COUNT 13 開眼! 阿修羅ちゃん
「ていっ、だぅ! シェーッ ハッ ハアッ! キェイー! ッ カ――アッ!」
シゲはコンバ神の左右の手足を躊躇いなくふるい猛っていた。
怒涛ではあるがその青い真っ直ぐな勢いを受け流すに徹し、角川のババアはコンバ神の攻撃に最低限の肉体の反射にまかせて対していた。
ババアは想念を喉仏から頭頂に発し、その先に伸びるあの回廊を繋げた。
そして先に同期を得た彼の無限の空間に在る、強さの霞を映すミニチュアである心の内で、こねるように観想し、その密な形を捉え縋り、そして高飛車に、高圧的に、命令的に、願う。
即、それに応が生まれ、ババアの、DNBに満ちる心の内は、あらん無限の空に散らばる粒子と重なり等しくなり、広く「在」への認知が密に厳しく変化した。
己の魂の拍動を、荒ぶるDNBの波動と共振させ、ババアは同位した。
DNBの頭部は外板が縦三つに割れ、その隙間からそれぞれ、異なる時をたたえた相を持った顔が三面押し出され表を覆った。
それと同時に左右の肩部の付け根から手首が合わせて四つ、ボンと突き出し、外側に弾かれるようにしなり肘部までが展開し、そのまま上腕がパンッと伸び出し三面六臂の姿となった。
こうしては角川のババアはDNBに阿修羅を降ろし、開眼した。
「きえぇぇぇぇーっ!」
渾身の気合いとともに突き出されたコンバ神の中段突きを阿修羅ババアは掌で受け、もう一本の手で手首を掴み、もう二本の手で腕を掴み、腰を回転させながら足払いをかける。
静かに荒ぶる気が満ちる阿修羅ババアはしゅっと息を吐きながら言った。
「さあ、こっちのターンだよ」
阿修羅ババアの足払いをシゲは前宙でかわし、回転の勢いで掴まれた腕を解き、左へ飛び距離をとって構えをとる。
「来るわよ。佛様は別のキャラクターにスワップしたみたいね」
軽い興奮を感じさせる弾むような博士の声が銀幕鞘の中に響き、ヹバは鼻にシワを寄せる。
「ちょいちょい癇に障るんだよねダンシャク、いつも。そっからもう一言、何を言いたいのさ、言ってごらんよ」
言葉には出さず、ヹバは手を動かして〈コンバ味噌〉から提案された分岐処理を煮詰めていく。
博士がコンバ神のI-O/nIオペレーターに繋げ、失神している能條とリューヂの足の裏から身体に入り込んでいる畳繊維束を通して二人にナロフィニミン酸を、気持ち多め、で流し込むと、二人は弾かれたようにバンバンバンバン体を弓なりに突っ張らせて意識を「ぎゃああああぁやめてくれイヤだぁあにきぃ―――ぃぃー、へ、あれ、何?」取り戻した。
リューヂはヘルメットのオープンフェイスに当てた手にべったりと付着した血を見て血の気をなくす。
「あ? なんだ、あいつ姿変わってねえか?」
能條の覚醒は早く、ボタボタボタと頭から血を垂らしながら、すでにコンソールに指を走らせDNBとの間合いとコンバ四肢のポジション、体幹バランスのエコーを確認している。
と、
阿修羅ババアはトンと弾みをつけ地を蹴り、瞬きする間に、左右の足で半円を描くような摺り足で低く滑るようにコンバ神の前まで迫ると、左へ側転し三本の腕でコンバ神の脚を掴み、残る三本で倒立し、両足を旋回させ頭部を蹴り回した。そのまま勢いを殺さず身体全体をしならせ回転しながら後方へ飛び、六臂をひらひらと流れるように動かしながら着地し、ぴたりと型を固めた瞬間、腰下のヒマラヤスギを根元から折り飛ばしながらコンバ神の前、自分の間合いまで突っ込むと左下拳、右中掌、右下突き、左蹴り、左上手刀、右下上中突き、左後ろ回し蹴り、右回し蹴りと攻めた。
その合間には余った手を取り回し、コンバ神の手腕を取って固めようと休みがない。
コンバ神は態勢を整える間も与えられないまま、
バッ バッ バッ
と、DNBは安平立相の運びでほとんど土埃を巻き上げず、摺り足で回転しながら連続の後ろ回し蹴りを放ってきた。
掠めた足がコンバ神のグリルシールドを剥ぎ飛ばす。
「能條、代われるかっ? アイツぁ拳法使いだ」
シゲがたまらず叫ぶ。コンバ神はDNBの攻めの速さと多様性についていけず、直撃こそ避けてはいるがいいように叩かれている。低い足技はまだないがモールドレイナを攻められて脚がさばけなくなったら即スクラップにされてしまう。
「悔しいが俺じゃ手に合わねぇ、サボってねぇで腕上げとくんだった。お前の破れ九極でいけそうか?」
「待ってたぜ、それをよっ!」
顔面を血まみれのまま、能條が笑いながら弾む声で答える。
「メインコントロールを俺に譲れ。俺ならあれと闘える。コンバージョンⅡだ!」
「コンバウト!」
シゲの掛け声とともにコンバ神は5機のノーカー・マシンに分離して一斉に宙に散った。
各機はDNBから距離をとりながらその周囲を旋回しつつ、能條の乗るウインドローワーを頭部に配置する合体隊形を組んで急上昇した。電磁蒸気帯で結びついた後、ギャリアに脚部となるシゲのウィルが突入し、続けて左腕のマルチャー、右腕のモールドレイナが結合し、最後にウインドローワーがスチーム機関を停止し、機体の頭部外装が開いて「哀」と形どられた前立が立ち上がる。
「チェィンジ コンバⅡ」
能條の名乗りとともにマシンは落ちるように合体し新しい細身の形態で地に降り立つ。
能條の体捌き、重心コントロール、攻め手、守り手、受け流し、躱しの技は流れるように優雅に、舞うようにDNBを翻弄する。全可動部の出力のピークゾーンを外さず、常に力の流れは直線に繋がり打突の瞬間に最大限の圧を発し、DNBの内側を破壊していく。逆に有効打はひとつとしてもらってはいない。
DNBの腕二本はへし曲がり、顔の一つはひしゃげていた。
押してはいる、しかし足捌きがあとふたつ、ついてきていなかった。
それもそのはずで、シゲはといえば、主パイロットを能條に譲りやれやれと一息いれるためキセルを取り出し、お手製の乾燥純麻の上葉を詰めて火をつけ、一服しながらコントロールしていた。
「レスが悪い! シゲどうした? ついてこれてねぇぞ。駄目だ、ダンシャク博士、脚とバランスコントロールをO/nIに切り替えてくれ」能條は博士に助けを求めた。
「いいわよ、能條サマ」
博士はオペレーターを通してリクエスト通りにI-O/nI、組み込みスケールの“オーガニック・ナチュラルインテリジェンス”にファーマー・ウィルのコントロールを丸投げした。
主パイロットを交代せざるを得ない成り行きにプライドが傷つき、それに重ねてコントールから切り離されたシゲは拗ねて
「へいへいへ~ぃ、エースはベンチ入りですかぁ~!?」
と、野次をとばして、オートで動くレバーやペダルを見下げてやる気をぶん投げていた。
「なあなぁヹバよー、こないだのアレ、考え直してくれたか?」
ポリポリと頬を人差し指で掻きながらシゲは直接通信でヹバに問いかけた。
ガンガガン、バン ドンドゴン、ヴォン ウィ――ン、ドゴン ガン、コ――ン……。
コンバ神が手足をふるい、DNBの攻撃を受ける音が外板装甲を通してコクピットに響く。
「あぁあ? こんな時に、あっ、もうこっち! テメー何言ってんだシゲっ! 真面目にやれうわっ、えっそっちくるか? おりゃっ! 邪魔しないでよっダラァ!」
ヹバはコンバ神の右腕をふるうサブルーチンオーダーを処理する手を止めずに怒鳴り返す。
脚部とバランスコントロールをO/nIに譲ったシゲは何もすることがなくなり、手持無沙汰から2週間ほど前のヹバへの問いかけの続きを始めた。
「俺んちの婆さんももう七百二十いくつかだ、リアニメももう無理だろうって医者がよ」
「知ってるよ美愛星さんだろっ、アタシがどこ勤めてるかわかってんだろうに。うわっ、あっぶね! もう! 気が散るから話しかけてくんなってば!」
DNBの動きを読み、手合わせの対応しながら能條からの変則的なコード進行の二重三重のアクションリクエストをこなすのに必死なヹバは、いっぱいいっぱいになりながらそう言い返す。その心の内で軽く苛立ちながら。
だからだめなんだよアンタは、いつも肝心な時に気を逸らしちまう。手ぇつけたなら最後までやり通して見せてよ、カッコいいとこのひとつでもさ、そううんざりしながらヹバは指を走らせレバーを倒し込みペダル畳を踏む。
「そろそろさ、孫抱かせてやりてぇんだよな。へへへ、俺も二百五十六だろぉ、身ぃ固めてよ、婆さんに見せてやりてぇんだよ子供と、そのぅ、嫁さんの顔を、さ」
言葉の最後の方はだんだんと弱弱しくなったのを盛り返すようにシゲは早口で続ける。
「だけどお前、仕事仕事って気い吐いてるけどよォ、まぁ看護師と兼業整備士だろ。時間ないしんどいって言ってたろ。やめちまっても、って考えてもいいんじゃねぇか? どうしてもってんなら子供産んだ後はまた畑の手伝いとかよ、働いたっていいよ、俺は許すよ」
勘弁してくれ。またいつもの調子だ。漢気?はある。空回りしがちだけどやる気もある。一本気で真っ直ぐなとこはいい性根だと思うけど、目の前の目標を見失うとすぐこうなる。本気がないんだアンタには。ほんとにもう。ちくしょう、腹立つけど抑えないと。
ヹバは話しかけてくるシゲを無視して操縦に集中したいと思いながらも性格的にそれができない。
「生のお米代稼がないといけないんだって言ったろ、この前もっとっと、うわ間にっ!」
前腕で受けそこなった阿修羅ババアの掌底が肩口に当たり、ガ――ンと轟音が響き機体が軋んでヹバは身を縮める。
「あぁ、萌ちゃんの飯代か。しかしよぅ、16だっけ? 育ちざかりだっていってもよ一日十八合は食い過ぎじゃねぇか? あーんな細っこいのによ、どっか女の子的に体に問題でもあんのか? へへへっ、いったいどこが育っちゃってんデスかねぇ~?」
(次回予告)ダークサイドに堕ちたシゲ。はたして彼を闇から救い出すのは誰?。そしてヹバの叫びがシゲに届く刻……! 次回「萌の鼓動」君は、ヹバの涙をまだ見ない!




