夢オチなのか?
目が覚めた時、当り前だが病院で、私はアルビーナでは無かった。
暴走した車に跳ねられての意識不明で、私は一か月も昏睡状態となっていたらしく、私が見ていたのは長い夢だったようである。
ベッドから動けるようになったのは目覚めてからの一週間後で、その時に初めて鏡を手渡されて自分の顔を覗いたが、やっぱりアルビーナでは無かった。
だけど、以前よりもダンチで美人に見えるのは、昏睡状態で痩せてしまった事と、痩せた事で瞼の脂肪がすっきり取れて綺麗な二重になっているからだろうか。
「どうかしたの?」
「何でも。ちょっと綺麗になっているなって、喜んだだけだよ。」
母は私の頭を軽く叩いた。
この間まで昏睡状態だった人に酷い人である。
「あなたの退院は二週間後。でね、勝手に決めて悪いんだけど。」
私は失った命を思って瞼を閉じた。
私の大事なジャンは死んでしまった。
だけど、それは目覚めてすぐに父が教えてくれた事じゃないか。
いや、母は父のデリカシーの無さを知らず、だからこそ今教えようと考えたのではないだろうか?
お墓はどうしたのか、とか。
「何でも言って。覚悟はできている。お父さんから聞いているし。」
「あら、そう?あなたを撥ねた車がね、ひどい話なんだけど、死体を捨てにって混乱した運転であなたを撥ねたって事なの。」
「うわ、それは知らねえ。」
「そう?だから、お父さんが可哀想がってね、先に退院したその子を引き取ってね、今うちにいるのよ。あなたより一つ下になるのかな。大丈夫だよね。襲わないよね?」
「それは全く知らねえ話だよ。え?どゆこと?」
母は、全くお父さんたら!と娘に何も教えていなかった事を怒ったが、そういう問題じゃないだろうと思いながら、とりあえず母から事情を聞き出した。
つまりこういう事だった。
まず、定時制の高校を通いながら働いて頑張っていた青年、十七歳の克己君は、自分が厄介になっている家の一つ違いの息子が私学の大学に進む予定だと聞いて違和感を覚えた。
当たり前だよな。
自分には金が無いと言って公立の普通高校も出してくれなかったって言うのに、たっかい馬鹿私立大に息子を入れようとしてんだもんな。
おかしいって調べるよ。
そんで彼が調べたところ、自分の親の保険金をそのくそ叔父一家に略取されていた事を知ったという事だ。
そこで彼は叔父に抗議した所、逆切れしたその男と馬鹿従兄に暴行された。
暴行によって彼は意識不明の死体同然となり、殺してしまったと慌てた彼の叔父は彼の遺体を山に棄てようと考えた。
その道中にて、私に車をぶつけてしまって横転という大事故になった事で、彼も事故車から救出されて九死に一生を得た、という流れらしい。
それでもって、私と一緒に入院中だった彼は、親族がその叔父一家だけというならば、退院後には行くところが無い。
そんな事情を知った父が克己君を引き取ると申し出た。
大事な娘が昏睡中の我が父の慰めになるだろうと、誰もその我が父の思いつき行為を止める人はいなかった、という事か。
まあ、思い付きだけで突っ走る、あの男を止められる人はいないか。
柴犬ジャンだって、家族に相談ないまま連れて来た犬だった。
こいつ、熊と戦える犬なんだよ!と。
近所に熊でねーし、山菜取りも誰もしねーし。
だが、我が父は田舎の自営でそれなりな稼ぎを出しているんだ。
我が父によって恩恵を受けているからこそ、うちの親族連中こそ口を噤むかな。
「ねえ、いやかしら?あの子、暴行された時の後遺症で記憶喪失っぽいのよ。それなのに無一文の一人ぼっちで放りだすわけにはいかないでしょう。」
「いんじゃないの?」
母は物凄く喜んだ。
この人は善良な人だもんな、と思ったのに、母が見せてくれたスマホの画像の克己君は、暴行による青タンが顔に残っていようが、物凄くイケメンだった。
あの世界で出会い、私のせいで苦しめたジャンを思い出せるぐらいに、とってもきれいな顔立ちの男の子だったのだ。
そして私からゴーサインを得た母は、入院中の娘に完全看護だから大丈夫でしょと言い捨てるや、物凄く軽い足取りで自宅に帰って行きやがったのである。
ばばあ。
「全くよ。なんなんだろうね。」
明日はその克己君を連れて両親が見舞いに来る、と母は帰りがけに言っており、私はそのことを思い出しながらベッドに横になった。
母が、ジャンみたいな子よ、なんて言って笑っていたと思い出す。
そこで不安が頭をもたげた。
私の夢の中のジャンとイケメン克己君の外見は似ているが、母が私の頭の中の出来事など知っているハズはない。
と、すると、犬のジャンに似ていると母は言いたいんだよね?
姿形は最高だけど、中身は忠犬どころか危険な奴だぞ。
「人間でそれってやばくないか?」
「あ、すいません。そうですよね。お休みの所勝手に入って来て申し訳ありません。連絡もせずに押しかけて、常識のない行動、本当にすいません。ですよね。」
腰が低すぎてかえって苛つく、と、私は戸口を見返した。
戸口にはスーツ姿の男性が立っていて、とにかく背が高く体つきはしっかりしているという、私の夢の中のオスカーを思い出させる体躯をしている。
あの喋りにその体?
それだけで私の身体は勝手に動いた。
私は彼をもっとよく見ようとして、勢いよくベッドから起き上がろうと身を起こしたのだ。
だがそこで、自分が大怪我中だった事を思い出した。
いや、体が勝手に痛みを自分に訴えたのだ。
「あ、つつつ。」
「大丈夫ですか?」
私の背中に大きな手が差し込まれ、私が痛みをこれ以上感じないようにと支えてくれた。
だけど、私はその手によって思い出していた。
オスカーを。
夢の中の出来事と言えども、私は彼を愛していたのだ。
深く深く彼を愛してしまっていたのだ。
「ああ、オスカー。」
ビクンと私を支える手は止まった。
私はどうしたのかと自分を支える人を見返せば、夢の中のオスカーとまではいかないが、目鼻立ちが整っていて精悍と評するにふさわしい顔をしている。
そんなイケメン男が、目元を真っ赤にさせて私を見つめているじゃないか。




