表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

第十四話 薄っぺらな

はちゃめちゃに遅れました。申し訳ないです

「……これは、すごいな」


 思わず呟きが漏れる。目の前に広がるのは、すり鉢状に設計された巨大なドームのような空間だった。天井は遥か高く、そこには星空を模した光が淡く発光しながらゆっくりと回転している。座席数は優に千を超えているだろうか。その半分近くを、自分と同じ真新しい制服に身を包んだ新入生たちが埋め尽くしていた。


 「すごい人だな。試験場で見かけたのは、ほんの一握りだったということか」


 隣で澪が、珍しく神妙な面持ちで周囲を見渡している。その白い髪が、天井の光を反射して銀色に輝いていた。


 「とりあえず席に座るか。特に指定はなさそうだしな」

 「そうですね。……では、あの辺りの中段はどうでしょう。視界も良さそうですし」


 澪が指差した空席へと向かう。歩きながら、ふと気になって隣を歩く彼女に声をかけた。


 「ところで。流れでここまで来たが、俺の隣でいいのか? 他の女子とかと仲良くしといた方がいいんじゃないか?」

 「ふふん。何を言っているんですか。これも一つの『運命』というやつですよ。人間の環さんが、一人で寂しく迷子にならないよう、この私が慈悲の心で見守ってあげているんです」

 「……はいはい。恩に着るよ、案内役さん」


 軽く肩をすくめて、俺たちは並んで席に腰を下ろした。

 ふと前方のステージに目を向けると、スピーカーのような装置が等間隔に配置されているのが見えた。すると、スピーカーから「ザザ……」という、耳慣れたノイズが聞こえてくる。


 「……マイクテストか? こういう学校なら、創造能力で声を増幅させる方法とか使うのかと思ってたんだが」

 「環さん、意外とロマンチストですね。今の時代の音響設備は非常に高性能ですから、わざわざ創造力を使う手間をかける必要がないんですよ。リソースの無駄遣いは美しくありません」


 澪がもっともらしい顔で説明していると、会場の照明がゆっくりと落ちた。

 ざわついていた生徒たちの声が、潮が引くように静まっていく。


 「これより、創造者育成学校『天令』入学式を執り行う」


 壇上に現れたのは、隙のないオールバックの髪型をした男性だった。彼の凛とした声が、マイクを通じて大講堂の隅々まで響き渡る。


 「初めに、本学学長、クウアより式辞を――」


 その瞬間だった。

 何もなかったはずのマイクスタンドの後ろに、瞬きするまもなく現れる。

 会場がどよめきに包まれる。輪の目には、それがイリュージョンか奇跡のように映った。


 「……驚かせてしまいましたね。申し訳ありません。少々、会場内が賑やかだったもので。場を鎮めるために少しばかり『演出』をさせていただきました」


 銀髪を揺らし、穏やかに微笑むその女性。以前、試験の時に暴走しかけた俺を止めてくれた、あの圧倒的な存在感を放っていた人物――学長、クウアだ。


 「ですが、逆効果だったようですね。ふふ」


 彼女の冗談めかした一言で、会場の緊張がわずかに緩む。しかし、そこから始まったのは、全学生が等しく苦手とするであろう、教育者特有の「長い話」だった。


 「我ら創造者は、単なる力の行使者ではありません。この世界を理に従って整え、導く義務があるのです。あなたたちが手にしたその力は、エゴを満たすための道具ではなく――」


 最初は集中して聞いていた俺も、次第に意識が遠のいていく。隣の白月はどうしているだろうか。意外と真面目に聞くタイプなのかもしれない。そう思って横を向くと、そこには驚きの光景があった。


 白月澪、撃沈。

 姿勢こそ崩していないが、まぶたは固く閉じられ、規則正しい寝息が聞こえてきそうだ。


 「……おい、起きろ」


 俺はため息をつきながら、彼女の首筋に軽く手刀を落とした。


 「だっ!?」

 「声が大きい。もうすぐ終わる気配があるから、せめて目だけは開けておけ」

 「は、はい! わか、わかって、ましたし……た」


 目は半分しか開いていないし、言葉も噛みまくりだ。

 呆れていると、会場全体から大きな拍手が巻き起こった。どうやらようやく学長の話が終わったらしい。


 「クウア学長、ありがとうございました。続いて、来賓の紹介に移ります」


 まだあるのか……

 俺も睡魔との戦いに敗れそうになった、その時だった。司会の言葉に、俺の意識が鮮明に引き戻される。


 「続いて、現役の執行者にして、本学の特別支援者……レイ様の紹介です」

 「……レイ?」


 壇上に上がってきたのは、見覚えのある軽やかな足取りの青年だった。

 俺の目は完全に覚めた。なぜ彼がここにいる。

 レイはマイクの前に立つと、学長とは対照的に、射抜くような鋭い視線を新入生たちに向けた。


 「皆、ここにいるということは、僕のような『執行者』になる覚悟ができている者が多いのだろうね」


 彼の声は低く、しかし驚くほどよく通った。先ほどまでの弛緩した空気が、一瞬にして凍りつく。


 「だが、覚えておくといい。この世界は、君たちの薄っぺらな覚悟だけでどうにかなるものではない。才能、環境、運。世の中には、君たちの努力ではどうにもならない不条理の方が圧倒的に多いんだ」


 レイの言葉は、祝辞とは程遠い、残酷なまでの宣告だった。

今月から一週間に2回の投稿頻度になると思います。

以前よりも濃い内容にしていけたらと思うので応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ