最大の裏切りに行きます
アルビーナはオスカーの術によって深い眠りに入った。
オスカーは腕の中の眠っているアルビーナの唇に口づけた。
「すいません。これから私がすることはあなたに見せたくはない。」
彼はアルビーナをゆっくりと床に横たえると、離れがたいという風に、彼女の髪をひと房持ち上げて、そこに口づけた。
「は、はは。きりがないな。」
それからゆっくりと立ち上がった彼は、剣と銃を手に持つと玄関へと向かった。
外に出たオスカーは周囲を見回した。
雪が積もった中に青々とした木々も存在するという、冬の雪山ではありえない光景だと口元を歪めた。
「本当に自分は嘘つきだよ。こんな世界を作り出せるだけあるな。」
オスカーの術によって生やされた家の周りの植物という植物は、オスカーに危機を知らせ、また周囲についての映像を脳裏にもたらすという、自動警報装置となっている。
よって、オスカーは自宅に向かって進撃してきた兵士の人数も、その部隊が誰なのかもはっきりと認識していた。
バールの元にいた時に、一緒に訓練を受けた戦友達がそこにいた。
騒々しくパーティが大好きな、アンカー、クレマー、そして、ツウェルナー。
反対に物静かな、ベルツとヴューラー。
彼らの中でクレマーは術者となるが、微力すぎてそこは脅威ではない。
彼らが脅威なのは、純然たる猟犬としてバールに仕立てられていることだ。
剣や銃の腕はもとより、戦闘中の咄嗟の判断が早いのである。
そして、そんな戦友達を率いているのは、ジャン、だ。
オスカーはアルビーナから授けられた剣を握った。
彼女を守りたいとほざいておきながら、彼女を確実に壊す行為、ジャンを討ち取ることに喜びを感じているとはと、彼は自分の浅ましさを嗤った。
「だけどね、彼女だけは誰にも渡せない。友人達よ、すまない。」
オスカーが右手を払うと、静かなる樹海に銃声が響き始めた。
蔦は進軍者達の足や腕に絡まり、持ち上げ、余計な射撃を促した。
アンカーの銃弾によってツウェルナーの脳天が弾けた。
蔦を切り裂こうと剣をを振り回したベルツによって、アンカーの首が飛び、クレマーの腕をも切り裂いた。
ヴューラーはどうしたか。
自分の銃で自分を撃ち抜いている。
ジャンはどうしたか。
「すごいな。彼は本当に凄い。」
次々に仲間が倒れる中、助けるどころか彼は走ったのである。
感覚が鋭いのか、なぜその方角だとジャンはわかるのか、ジャンはまっすぐにオスカーへと向かってきていた。
オスカーはそれでも変わらずゆっくりと歩いている。
戦友達が受けている惨劇を感覚的に感じながら、彼の殺すべき相手の元へと向かっていたのだ。
オスカーは剣を抜いた。
数分後、二人は対峙した。
冬でありながら鬱蒼と繁る木々や下草がある世界で、双子のような剣を持った二人が出会ったのだ。
ただし、感動の再会と足を止めるどころか、ジャンは真っ直ぐに向かって来た。
足を止めれば何が起きるのか彼は理解しており、ジャンはオスカーと同じ目的によって動いているだけである。
すなわち、あいつを殺せ、だ。
ジャンの剣はまっすぐにオスカーに振り降ろされ、オスカーは剣を受けるどころか流したうえで、ジャンの側面を蹴りつけた。
「うわ。」
「君はまっすぐすぎるんだ!」
「お前こそ真っ直ぐだと思っていたがなあ!」
ジャンは言い返しながら空中で身をひねり、その動作のまま再びオスカーに向かって来た。
早い、と、オスカーはジャンの瞬発力に舌を巻いた。
蹴られてよろけるどころか吹っ飛んだのは、ジャンはオスカーのリーチから離れて体制を整える為だったようだ。
そして、蹴りによって足元を不安定にさせた人間への突進。
剣と剣はぶつかり合い、火花が一瞬煌いた。
いや、違う、とオスカーの意思は違和感を急に感じていた。
今のは自分の視界がスパークしたのだ。
「これで!」
ジャンは大きく剣を振りかぶり、オスカーはその剣を受けようと剣をふりあげ、そこで腕が動かないと驚いた。
彼の手元は真っ赤に染まっていた。
先に殺した勝手の戦友たちのように蔦が絡まっているわけではない。
オスカーは自分の体中から血が溢れていることに初めて気が付いたのだ。
左肩に銃弾を受けている。
右足にも、左足の腿にも、だ。
気が付いて、気が付いたからか、彼の足元が揺らいでバランスを崩した。
一瞬の気が途切れたところをジャンが見逃すはずはない。
ジャンの剣はオスカーの胴体を横払いし、オスカーはその剣に切り捨てられながら横に倒れていたのである。
だが、オスカーの意識は、ありえない、と叫んでいた。
彼の体がすでに受けていた傷は、ジャンに負わされたものではないのだ。




