔晶石と素材は、その都度〈魂の世界〉の保管室へ収納しておいた。




