表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「汽車男」筑豊篇  作者: アニー・ヨシムラ
第二部 第一章
40/49

COUNT 17 魔法使いの妹 (1)

「大勢でたかって襲ってきやがって、お前ら畳の上で死ねると思うなよ――ッ!」


 後方から放たれる支援射撃のブラスターを、生萌なまもえは畳と身体のウィービングでかわす。

 こちらと並飛しながら畳体を大きく倒し込んだ畳が、前を塞ぐように左から被せてラインに寄せてくる。


「飛び出してくんな、この表六玉ひょうろくだまがー!」


 接触寸前、生萌は畳を左に傾け、自ら寄せると、

「だあっ!」

怒気を吐いて左に低く跳び、腰から左手でなたを抜き身体を右に捻りながら相手の畳に飛び移る。

 スチームブラスターを握ったまま、兵士の手首が後ろに飛んでいった。


「アタイは悪かねぇぞ、無用の殺生はアニキが悲しい顔すっから我慢してやってるけどよっ! はやって飛び出てくるヤツぁぶった斬られても文句言わせねぇからナ!」


 怒鳴りながら、もえは辺りを睨みつけ、周りを取り囲んだ野盗たちを威嚇する。


「女房子供のいるヤツもすっ込んでろ!」


「ネヲっ! ネヲはついて来てるな!? 行くぞッ! 右の後ろはまかしたからナっ!」


 左前方に穴が開いている。生萌は敵畳が薄手になったそのポイント目指して突っ込んでいく。

 意識が滅茶苦茶にネスティングしつつある混乱と困惑に飲み込まれている生萌は、胸のポケットの中で明滅している発信筒に気付かずにいた。


――あれ? 仲間が見えない。どこだ? 〆は? トメ吉は? お末は? どこ行った? ネヲは? イカリのアニキは? はぐれたんかな? アタイ一人だ。どうしよ。怖いヨ、おニイちゃんっ。


 生萌は上に跳んで右からの蒸撃をかわし、直進している元の畳にそのまま着畳しフォークを畳に突き刺すと、


――お前たちの首は畑には絶対に埋めてやらない。


畳を寝かし込み、両足を浮かせて宙に振った身体ごとフォークを90度捻じり、クイックに旋回しながら、のろまな野盗が乗る馬とすれ違いざま伸ばした右腕の鉈が一閃する。


――乱妨取らんぼうどりは許さねェ!


 オレンジ色のレンズが入ったべっ甲縁のメガネが外れて飛んでいく。

 蒼い眼少しでも隠そってかけてた伊達メガネだし、こんなに暗くちゃ誰にも目ん玉の色なんてわからんわね、と生萌は頭のアッチの隅っこであハハ~ンと笑う。


――アタイたちはお前らの食いモンじゃねェ!


 横に半回転しながら左上の畳に飛び移り、生萌は沢の岩場を、誰にもヒミツのポイントの落ち込みを目指して渓流を左右にまたいで跳びながら上流へ登っていくように、畳を踏んで跳んではフォークを、鉈をふるう。

――こっそり大物獲って帰ってまた驚かすんだ。ネヲにもないしょだ。正月でもねェのにぃー?ってみんなこんなやってんでねてすごぃ喜ぶゾっ! 得意な顔はなるたけ我慢してな、へへ。もえ、お兄ちゃんに頭なでてもらうんだ、うへへへっ。


 後ろから大きく回した左腕を円弧を描いて振り抜く。


――米を返せ、大根を返せ、あいつらの親を返しやがれっっ! ちくしょう!!


 回る視界の中で一瞬、角川兵は両目を蒼くギラつかせて吠える黒いシルエットを捉えて、自分の半生をひどく嘆いた。


――ちくしょ――っ! お兄ちゃんを返せ! あたしを帰せ――――っ!!


 少し前から急に角川兵の密度が上がった。飛び込んでこれる位置に距離を詰めてはいるが微妙にその体勢をとっていない畳が、首を振れば全方位に見える。


 何か様子が違ってきている、と警戒した瞬間、生萌の畳の右辺下から角川兵の畳が表を見せて垂直に勢いよく飛び上がってくると、畳に張り付いた坐煉ザネリが月を背にして上から降ってくる。


 生萌の瞳が今までになく濃い蒼に染まり、燃えてゆらめいた。

 月の光のなか、くうを切る坐錬の影へ蒼い瞳を向けた生萌に〈軌跡_h〉の可能性のいくつかが同時に視えた。


【こっちの畳に赤毛がドンって降りたって思ったら、それ見るより先に両手で刀、突き上げてきて】


【それ、右足を引いて身体を捻ってかわしたら】


赤毛は、右手に残した刀を返して、上から肩口に振り下ろしてくるから

赤毛は、左手に残した刀を上から外に回して、足を薙いできたから

【あたしは右斜め後ろにバク宙してるけど】


赤毛は、上にはねてる足を狙って刀を振ってきて

赤毛の、右の後ろ回し蹴りがきたんで

【足をたたんで、右手で掴んでるフォークを畳に突き立てて、あ、手首痛てぇ】


赤毛の、右膝が前からくるから

赤毛の、刀の柄頭が上から振り下ろされて

下から赤毛の、左のショートアッパーがきた

赤毛の、右の踵落としが降ってきてるから

【回りかけのまんま、足付かずにダイレクト腹ばいで畳にビタンって落ちると】


赤毛の左の低い回し蹴りが

赤毛の左の低い回し蹴りが

赤毛の左の低い回し蹴りが

赤毛の左の低い回し蹴りが

背後の真下3メートルに畳が「一ま~い」――


 腹ばいの生萌は背筋を一杯に伸ばし、身体を仰け反らせて坐煉のローキックをかわすと、そのまま全身で後ろの虚空へ跳ねた。


 しばらく星空を見上げて動きを止めていた坐煉は、南東に向かう畳を見下ろしてため息を漏らす。


「はぁー、なんであれを躱すかね、あの子ザルは! 癪だね。ま、サルだから信号筒には気づけんのだけどな」


 坐煉のハンドサインで、編成された八枚の畳は隊形を組みながら生萌を追う。


「じゃ、〈ジョージィ〉お嬢ちゃん、今度はこっちから行くからね」


挿絵(By みてみん)

(次回予告)勝手な事してるおサルハンター・坐煉は、ついにバナナを取り出して……。

次回、「魔法使いの妹」(2)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ