幕間2:帝国大学特別講義――「国家の未来を切り売りする、紙の刃」
帝都の帝国大学、その円形大講堂。
教壇に立つ最高財務卿、ルナ・フォン・グラウスは、黒板に一通の「羊皮紙」の絵を描いた。
「……さて。本日は、国家が発行する最も危険な約束手形、**『国債』**についてお話ししましょう」
ルナの冷徹な声が、水を打ったような静寂に響く。
「国が大きな事業をしたり、無能な王が『慈愛』と称して金をバラ撒いたりする時、税金だけでは足りなくなります」
「その時、国は投資家へ向けてこう言います。『今すぐ金を貸せ。数年後、利子をつけて返してやる』と。……これが国債です」
ルナは、チョークで「利回り」の文字を大きく囲った。
「ここで重要なのは、この紙の価値を決めるのは『信頼』だということです」
「例えば、我がヴォルテール帝国のように強大で、必ず返してくれると信じられている国の金利は、一%もあれば十分です。……貸したい人が、列を作りますから」
ルナの唇が、嘲笑を浮かべるように歪む。
「では、一か月前のサンクチュアリ王国はどうだったでしょう?」
「通貨**サンク**の価値は、わずか一か月で三・五倍も暴落しました」
「輸入価格から計算すれば、その国のインフレ率は……実に二五〇%。……昨日まで一**サンク**だったパンが、三・五**サンク**にならなければ買えない状態です」
講堂の学生たちが、ごくりと唾を呑む。
「この状況で、誰が『三%の利息』でその国の国債を買うでしょうか? 持っているだけで、資産が毎日溶けていくというのに」
ルナは、黒板に「70%」という衝撃的な数字を書き殴った。
「市場は叫びました。……『七〇%の利子をつけろ。さもなくば、そんなゴミ(国債)は誰にも見向きもされないぞ』と」
「元々三%だった利回りが、一気に七〇%へ……。これはもはや、投資ではありません。……いつ死ぬかわからない重病人の、最後の一蹴りに対する賭けです」
ルナは、チョークの粉を払い、冷たく言い放つ。
「七〇%の金利を払うために、国はまた新たな国債を発行する。……ですが、利息を払うために借金を重ねる国に、未来があると思いますか?」
「……ありませんわ。借金が雪だるま式に増え、最後には誰も貸さなくなる。……これを、経済的な死――破産と呼びます」
ルナは、ゆっくりと教壇のペンを置いた。
「そうなった時、貸主である私は、笑顔でこう告げるのです」
「『お金が返せないなら、土地か、資源か、国民の未来を……身代わりにいただきますわ』と」
講堂全体に、震えるような感嘆と恐怖が走った。
「……授業はここまで。……あ、皆さんは、間違っても愛に溺れて計算を忘れるような、無能な『債務者』にはならないでくださいね」
優雅に一礼し、ルナが会場を後にする。
そこには、豪華な軍服に身を包んだ皇帝アレクサンドルが、極上の笑みを浮かべて待っていた。
「……見事な講義だ。七〇%の金利か。……救いようのない、甘美な地獄だな」
「陛下。……理解されたのなら、来期の帝国の予算案、少しは目を通していただけますか?」
「ははは! それは君に任せる。……私は、その見事な頭脳を持つ君を、全力で守る役割だ」
アレクサンドルは、ルナの細い手を取り、指先に熱い口づけを落とした。
「……さあ、いよいよ『取り立て』の仕上げだ。……あの男たちが、七〇%の猛毒に自ら飛び込む様を見届けようか」
「……ええ。……それが、投資家としての最後の楽しみですから」




