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ママはたぶん、こう言うよ。 ― 私がいなくても、困ったときに開いてください ―  作者: わく


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スキー教室

ママは、早く離婚したかった。

でも、子どもには、子どもの時間がある。

学年の途中には、学校がある。

友達がいる。

行事もある。

だから、頼んだ。

家賃はこちらで払う。せめて、学年が終わるまでは今の家に住ませてほしい。


認められなかった。

悠斗は、楽しみにしていたスキー教室へ行けなくなった。

離婚を後悔しているわけではない。でも、大人の事情で、子どもが楽しみにしていた普通の予定までなくなった。

そこは、別の痛みだった。


だから最初は、都内で家を探した。転校しなくて済むように。

でも、古い。

中をリノベーションしていても、外は古い。

子どもたちからは、「お化け出そう」と却下される。

猫可の物件は少ない。

少し離れれば、今度は学区が変わる。


夜。

三人で布団に入って、SUUMO を見た。

「ここは?」

「こっちは?」

電気代戦法により、悠斗も一緒にいる。

検索範囲を広げる。

地方まで範囲を広げると、新築の二階建てが出てきた。

都会の古い物件より安く、戸建てだから猫も大丈夫。

「同じくらいのお金払うなら、新築買った方がよくない?」

話した。

「どうせ転校するなら、新築でりんちゃんも連れて行けるようにしようよ」

ここなら、りんちゃんも遊べる。新しい猫を迎えたっていい。

それまで、離婚後の話は、何を失うか、だった。


学校

友達

スキー教室

今の家


でも、その夜。

初めて、これから何を作るか、の話になった。

内見。

「俺の部屋ここ?」

「広ーい!」

子どもたちは、嬉しそうに家の中を見て回る。

ママは家の中だけでなく、外も見る。

道路や周辺環境

子どもが安全に歩けるか

災害マップはどうか


安いだけでは決めない。

新しいだけでも決めない。

ここで、子どもを育てる。その目で選んだ。


引っ越しは、クリスマスの頃。

業者に家具を運んでもらい、すぐ住めるようにしてもらった。

ベッドも同じ。

寝心地も同じ。

最初の夜に何を話したかは、あまり覚えていない。


でも。

「やっとこれで離婚したって実感はあったかも」

同じベッドで、同じ子どもたちと、同じ猫と眠る。

でも、前の家とは一つだけ決定的に違った。


もう、夫が帰ってくる家ではない。


夫と大きな喧嘩をするたび、そのあとしばらくの間、ママは表ではずっと強気だった。怖がっているところを見せたら負けだと思っていたから。


でも、本当はずっとビクビクしていた。

激昂したあと、刺されたらどうしよう。

首を絞められたらどうしよう。

寝ている間に、子どもたちと一緒に殺されたらどうしよう。

子どもたちをどこかへ連れていかれたらどうしよう。


眠っている時まで、そんなことを考えていた。

新しい家では、それを考えなくていい。強がっていなくてもいい。

誰かが帰ってくる音に身構えなくていい。


「やっと安心して寝られるって思った」


ママにとって「離婚した」と実感したのは、住所が変わったことだけではなく、子どもたちと眠る夜に、もう怖がらなくてよくなったことだった。



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