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目の前の男の目的

 いつの間にか私達は囲まれていた。

 私とジャンを取り囲むのは、横にも縦にも無駄に大きく、揃いも揃ってスキンヘッドということで、私は彼らをオークと名指ししたい。

 だけど、オーク風のそいつら全員がそれなりの黒服という、風体には似合わないスーツ姿である。


 そして、そんな男達の仲間をさらに二人従えて姿を現わせたのは、白っぽい金髪に金持ちそうな服装をした青い瞳の優男であった。

 長髪に派手な白スーツは、髪が白すぎるからかえって似合わない。

 バラ模様みたいな悪趣味な色柄が似合いそうなのにな、そんな風に考えながら見ず知らずの男を見返した。


「久しぶりだねえ~。アルビーナ。」


「誰だ?」


 私の一言で優男は怯み、彼の後ろのデカブツ二人と、私とジャンを囲む三人は、一斉に殺気のこもった怒りのオーラを生み出した。

 アルビーナが以前に倒したギャング団であろうか。

 だが、私のイベント記憶のギャング団の面々には、目の前の男はいない。


「あ、そうか。覚えている奴らはみんな死んじゃったかあ~。」


 思わずのセリフだが、あからさまなぐらいに優男はさらに怯んだ。

 少女漫画では好意的だろうが、実写の長髪は美しくないなあ、なんて優男を見つめていると、男の胸のあたりにクリップボードが出現した。


      アロイス・バックハウス

     アルビーナの父方の従兄 十八歳


 それだけかよ!


 だが、感謝の方が大きかった。

 モブ程度の情報しかないが、世界を知らない私には登場人物の名前を教えて貰えるのは実はとてもありがたいのである。

 私は顎をあげると、ジャンの腕に腕を絡め、従兄に物申した。


「去れ。」


 私はジャンとリア充するのよ?

 アロイスは取りあえず外見は整っているかもしれないが、ジャンの可愛いい恰好良さには敵わなくてよ?

 そんな気持ちだ。


 いや、柴犬ジャンと散歩している時の私に戻っていた。


 散歩の邪魔をするんじゃねえ!

 この犬は誰彼構わず噛みつくんだぞ?

 この犬の喧嘩行為を止めるために手を出して、私は何度も自分の腕をこいつに噛まれているんだぞ?

 そんな気持だ。


 だって、ジャンはまだ十歳の癖に、やる気満々だ。

 どうして剣術武術なんて仕込ませたかな?


 私はジャンが余計な行動を起こさないように、さらにジャンの腕に絡める腕に力を込めた。

 て、私の腕は簡単にジャンに振り払われた。


 どうして体術を彼に仕込ませたかな?


「安心してください。あなたをお守りします。」


 ジャンは私の一歩前に出た。

 と同時に、大男の一人に横から蹴り飛ばされた。

 私は右手をその男に向けていた。


「去れと言ったあああ!」


 ジャンを蹴とばした男は、私の魔法をもろに受けた。

 ジャンがスっとんだ三倍の距離は、そいつは確実に飛んで行った。


 やられたらやり返す。


 右方向で物の壊れる大きな音と、人々の悲鳴が次々に起きた。

 そして私の目は転がされたジャンではなく、男達を仕掛けたアロイスから一切動かしていない。


 犬との喧嘩は、目を逸らしたら負けである。


 言い聞かせる時も目を見つめ、お前を殺すぞ?そんな勢いで対峙しないと犬との主従関係なんか結べない。

 勘違いした奴は簡単に犬を叩くが、叩かれた犬はさらに狂暴になる。

 それは叩かれたからではなく、人間が叩いても大したことねえな、それを学習させてしまうからである。

 それどころか、自分は愛されていない、その感覚ばかりが大きくなるのだ。


 だから、人間は凄い怖いんだぞ、そう思わせながらひたすら犬を言い聞かせねばならないのだ。


 柴犬は言い聞かせられなかったが。


 ジャンこそ私を言い聞かせてくるのである。

 私を睨みながらうにゃうにゃと犬語を喋り、私が動けば唸り、そして、延々と、私がごめんなさいと謝るまでうにゃうにゃ語が続くのだ。

 きっと人語に直せばこんなことをあいつは言っていたんだろう。


「男の喧嘩に女が手を出すんじゃねえよ。大体こっちはてめえを守るために喧嘩してんだろうが。分かってんのか?」


 良い犬だねえって、近づいてきた気さくなおっさんに余計な喧嘩を売ったのもお前だし、私に怪我をさせたのもお前だ。

 そんな事を思い出しながら、私は従兄を睨んでいた。


「アルビーナ。」


「祭りだ。皆が楽しく沸き立つ祭りだ。私にメテオを召喚させたいか?」


 私は右手を空に差し上げた。

 それから、魔女に見えるように口元を歪めて見せた。

 当たり前だが、従兄のお付きの連中こそ動揺し、私にもわかるぐらいの脅えという空気をまき散らしていた。

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