死に時を間違えるな!
私はアロイスを追い払うべく、メテオ、なんて単語を口にしたが、それは行動選択ミスだったようだ。
アロイスは私の言葉を聞くなり、余裕そうな笑い声をあげた。
つまり、ようやくバックハウス家の人間らしい振る舞いをして見せたのである。
「それはいいな。さあ、早くやってくれ。」
「お前?」
「ここで傍若無人に暴れたお前を俺は抑える。さすれば俺が次期侯爵だ。何が次期女侯爵だ。それも伴侶にそんな得体のしれないガキを選びやがって。」
伴侶?女侯爵?
アロイスが何を言い出したのかと思った途端に、頭の中でぱさっと紙を捲る音が聞こえて、以前にも見た小冊子のような映像が浮かんだ。
特例で女性も爵位を継げる家において、爵位を継いだその女性が産んだ
子供は、配偶者がどんな身分でも正当な跡継ぎとなれる。
また、爵位を継いだ女性と次代継承権を持つ親族男性との婚姻が為された
場合、爵位は繰り上がって結婚相手に譲られる。
もう一度ページが捲られた。
そのページは犬の血統書のような表だった。
つまり、血統のツリーによれば、目の前のアロイスは私の次に侯爵になれる位置にいたということだ。
実際はアロイスの父である叔父の方が先であるが、私の父の一つ違いと考えれば、老衰だったら兄の先かあとか、そんな感じになるからである。
私が侯爵になっている間に、確実にあの世に召されるのは間違えようもない。
で、私がアロイス以外の男と結婚すれば、いや、私が子供を生んでしまうと、アロイスの継承権はどんどん下がっていくのである。
「はあん。侯爵になりたいお前は私と婚約したいって事ね。」
真実を突かれた男は、両の頬骨のあたりを赤く染めた。
七歳と十八歳の婚約など気色が悪いが、今後の面倒を考えればこちらから婚約という果実を差し出した方がいいか?
いざという時は、私がこの男を倒せばいい。
私はアロイスよりも確実に強い魔人なのだから!
「お利口さんにしているなら考えて差し上げても良くってよ。あなたとのこんやって、きゃあ。」
私は横から飛び込んできた影に手首を掴まれた。
ジャンは私の手首を掴むと、有無を言わさずに走り出した。
私も走るしかない。
だって、ジャンの判断だ。
それに思いっ切り走るのは、この世界に来てから初めてだ。
前世ではジャンと当たり前のようにして走っていた。
二人だけの全力疾走は、私達が祭りの人込みに紛れるまでのほんの数秒だけだったが、私は全力で走った爽快感にかなり気分がよくなっていた。
「ふふふ。」
「笑い事じゃないです!何をあいつと婚約しようとしているんですか!」
「え、だって、面倒だなって。」
「め、面倒で婚約なんかしないでください。俺がそんな面倒を何とかしますから!命を懸けてもあなたをお守りしますから!」
「アロイス如きに私が倒されるとも?命の懸け時を間違えてなくない?」
「あなたがお強いのはわかっています。だけど、服従の指輪とか嵌められたらどうするおつもりでした?」
服従の指輪?
ぱさっと紙が捲られる音が頭の中で響き、それは親切な私の頭による説明の展開の始まりだと私は集中した。
服従の指輪
魔力を封じる目的で作られた指輪
嵌められた者は嵌めた者に隷属しなければ
体中を苛む痛みを受け、
抵抗を続ければ最終的に肉体が爆発する
知らなかった!
知らなかった、ありがとう!ジャン!
内心は物凄く動揺していたが、私はアルビーナというキャラを守るため、出来る限り冷静な声を出した。
「そ、そんなの。」
後が続けられない!
まじで私はビビっている。
「俺はあなたがあなたじゃ無くなるのは嫌です!」
ジャンの顔は真剣だった。
私に言い聞かせようとした柴犬ジャンみたいに真剣だった。
まあ!
私は嬉しくなってさらに笑い声をあげ、ジャンの腕に再び腕を絡ませた。
ジャンったら、最高かよ!
「あ、ありがとうございます。」
あ、口に出していた?
でも、いいか。
格好いい男の子と腕を組んでお祭りなんて、今の私はリア充そのものだもの。
お読みいただきありがとうございます。
これでお子様時代出会い編は終わりです。
次章はアルビーナが少し大きくなった十二歳の話です。
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