君に伝えなかった私の責任
混乱した生存者達はオスカーと一緒の私を彼らの敵と見做したのか、あるいは逃亡を邪魔する障害物にしか見えなかったのか。
彼らは私を突き飛ばし、地面に大きく転がせた。
その後は無我夢中という風にして、彼らはどこぞへと一斉に駆け出して行ってしまったのである。
「待ちなさい!その先のノルやパルカは、まだニクテリスがいるのよ!」
「あなたはここで大丈夫ですか?」
私が突き飛ばされただけで踏みつけられなかったのは、すぐさま私を抱き起して盾のようになってくれたオスカーのお陰だろう。
その彼が私におかしな言葉をかけたが、それは、自分が村人達を連れ戻すので、それまで私はここで一人で大丈夫かと聞いているに違いない。
いや、それで間違いなかったようだ。
彼は私の返事も待たずに、踵を返して大地を蹴りかけた。
「大丈夫じゃない!待って。」
私は叫びながらオスカーの背広の後ろを両手で掴んだ。
すごい。
オスカーはぴたっと止まった。
ジャンだったら私は振り払われていた事だろう。
「放してください。私はあなたに乱暴はしたくはない。」
「私もあなたに乱暴はしたくは無いから動かないで。混乱した人達をどこまで運べるかわからないけど、モニター術を使ってみる。」
私はオスカーから手を離すと、大きなモニターを作り上げた。
私はモニターによる瞬間移動術でモイラに直接来たので、ロアストクからここまでの道筋など全く知らない。
そこで逃げてしまった生存者達の最後尾の人間の視界を使い、彼等の様子を探ろうとしたのだが、モニターに映し出された映像には驚くばかりだ。
「うわあ。とっくに拘束していたのね。」
オスカーは彼の草系?魔法で村人達を捕まえていた。
これで少しは落ち着けばいいと思ったが、オスカーが珍しく舌打ちをした事でオスカーの術がさらに村人を追い詰めたのだと知った。
彼らは肉に草の蔦がめり込んでもあがき、歯が欠けても構わないという勢いで蔦を噛み切ろうと挑んでいる。
「彼らの中は恐怖ばかりしかありません。混乱しすぎて人間の思考が出来ない状態です。」
「そう。それで私達は彼らの混乱が収まるまで面倒は見てあげられないわね。」
「ええ。それに保護した所で彼らが正気に戻れるのか、それについても私には計りかねます。」
「わかった。では解放して。私のモニターで彼らを遠くに逃がしてみる。」
私は言葉通りに村人達がいる場所にモニターを作り出した。
神様からの手助けに見えるように、少しだけ明るく輝かせて作り上げたからか、オスカーの戒めが外れるや否や、彼らは迷わずにそのモニターの中へと次々と飛び込んでいった。
「それはどこに繋げました?」
「ロアストクが見せてくれたモニターに、ニクテリスの侵攻を防ぐために作り上げられたバリケード映像がいくつかあったでしょう?一番近いバリケードがある辺りに出られるように設定してみたの。」
「え?アルビーナ?」
彼らを映していたモニターに、今度は彼らが出現するはずの平野を映し出した。
ノルに一番近いラケシル村。
対ニクテリスの前線基地のようにして、今や村の周囲には土魔法の魔人によって作り上げられたバリケードが聳え立ち、要所要所にてロアストクが配置したライフルを持った私兵が見張りについているという場所だ。
「ここならば安全でしょう?」
「待って。そこはもっと危険だ!村人達を戻して!こっちに戻して!」
「え?」
聞き返す必要も無かった。
村人の姿が現れるや、見張り台の兵士は一斉に銃を構え、一斉に引き金を引いたのである。
誰何も何もない。
無言で構えて、威嚇射撃も無く、殺すためだけに撃った。
彼らは次々と真っ赤な血花を咲かせながら地面に倒れ、私は自分が作り上げた虐殺現場を見つめる事しか出来なかった。
「あ、あああ!」
私が殺した!
私の浅はかさが彼らを殺した!
「ああああ!」
「あなたのせいではありません。あなたは知らなかった。あなたは俺達兵士がしている汚れ仕事を知らなかった。」
オスカーは私を彼の胸に引き寄せて抱き締めた。
私はオスカーにしがみ付き、自分が台無しにしてしまった人達の魂を思って、罪悪感だけで叫んでいた。
「あああああああ!」
彼らへの憐憫じゃない。
これは私が泣いて済む結果なんかじゃない。
「仕方が無いんです!俺だって殺して来た。村の中など確認もせずに、村ごと焼いたことだってあります。あなただけのせいじゃない!あなたに隠し事ばかりの俺のせいだ!」
「私のせいなのはわかっている!適当な事を言って慰めるのは止めて!あなたは私に嘘を吐いたことだって無いじゃない!」
「――あります。嘘ばかりです。」
オスカーの声は低く、暗くて、私はそれだけでぞっとした。
彼の顔付こそ死人のように青白くなっているのだから尚更だった。
私は自分の世界が壊れていく感覚に陥ってくようで、それ以上のオスカーの言葉が怖くて聞きたくなどないと思った。
それなのに私の口は勝手に動いていた。
「何だって言うの?教えてちょうだい。」




