COUNT 12 第一次対仏戦争
5人の若者たちが駆る5台のノーカー・マシンは、ぶっつけ本番でどうにか空中合体を果たし、人の姿をした身長57メートルの巨神の姿となった。
空に浮くコンバ神Vは、周囲一帯をスチームプラズマオーラの輝きで満たし、全身12か所のダクトから余蒸気を排た。
村外れにある牧場の地下に広がる秘密ヤードの、オレンジのベースライトが昏く照らす瓦礫の山の中。くたびれたパーツの玉座にうずもれてオービタル・クローラとのレーザーリンクによりコンバ神の姿をモニターしていたダンシャク博士はひとりうち震えていた。
「佛のヤローはブッ立ったままだ。このまま肉弾戦仕掛けてイッキに潰すぞ!」
頭部のメインコクピットから、メンバーにシゲの指示が飛ぶ。
その時、博士からの通信が入った。
「待ってちょうだいシゲちゃん。まだ貴方たちにはコンバ神の簡単な前後移動と停止の仕方しか教えてなかったわね」そう言うと続けて、
「この紐にぶら下がった穴の空いたコインが見えるわね。ゆっくり左右に揺れてるわ。ふふ、こんな時なのになんだかおかしいわね、でも大丈夫。いい? 背筋を伸ばして顎を引いて。リラックスして呼吸はゆっくり。軽く目をつぶって頭の後ろと首、肩の力を抜いて。そうしたらほら、貴方たちのすぐ上を白い蝶がてふてふと飛んでいるのが見えるわね、なんだか面白いわねぇ。あら、蝶は貴方の後ろの方に回り込んでしまった。でも大丈夫。今度はほら蝶がいた所に暖かい光の輝きが現れた。大丈夫、だってほらこんなに優しく輝いてるもの、ね? その光がだんだん大きくなって、貴方を優し〜く包んじゃった。は〜っ、なんだかいい気持ちねぇ。だいじようぶよだいじょうぶ。そうだ、私のお話を聞いてくれるかしら」
博士はコンバ神の操縦法をかいつまんでレクチャーし始めた――。
パン! と音を立てて博士が手を叩く。
「――というところね。ハイ、おはよう! 何か質問あるかしら? ないわよね? シゲちゃんが頭で攻撃を組み立てて方向付け。マル八さんはその攻撃のために力を出す。ヹバはシゲちゃんの言うとおりにステップして、能條サマとリューヂくんはちょっと考えながら腕をふるう。簡単でしょ? あとは実戦を通して覚えてちょうだい。じゃあレッスン2、始めなさい。見てるわよ、貴方たちの活躍を」
「押忍です、バッチリです、ダンシャク博士! みんな行くぜ!」
その掛け声と同時にシゲはセンターのスティックをアイドルから前に倒し、右手のアルティチュードレバーを引き畳の右足裏を軽く踏み込んだ。
コンバ神の機体のクリーピングと同時にギャリアのスクリーンモニタには、シゲが乗るウィルからの動力コントロールリクエスト、レスポンスのボリュームレンジとアクションチャートが表示され、マル八は機関の出力を0.05上げ、動力をモールドレイナに送る。
それを受けてヹバはウィルからのリクエストゲインに合わせて、微調整しながらモールドレイナの四つの一次スラストレバーを2度倒し込んで脚部の主蒸気噴射を実行し、じきに反転するモニタの表示を注視しつつ、アクションの分岐を整理しながら手の甲で涙を拭い、上品に手鼻をかんだ。もう嘆きは止み、今は脚部出力と機体バランスのコントロールに集中している。
そしてシゲがハンドルと右サイドのレバーを同時に前方へ倒し込み、コンバ神は頭部を下に右手を伸ばし、空を蹴りDNBに向かって跳んだ。
「喰らえっ! コンバーンチ!」
***
角川のババアは、紗がかけられたように柔らかな光に満ちた桃源郷を漂っていた。
妙なる調べと馥郁たる睡蓮の花の香りに満たされ、自我を手放し、ただそこに在った。
高い高い山と広い深い水が、あらゆる存在のすべて以上にどこまでも万遍に満ちている。
ババアは同時にDNBとリンクしている肉体が持つ意識にも在り、ふたつであり同一のババアを結ぶ回廊が繋がった。
DNBを我が力と得たババアは、業欲を引きずり出し願った。強い荒々しい力、この宇宙のあらゆる物思うモノを蹴散らし平らげる圧倒的な存在を求めた。
遠くかすかに強い意志ある密度が濃くなるのが感じら――
ゴガーン ンガググ―――ゴガガガガガ
斜めに落下してきたコンバ神のコンバンチがダイレクトにDNBの腹部をえぐり、その御御足を地に沈めた。
「ええいクソこの、もうちょいだったてぇーのにっ! 邪羅ったい、テメエら!佛殺す!!」
意識を一枚に戻して肉体と完全に重ねたババアは、四肢をふるい構えをとりながら重心を整え、上半身を巻き込むように回し、四つん這いから立ち上がろうとしていたコンバ神の胸部を左脚で蹴り上げた。
蹴りを予想していたシゲはすでにハンドルを一杯に引き右足は全力で畳を踏んでいた。
バク宙するコンバ神の眼前をDNBの足がかすめた。着地すると同時にシゲは後ろ蹴りを繰り出す。
上体を低く沈めてその蹴りをかわし地面に手をついたDNBはその手を軸に全身を回転させながら低く回し蹴りを振り込んだ。
コンバ神はその蹴りを前に跳んで過ごすと距離を詰め、正拳、膝蹴り、手刀、猿臂、後ろ回し蹴り、貫手と休まず踏み込み攻める。
「セイ! セイ! セイッ」シゲの気合いが乗った攻め手が繰り出される。
バババババッ バッ バ バ
しかし手技に対しての二次的マシンコントロールは能條がほぼ完璧に反応し効果を引き出していたものの、激しい重心変位により全身のバランスを維持する操作に追われているヹバは、それに加えての足技のリクエストに追従できず、ダンスポーズにしかなっていなかった。
コンバ神の攻撃をDNBも揺れるような巧みな足さばきでかわし、払いで受け流そうとしたが、能條の格闘センスに裏打ちされた繊細な軌道誘導によりいくつかの有効打がダメージとなり体表の黄金色がくすみ始めた。
反攻のきっかけをつかめず、ババアはここまでは連続技を受けるのみで手を出せずにいた。
「セイ セイ セーイッ! 畳掛けるぜ!」シゲのボルテージと頭に血が上がる。
「中段ウインドローワー正拳ロケット衝きィ――!」シゲの気合いとレバー操作に合わせ、コンバ神は右腕を水平に掲げる。
ドォーン!
ゴォーーーーンンンン…
コンバ神の右腕肘関節部から圧縮蒸気を吹き上げ、前腕部、能條が搭乗するウインドローワーが凄まじい勢いで飛んで行き、DNBの胸部を直撃した後、地面に落下し転がった。マル八はこの時を狙っていたかのようにウインドローワーへの配賦出力を0.01上げ回していた。
射出されたウインドローワーには約8Gの加速度に、時速300キロ前後でDNBに激突した際の衝撃が加わったが強化拳パーツとアブソーバーの働きにより機体は原型を保っていた。
転がった前腕はオートパイロットにより再噴射し、レーザー誘導と逆噴射によって、肘のコネクトポジションに戻ってきたが、能條は失神して白目を剥いていた。
博士は搭乗者の体にかかる加速度については自身の経験からあまり深く考えていなかったため、対ショック機構については重要視されていなかった。
打撃を受けたDNBの胸部は外板が窪み、その部分を中心に体表色が銀色に変わりつつある。
「セイ セイ セイ セ―――イッ!!」シゲは己の手足のように思い通りに動くコンバ神にテンションが更に上がる。
(チャンスだチャンスだ大チャンスだ! ここでもう一発ヹバにいいとこ見せておかねぇと)
「上段マルチャーロケット一本衝きィ――!」シゲの気合いとレバー操作に合わせコンバ神は左腕を水平に掲げる。
「ギャ―――ッ、イヤだイヤだッ! やめてくれ兄きィあに
ドォーン!
ゴォーーーーンンンン…
コンバ神の左腕肘関節部から圧縮蒸気を吹き上げ、前腕部、リューヂが搭乗するマルチャーが凄まじい勢いで飛んで行き、DNBの顔面を直撃した後、地面に落下し転がった。マル八はこの時は不審な動きは何もしなかった。
転がった前腕はオートパイロットにより再噴射し、レーザー誘導と逆噴射によって肘のコネクトポジションに戻ってきたが、リューヂは失神して泡を吹いていた。
ドーン!
シゲは次に、全身で回転しながら550tの体重を乗せて右腕をぶん回しDNBの喉元へ拳を突き込んだ。
続けて逆回転して体を傾けながら右の裏拳を同じく喉元に叩き込む。能條は失神中でガクンガクンと体を揺さぶられるだけで細かいコントロールはされず、慣性そのままの乱暴な加重で右腕が振るわれる。
「いけるぞみんな! ダンシャク博士、闘えてますぜオレたち」シゲが更に興奮度を上げ、高まりが顔を紅潮させる。
機体の中心軸に沿って搭乗しているシゲとマル八とヹバは意識を保っており、シゲを除く4人は顔面が蒼白になっていた。
(次回予告)次回こそ、開眼! 阿修羅ちゃん




