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「汽車男」筑豊篇  作者: アニー・ヨシムラ
第二部 第一章
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COUNT 21 ガンマット

挿絵(By みてみん)


「やっぱり、畳と男は新しいのに限るな――」


 とか、あの赤毛なら言ってそうだけど、あんたもあたしに踏まれて、悪いけど運が悪かったってあきらめてちょうだい。

 生萌なまもえは軽く蛇行させながら、新しい畳の足応えを確かめる。

――結構疲れてる感じだな、こいつも。


 んで、あたしも疲れてンのかな。さっきから身体の震えが止まらないし、息が苦しい、歯がガチガチいってる。

 左腕を身体に巻きつけたら震えは止まるけど離すとまたガタガタになる。寒い、身体が冷たい、頭と目の奥が痛い。でも頭ははっきりしてる、と思う。けどしてないかもしれない。

 ハハ、ここで何してんだろあたし。とっととおしおき済ませてお家帰ろ。


 さっきの爆発点を中心に、周囲の広くから投網を上げて獲物を追い込むように帝国軍の畳が集まって来ている。

 その広い輪の中を生萌の畳は飛んでいる。が――

「立て込んできたなっ」

 周辺を飛ぶ畳の密度がさらに濃くなった。よその空に散ってたヤツらにこっちの居場所が伝わって加勢に来てる。

 けれど微妙に距離を開けて詰めてこないことに生萌はジリついてくる。

「もうちょいこっち来なよッ」

 速度を上げた生萌を追い、近い後ろから弓状に隊列を組んで蒸撃を散発しながら圧をかけてくる一群から先鞭を付け、一枚の畳が飛び出してきて生萌の後ろについた。


 このままつつきながら、左手近くと右手側からこっちに向かってる群れとで挟んで丸め込むつもりだろう。左も右もどっちに振っても三方から回り込まれて畳まれる。このまま飛んでてももちろん。


「まあまあ集まったか? 近場のヤツは後ろと右左合わせて23枚。それと――」


ド ドッ  ド ドッ  ド ドッ  ド ドッ  ド ドッ


「ヤバっ」


 すぐ前と左右とを蒸気プラズマ弾がいくつもかすめる。通り過ぎた後の残圧に首の付け根がザワっとなる。

 生萌は畳の後端を踏んでスピードを落とす。後ろを嫌って前に出過ぎた。


 見上げれば月明かりの逆光に切り取られて、暗く大きな影が上空15メートルほどに浮いている。

 上のデカいあいつが撃って来た。裏が黒くなってて星まで映してるから角度悪いとパッと見目に入ってこないからどうにも面倒くさい。


 後ろの一群が詰めてきた。左手のもすぐそこだ。さらに左に寄せながら速度を落とす。そろそろか。あんま寄せ過ぎて、デカいのが、“撃てない、ジャマ!”とか言って散られても萌困る。


 生萌は後ろの畳との距離を測り、上空をほぼ等速で飛ぶ“八帖敷き”にチラッと目を走らせると、左手で掴んでいたフォークを足元の畳に突き刺し、その手で右腕のペグを抜いて後ろにつけた畳に放つが、身を捻った兵士の装甲スーツに弾かれる。

 兵士は体勢を戻してブラスターの狙いを生萌に定めるが――


 中点よりやや後方、裏面にある腹側円環神経節までフォークを刺し通された生萌が乗る畳は、くねり悶え、表をブルッと激しく震わせると30度程の迎角で跳ねるように飛び上がった。今までいた空間を後ろから放たれたブラスターの軌跡が通り過ぎる。

 そして“八帖敷き”との高度差を急速に詰めたが、増丹ましたんしてある軍用畳でも生萌の重さと機動に耐えきれず、丹力たんりょく枯れでノッキングを起こし帖体がガタつき始めた。


「あー ゴメンねッ!!」


 畳のチャタりを感じた生萌は、眉を下げ口元を少し歪めながらフォークを一度抜き戻すと、ぐりぐりとこじりながらさらに深く刺し込む。

 畳は畳床を弓なりに痙攣させ“八帖敷き”の正面に、のたうつ手負いの時鯱シャチが海面を割って飛び出すように跳ねた。



ド  ガ  ――――――――― ン ン ンン ン ン!


 真正面に跳ね出してきた生萌が乗る畳に向け、“八帖敷き”=重武装強化出力輸送畳〈ガンマット〉の2人の前衛と4人の側衛が、据え付けられた2連装50口径蒸気関砲の加減トリガーを絞り込んだ時、それぞれの頭上にガラス瓶が降ってきて凄まじい爆発、爆轟を起こし、畳上の9人は衝撃波で吹き飛び“八帖敷き”は畳体が真ん中でへし折れ、盛大に燃え上がり赤茶色の煙をもうもうと立ち昇らせながら沈み始めた。


 火の粉が舞い散り、爆発で弾けた破片や燃える畳の一部が炎と煙を引きながらパラパラと降る中、力なく高度を落としていく畳のへりを後ろ向きに跨ぐと、生萌はもう片方の足で軽く跳ね、後方下を右斜め前方から交差しようとしていた段違いで飛ぶ2枚のうちの1枚の畳にズドンと着帖した。


 ガクンと畳が1メートルほど落ち込むところを、もう1枚へと蹴り上がり、低い後ろ回し蹴りでドライバーを薙ぎ飛ばすと、15メートルほど下の地上に目をやり、10数人のレジスタンスを包囲して旋回する角川軍の6枚の畳を確認した。


「あー、帝国とレジのタカリ。お兄ちゃん村から追い出して、萌とお姉ちゃんの部屋爆発させたお返ししなきゃ」


 お前らが来たから、お前らがいるから、あたしがいるから、お兄ちゃんは追い出された。ひとりぼっちで。お前らさえいなければこなければ。あたしさえ――


 眉間にシワを寄せた生萌は口をムの字に曲げ、目をつけた集団のその上空、やや左、高度を現在から5メートル上がった位置へ体重移動とフォークの刺激で畳を誘導した。


 そして首から下げた縄を左手で1本掴み、軽く振って瓶に弾みをつけると下へ、ぽい と放り投げ、瓶が角川兵の頭上1メートル程の位置に落下したところで胸と尻の隙間に挟んでいたペグを抜き出し、左腕と右腕を振りペグをはなった。


 落ちている瓶のスチール製の蓋に、先を潰されたペグが突き刺さった瞬間、摩擦により金属粉の火花が弾け、密閉された瓶の口元に詰められたいくつかの速燃性素材が燃焼し導爆、伝爆した混合物の反応がブーストされ一瞬で一気に酸化、暴走し瓶の中に詰まった硝安系肥料を起爆させる――


ド ガ ―――――― ン


 2本の瓶のうち、右で放った方はペグを外した。伸びすぎた爪が引っかかったせいで狙いが逸れた。

 衝撃波にあおられる畳に揺られ、プっと生萌は頬を膨らませて左右に頭を振る。


 下にいた角川兵とレジスタンスは皆、吹き飛ばされ、膨れ上がる煙の下の地面には直径3メートル程の窪みができていた。


   * * *


「げっ! あれ、“八帖敷き”いるって!ヤバいヤバい!」


 戦闘域にいる生萌を見つけてコンバ神から畳で飛び出したヹバは、月明かりを透かして村の北側の空中で展開されている戦闘の、三つの群れを確認し、さっき映像を捉えた方位からそのうちのひとつ、教会に近い密度の高い空域を目指して急いでいた。もう少し――


 と、その空域上方に浮かぶ“八帖敷き”が突然爆発した。


「ぎゃあ―――――――! 何なにっ? うぇえっ? 何で爆発してんのっ!?」


 閃光と共に爆炎が広がり、すぐに赤茶色の煙の塊が急速に膨れ、炎が上がり無数の破片が炎と煙を引いて盛大な線香花火のように散らばり落ちていく。

 衝撃波で畳が煽られ揉まれ、遅れて腹に響く爆発音が届いた。


「いや――っ! 嘘っ嫌あの子っ無事? お願い!もう嫌ぁなんなのっ! 〈シロさん〉お願いごめん開けてっ!全開で!」


 ヹバは、前方への圧を傾け畳裏の丹密度を高めて左後ろから流れている気流に臍下から滑り込むイメージを、繊維束を通して〈シロさん〉に送り、後ろに引いて構えた右の〈送り足〉のつま先をピークまで踏み圧し、畳の出力を限界を超えて上げる。


 膨れ上がった不安に包まれて焦るヹバにシゲからの通信が入った。


「俺だシゲだ、何か今爆発したな? 萌ちゃん捕まえたか? こっちでも追ってたんだが速すぎて見失っちまって、スマン」

「ぅぇぇ大丈夫ぅ群れのアタリついてるからそっち急いでるぅ」

「わかった、けどくれぐれも無茶して割り込むなよ! それでアレの件だけどよ、Tバッ


 さっきより低い位置で、もうひとつ中規模な爆発が起きた。


「ンぎゃ――――――!」


 ヹバは通信を切り、涙を浮かべながら腰のメディックポーチを両手で抱きかかえ、意識を前方の混乱の中に向けて集中し、必死で生萌の姿を探す。


 と、


「いた! いたあれっ! 生っ!」


 まだ距離はあるが遠い空、月の輝く夜の中を、黒いスキンスーツの影が小燕ムギマキのように畳の間を自由に飛び回っていた。


挿絵(By みてみん)

(次回予告)シゲによって、パンツ問題に新たな火種が生まれヹバはメディックポーチと共に頭をも抱える。つきあってるわけでもない男になんであたしはこんな悩まされなきゃいけないのか。次回、「畳の上ふたり」

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