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ママはたぶん、こう言うよ。 ― 私がいなくても、困ったときに開いてください ―  作者: わく


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ママの両腕

紗良だけではない。

悠斗も小さい頃は、ママにくっついて寝た。

「紗良は胸だけど、悠斗は脇の匂いだったかも(笑)」

ママが真ん中。

右に一人、左に一人。

両方に腕枕をして、毎晩、両腕がふさがったまま眠る。

寝返りなんてまともにできないし、腕だってしびれただろう。


でもママは、その不便さを嫌だったとは言わなかった。

むしろ、その状態が終わった時の方をよく覚えていた。


悠斗が、「そろそろ一人で寝ようかな」と言い出した。

最初は、自分の部屋で寝る日とママと寝る日を交互にしていた。

それが少しずつ、自分の部屋で寝る日ばかりになった。

「ママが寂しいじゃん!」

そう言うママに、悠斗は、にやっ、として自分の部屋へ行く。

ママは本気で寂しかった。だから、時々もっともらしい理由を使った。

「エアコン代もったいないじゃん」

同じ部屋で寝れば一台で済む。

合理的。

非常に合理的。


本音は、「ママが寂しいじゃん!」

悠斗は、それを聞くとニヤッとして自分の部屋へ行くような子だった。

それでも時々、電気代戦法には付き合ってくれた。


小学生の頃。家族旅行へ行った。

夫は畳に敷かれた布団で大の字。

ママは紗良とベッド。悠斗は別のベッドだった。


夜中。

悠斗がママのところへ来た。

「ママ、怖いから一緒に寝ていい?」

その時のママの内心。

「かわいーーーー! 」


その夜は、久しぶりに昔の形へ戻った。右と左に子どもを寝かせ、真ん中のママが二人を抱いて寝た。

翌朝、悠斗は別に恥ずかしがらなかった。当たり前みたいな顔をしていた。


もしかしたら、その頃はまだ家でも完全な一人寝ではなかったのかもしれない。記憶は少し曖昧だ。

それも、そのままでいい。

思い出は裁判の証拠ではない。全部の日付が正確でなくても、夜中に

「ママ怖いから」

と来たこと。

ママが「かわいいー!」と思ったこと。

そこは残っている。



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