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第10話:終わりの始まり、あるいは「信用」の全売却

王立アカデミーの卒業記念パーティー。

サンクチュアリ王国の未来を担う若き貴族たちが集う大広間は、これまでにないほど豪華な装飾で彩られていた。


ルナがこれまで「無駄遣いです」と切り捨ててきた贅沢のすべてが、今、目の前で形になっている。

数千個の魔力結晶を使った魔法照明、帝国の老舗から取り寄せた最高級の食材、そして、コレットが「愛の力」と称してバラ撒いた金貨の雨。


「……バルト。グラウス家の資産、および私の個人預金の帝国への移管は?」


ルナは、華やかな喧騒から少し離れた壁際で、影のように控えるバルトに囁いた。


「……先ほど、最後の一アレクマルクまで、ヴォルテール帝国の中央銀行への着金を確認いたしました。現在、この国に残っているグラウス家の資産は、文字通り『ゼロ』でございます」


「……そう。ご苦労様でしたわ」


ルナの唇が、夜の闇よりも深く、静かに弧を描いた。

彼女は今、この国を支える「信用」の重しをすべて外した。

あとは、誰かがこのスカスカになった砂の城を突くだけだ。


「……皆様、注目してくれたまえ!」


会場の中央、ひときわ高い演壇にフェルディナントが立った。

その隣には、純白のドレスに身を包み、勝ち誇ったような笑みを瞳の奥に隠したコレットが寄り添っている。


「今日、僕たちはこのアカデミーを卒業し、新しい王国の未来へと歩み出す! だが、その未来に、古臭い数字と理屈で僕たちの理想を縛り付ける存在は必要ない!」


フェルディナントの視線が、冷徹に立つルナを射抜いた。

会場中の貴族たちが、息を呑んでその光景を見守る。


「ルナ・フォン・グラウス! 君は財務卿として、僕の『慈愛』を常に邪魔し、民の笑顔よりも冷たい金貨の勘定を優先してきた! 君のような情のない女は、この国の王妃にはふさわしくない!」


フェルディナントは、高らかに右手を掲げた。

その指には、かつてルナに贈った婚約指輪ではなく、コレットとお揃いの安っぽい、しかし「愛の証」だという指輪が光っている。


「ルナ! 君との婚約は、たった今を以て破談とするッ! 君の代わりには、この真実の愛を持つコレットが、僕の隣に立つことになるだろう!」


「「「おおお……っ!」」」


どよめきが広がる。

フェルディナントは、自分こそがこの国の「呪縛」を解いた英雄であるかのような顔で、胸を張った。


コレットが、あざとくルナを見つめ、ハンカチで目元を抑えながらささやく。

「ルナ様、ごめんなさい……。でも、わたくしたちの愛は、お金では買えないものですの……」


「…………」


ルナは、静かに、そしてゆっくりと歩み出た。

悲鳴も、怒りも、涙もない。

ただ、冷徹な投資家が「無価値な投資先」に最後の一瞥をくれるような、氷の視線。


「……承知いたしましたわ、フェルディナント殿下。……そのお言葉、しかと承りました」

前日談パートはここまでです!

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