私達はいつでも一緒だ
私が十二歳になってすぐに、この世界の私の父は亡くなった。
老衰でも病死でもない。
魔人バスター?
前世の世界の小説や映画などのモンスターものには必ず出現する、モンスターハンターがこの世にもいるって事だ。
そいつは馬車に乗ろうとした父に切りかかり、ほんの一瞬で父のお付きも含めた六人を切り捨ててしまったのである。
術者の弱点をその男?女?は知っていた。
虚を突かれれば、魔人だろうが魔女だろうが、魔法を出せないのだからただの人と同じ条件になる。
斬られれば死ぬ。
父の葬式が終わるや直ぐに、私に向けて王城から書状が届けられた。
父の仇を次期侯爵として取れ、という命令だ。
仇を討つまで爵位は王が預かり、我が侯爵家の財産管理は私が不在の間は叔父が受け持つ。
早い話が、私の父の死を良い事に、十二歳の子供から権利を奪ってしまえと叔父が頑張ったのであろう。
だが、十二歳の子供に仇討ちを命令してしまうぐらい、魔都ミザナは父の死から戦々恐々となっているのも事実なのだ。
社交パーティなど格好の餌食の場になると自粛され、貴族達は自分の領地に逃げ帰って籠ってしまった。
「俺も付いて行きます。」
強張った表情で自分の剣を持った男が、私の部屋の戸口から宣言の声をあげた。
私が十二歳ならば、ジャンは十五歳になってる。
まだ少年と呼ぶべきだが、彼は柴犬属性を捨てたかのように大きく育った。
まだ百八十は超えていないが、十五歳で百七十を軽く超えている。
それでも線が細いので、誰が見ても凄い美青年だ。
うん、私がデザインしたお仕着せも似合っている。
詰襟は陸軍の軍服が元だと前世の父が言っていたので、私はこの世界で黒い詰襟の制服を作り、それをジャンに着せているのだ。
良いじゃない!
私は我儘が効く侯爵令嬢って設定だもの。
だけど、ジャンを見た他の貴婦人達が、同じような制服を作って愛人に着せるようになってしまったとは、私は許せないことこの上ない。
制服はスケベ服じゃないよ!
「アルビーナ様。」
私の奴隷だと自称する男が、私の注目が無いと苛立った声をあげた。
ジャンは成長するごとに我儘になり、私は柴犬ジャンの再来だと喜び、彼の我儘は留まるところを知らない、という感じとなっている。
そっちの方が私が楽なのでそれでいい。
彼に好き勝手に屋敷を警護させ、私の行くところどこでも付いてくるならば、私も彼もハンターに屠られる危険性が少なくなるのだから。
「俺の話を聞いていただけませんか?」
「聞いているし、何をいまさらよ。それよりも支度は出来たの?私の荷物は詰める人がおりますから大丈夫ですが、あなたの荷物は自分で詰めるのよ。」
あ、物凄く不貞腐れた顔をした。
もしかして、彼は鞄に荷物を詰められない?
だから、ジャンの荷物を用意しなさい、なんて私が召使いに命令するように持っていきたかったの?
「あれれ?はは。もしかして、鞄に荷物を詰められないのかしら?」
ジャンは頬骨のあたりを真っ赤にした。
毎日の風呂で垢なんか見つけられないほどに清潔な彼だが、日に焼けて健康的な肌は全然白くない。
くすんでいた金髪は反対に色が抜けて白っぽくなってしまったが、小麦色の肌にはかえって映えている。
そして、全く変わっていない黒い瞳が、出会った頃には考え付かない、不貞腐れたもので私をねめつけているのだ。
私が主人なのに何て生意気!
私は笑いながら戸口に向かい、ジャンとすれ違うそこで、ぽんとジャンの背中を軽く叩いた。
「アルビーナ様?」
「私があなたの荷物を詰めてあげましょう。」
「え、いや、あの。」
彼は口ごもり、身を翻すや一気に廊下を駆けていった。
私も笑いながら彼の後ろを追いかけた。
まだ十二歳で嬉しいわ。
いいえ、これって、恋人同士の追いかけっこってやつ?
「うひゃひゃひゃ。」
あ、ぴたっとジャンが立ち止まった。
そして私に振り返った。
それから私の方へ歩いてくると、私に腕を差し出した。
「何?」
「すいません。置いてきぼりにしてしまいまして。そんな混乱した声を出されるとは、本当に心細い思いをさせて申し訳ありません。どうぞ。案内するのが自分の部屋というのは本当に気恥ずかしいですけれど。」
私はお嬢様の顔を取り戻すと、ジャンの腕に自分の腕を絡めた。
出会った七歳から最近まで、私は彼の腕に自分の腕を絡めていた。
彼も腕を差し出して来たから。
でも、彼は私の父が亡くなるや、一歩も二歩も私から遠ざかるようになった。
だから、一緒に来たいと言ってくれて嬉しかった。
ごほ。
あれ、ジャンが私から顔を背けて咽ている。
「どうした?」
「あなたのお言葉が嬉しくて。」
「純情か!」
口に出していたとは!でもって、そんなに喜んでくれていたとは!
本気でジャンはなんて可愛いんだろう。
近隣では令嬢どころかその母親達全ての熱い視線を集めるぐらいに美青年なのに、彼はいつだって私しか見ていない。
私こそ、彼の一挙手一投足から目が離せない、のに。
「あなたは死なないでね。私を守っても死んではいけません。」
「はい。俺はどこまでもあなたと一緒です。」
ジャンはこっちに顔も向けずに、いつもの台詞を繰り返した。
ほんの少し涙声のような気がしたから、それはかまわない。
私はジャンの腕に絡めた腕に力を込めた。
十歳からの鍛練によるものか、ジャンの身体はどこもかしこも硬くなっている。
でも、とっても温かい。




