「行ってらっしゃい」と 「はぁ〜 い」
帰宅する頃。
紗良は寝ている。
悠斗は起きている。
でも、長く話せない。
それでも、朝と夜に宝物の時間がある。
ママが紗良を起こしているわけではない。
紗良は寝る時、いつもママにぎゅーっとくっついて、足まで絡めている。
だからママが起きていなくなると、寝返りをした時にでも気づくのだと思う。
まだ眠いのに、それでも起きてくる。
ママに「行ってらっしゃい」を言うためだけに。
「行ってらっしゃい」
ぎゅー
「あれが、たまらなく嬉しいんだよ」
これから何時間も電車に乗って仕事へ行き、また何時間もかけて帰ってくる。
その前に、眠い紗良がわざわざ起きてきてくれ
る。
夜。
家へ帰ると、二階から悠斗が降りてくる。
「はぁ〜い( *´꒳`*)」
「やあ」にも「おかえり」にも少し似ているけれど、どっちでもなくて、家族には「はぁ〜い」で通じる。
ママは「早く寝ないと体に悪いよー」と言う。
本当にそう思っている。
でも、心の中では少しだけ、
「私が帰るまで起きててくれてるんじゃないか」
と勝手に思って、嬉しくなっていた(笑)。
たまたま起きていただけかもしれない。
それでも、帰った時にあの声が聞こえるのが、ママは好きだった。
帰宅してから寝るまでは、怒涛の短縮時間だった。
家のことをして、何かを食べる。
その間、悠斗は2階に戻るわけでもなく、リビングでパソコンをいじっている。
「その空間が好きなんだよね」
たった、それだけだった。
長距離通勤で欲しかったものは、高い収入。
でも、高い収入のために、一番欲しい時間が減った。
生活は、そういう矛盾を普通に持ってくる。
しばらくして、在宅と出社を組み合わせられるようになった。
何が一番嬉しかった?
「子どもたちと夕飯食べられたこと!」
間髪入れず。
「あとは四時間以上寝られること(笑)」
数年たった今この時、睡眠薬を飲んでも、うまく眠れないことはある。
それでも、夕飯。
子どもが起きている時間。
同じテーブル。
長い通勤の果てに戻ってきたものは、特別な旅行ではなかった。
家族で食べる夕飯だった。




