COUNT 14 萌の鼓動
阿修羅ババアも闘いの流れに変化を感じていた。
この農作業ドールの「脚」の動きは容易い。三十手程度先を読んでそこに正確に蹴り込んできて破れがないからこっちも誘い手、返し手を組み立てやすい。左はやる気に逸っているからまぁたわいもない。
そして、見逃さない。
「おやおや、右側がお留守じゃないのさ、どっかイッちまったかい」
阿修羅は残った三本の腕と左足の攻撃をコンバ神の右側に集めた。
「どうしたヹバ、右手の精度が悪い。肘から先が土ん牛だぞ、何やってる! 身ぃ入れろっ!」
能條が苛立ちの声を上げる。
「なあヹバ〜、前~に渡したアレよ、アレ。俺がプレゼントしたアレさぁ、いつ履いてくれんだよぉ、今日も履いてないじゃないかよぅ」
頬を軽く膨らませて頭の後ろに両手を回して、コクピットの天井鞘に目を向けたシゲが夕方から抱えていた不満を漏らした。
「はぁっ!? そんな事アンタなんで…まさか、また……!?」
「ーーーあーっ! これっ、こんなモンこれ! アンタほんっっと頭おかしいんじゃないの!?」
コンソールの込み入った裏側を身をよじって覗き込んだヹバは、シート座面の正面に米粒ほどの大きさのレンズがキラッと光ったのを見つけコードごとぶっこ抜いた。
「あ」シゲの短い間抜けな声がする。
シゲにこんな細かい真似できるわけないし、そもそも電設なんてからっきしなはず、だとすれば…。ヹバに確信と苛立ちが生まれた。
「ダンシャク博士、アンタが仕込んだの?」
交信先を博士に切り替えてヹバは腹立ちを滲ませて低い声で言う。
ドコドコドゴン ドーン バキバキ ググググウォ――ン ドドドドドっ
「そうよ~。シゲちゃんにお願いされちゃったから私が据え付けたの。6台仕込んだんだけどあと5台どこにあるかは、アナタには教えな~い」
からかうようなはしゃいだ機械音声が聞こえる。
「ムカつくわホントこのダンシャクソ野郎は――!」
ヹバの怒りはシゲに向けられた。
「シゲっ、アンタこの前もアタシたちの部屋に忍び込んでカメラこっそり隠して生に説教くらったばっかなのに、懲りずにコレ何考えてんのっ? 怒るよ!ホントにっ!」
ヹバの黒い瞳に力がこもり、怒りに任せて操作フィールドの立体コマンドを踊るような指捌きで組み立て繋げて放り投げるように処理した。
コンバ神の右腕の動きがなめらかに変化し、刺すように鋭い貫手が阿修羅ババアの左側面の顔を抉り取り、返す勾手で剥皮を剥ぎ取る。
ベキベキガガガガガ ドゴン ガン
リューヂは集中を高め、新しいアイデアを防御の腕捌きで描こうとして、両手両足で異なるリズムを刻んで動かすのに必死でいた。
「どこが気に食わないんだよ、色か? 柄か? スケすぎてたか? デザインか? フィット感? アレか、角度がエグすぎたか? 生地か? セットの上がなかったからか? サイズはピッタリだったろ」
「シゲオイ! なんでアンタがアタシのサイズなんか知ってるかよ! 知ってるわけないだろがッ!」
「まぁそこはホレ、お前んとこの庭働きのガキがな意外に使える奴でよ。じゃあよパンツな、いっぺん履いて返してくれよー。次もっと好みのやつ買ってやるからよ」
それを聞いたヹバは激高した。
「オイ、テメェ、庭働きのガキって誰の事言ってんだっ! あの子に何かさせたのかテメェはっ!? 能條! アタシは降りるっ! 離脱する! おい、シゲ後でな、話によっちゃあ …許さないからね」
「何言ってんだヹバ、今、切り離せるわけねぇだろ! モールドレイナに何かあったか!?」
突然飛び込んできたヹバからの通話に、能條は軽くパニックを起こしていた。
「いや、モールドレイナは置いてく。畳で降りる。リューヂ、アンタ右も頼む。こっちはリーチが長いからそれ活かして攻めな。守りはそっち側で徹して、肘軟らかくすんだよっ!」
ヹバは一方的に二人にそう告げ、リューヂに言い添える。
「いつも足引っ張ってんだからたまには役に立ちな! でも期待してっからね、アンタの本気見せてごらん!」と言い添えた。
ヹバは個別に各機からのみ操作可能な手動分離/ハッチレバーに手を掛けながら、地上の様子を確認した。コンバ神の腰下左前方に教会の尖塔が見える。周辺の西側の集落の建物は火の手が広がりその上空を二、三十枚の畳が飛んでいる。ほぼ帝国の畳だ。
「ん?」
ヹバはその畳のなか、素早い影がチラチラと飛び交うのに気がついた。
燃えあがる炎に下から照らされ、帝国と〈盾の団〉の畳が交錯する空間を、おかしな動きの黒い影が疾っている。
鞘モニターにその周辺を拡大させると、黒いスキンスーツを着た人影が、森の獣のように畳の間を跳んでいる姿が映った。手にした四叉のピッチフォークが一瞬、月の光に煌めく。
「生!? 嘘でしょあの子、なにやってんの!」
新規に開いた鞘モニターが、蒼い目を光らせたショートカットの少女のクローズアップ映像を捉えた。
が、カメラが動きに追いつけずすぐにその姿はフレームから消えた。
「シゲ、シゲッ!シゲ! ああ、大変どうしよう、下に下に生がいる、何でっ? あ ぁアタシ行かなきゃ!」
「何? 萌ちゃんがか、あ! あれそうか? 黒いの。俺も確認した。ヹバ、こっちのサブブームで右下カバーすっから後ろに畳で飛び出せ!」
「ありがとシゲっ! 恩に着るっ!!」
そう言ってヹバは、そう言ってしまった。ヹバは、言っちゃった。
ヹバはレバーを引いて、畳ごと後方に勢いよく射出された。
(次回予告)名無しが必死で探していた生萌はなぜだか空を飛んでいた。次回「魔法使いの妹子」。その頃、名無しは菩提樹の根元で目覚めの時を待っていた。




