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第7話:最初の亀裂、あるいは「信用」の破砕音

「……ルナ、これは一体どういうことだ!」


一週間後。執務室に怒鳴り込んできたのは、顔を真っ赤にしたフェルディナントだった。

その後ろでは、コレットがおどおどとした(フリをした)様子で彼の袖を掴んでいる。


フェルディナントが叩きつけたのは、帝国の刻印が入った一枚の公式文書。

そこには、帝国機械ギルドからの**『資産差し押さえ予告状』**が記されていた。


「契約破棄の違約金が払われないから、王都にある我々の倉庫の荷物を差し押さえるだと? 帝国の商連ごときが、この僕に対して無礼すぎるだろう!」


ルナは、羽ペンを置くことすらせず、淡々と答えた。


「当然の帰結ですわ。契約書には、一方的な破棄には相応の対価を払うと明記されていましたもの」


「だから、その対価とやらを、君が上手く処理しておけばよかったじゃないか!」


「お言葉ですが殿下。予備費はすべて、コレット様の仰る『祈りの神殿』の建立費に回されました。今の国庫には、一サンクの余力もございません」


ルナは冷ややかに、数字の並んだ決算書を彼に見せた。

そこには、グラウス公爵家からの「寄付(補填)」という項目が、今月から完全に消えていた。


「な……なら、君の家から出せばいいだろう! いつもそうしていたじゃないか!」


「……おじい様から、厳しく禁じられましたの。価値のないものに投資を続けるのは、ゴールドウィン卿の教えに背く『罪』である、と」


「なんだと……っ!」


フェルディナントは絶句した。

今まで当たり前のように、ルナが「何とか」してくれていた。

彼女が頭を下げ、彼女の金で穴を埋め、自分たちは「慈愛」という名の美酒を啜っていればよかった。


だが今、その魔法が解けようとしている。


「……あの、ルナ様……。わたくし、そんなに悪いことをしてしまったのかしら……」


コレットが、涙を浮かべてルナを覗き込む。


「わたくし、ただ、機械よりも人の心を大切にしたかっただけなのに。……まさか、帝国の皆様がこんなに怒りっぽいなんて思わなくて……。ううっ、わたくしのせいでフェルディナント様が困ってしまうなんて……」


「コレット、君が泣くことはない! 悪いのは、帝国と……融通の利かないルナだ!」


フェルディナントが彼女を抱き寄せる。

だが、その抱擁に以前のような余裕はない。


外では、差し押さえを宣告された商使たちが、城門の前で抗議の声を上げ始めていた。

王国の「信用」という堤防に、取り返しのつかない大きな亀裂が入った音。


ルナは、彼らを見向きもせず、密かにバルトへ目配せを送った。


(……これでいいわ。まずは、帝国の商人たちを怒らせる。次は……『軍』が動く番ですわね)


ルナの瞳は、すでに滅びゆく王国の先、自分を正当に評価する「帝国の覇王」の姿を捉えていた。

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