戦果と生存者
モイラ村のニクテリス達は、数分絶たずに私達によって殲滅された。
私の最初の業火で大体は燃やしたが、焼き洩らした奴らについては、それはオスカーが今までの鬱憤を晴らすかのようにして、斬って斬って斬った。
流石元兵士。
えぐいぐらいに敵をなますにしていく癖に、無駄な動きが一切ない。
そんな感じで私が見惚れているうちに、あっという間にモイラのお掃除が終わった、という感じである。
さて、掃除が終わればここは私達の隠れ家で前線基地にしなければいけない。
しかしながら、同じ吸血鬼であるはずのイカロリアス人から侮蔑を込めて彼らが蝙蝠と呼ばれるのが分かるぐらい、彼らの思考も生活習慣も衛生観念も人間からかけ離れていた。
半分吸血鬼化しながらも死体として腐るしかなかった人達や本物の死骸が、適当な所に打ち捨てられて山となって液状化しかけている。
また、ニクテリスになってトイレを忘れたのか、そこいらじゅうに糞尿の山があり、床なんてどこも吐しゃ物だらけだ。
モイラ村の家々全て見回ってみたが、人などが二度と住めないぐらいにどこもかしこも同じような汚され具合だと知るだけであった。
納屋は単に睡眠専用の場所だったらしく、夜になれば普通の住居に戻り、そこで人間の最悪の部分を出した宴会を毎日行っていたようなのだ。
モイラに現存する建物どころか、モイラそのものをメテオを落として完全に燃やし尽してしまいたいほどの汚れ具合である。
「どうするかな。こんなとこ住めな~い。」
「人間みたいに家も移動出来たらいいのに。できませんか?」
「そんなん無理~。私に期待し過ぎだよ、君は。」
私の肩にオスカーは腕を回した。
そしてぎゅうという風に自分に引き寄せた。
「どうした?」
「俺が惚れたのはこのあなたです。」
「はい?」
オスカーは私から腕を外して私から離れていってしまったが、なんと機嫌よく鼻歌を歌っている。
私は彼の後姿を見つめながら、意味が分からないと肩を竦めるしかない。
「モイラの粉挽き小屋はどこにありますかね?」
「え?」
オスカーは振り返ると、私ににやりと笑った。
私はオスカーの言わんとしている事に気が付いて、同じように笑い返した。
村が出来るには川が必要だ。
そして、川があれば水車があるもので、それを動力にして巨大な石臼を動かして小麦を挽く装置が設置されているものなのだ。
「待って!モイラの地図を作る!たぶん畑よりの人里離れた場所で――。」
「収穫も粉挽きも終わったそこは締め切っている。小麦の番に寝泊まりできる部屋があるかもしれないし、無くても清潔で屋根があれば今の私達には最高の寝床となる。」
「さすがだ!オスカーったら!」
私達は互いに手を叩き合った。
「きゃあああああ!」
「うわああああ!」
複数人の叫び声に、私達は顔を見合わせた。
まだ生きている人達がいた?
私達は今いる建物を飛び出すと、叫び声が起こっただろう場所へ向かって駆け出した。
騒ぎの声が上がったのは、私達が最初に見回った村長の家だった。
誰もいなかったはずの家の玄関から、悲鳴をあげながら十数人の村人らしき人達が飛び出して来たではないか。
「そっか、地下室は見逃していた。」
「私も完全に見逃していました。どうせってね。」
私達が見逃していた地下に食料として閉じ込められていた人達なのか、彼らはこの世界では珍しく半裸に近い状態の若い男女ばかりである。
そして彼らは全員が全員、見るからに混乱しているのか、悲鳴ばかり上げている、という混乱状態である。
「大丈夫か?もう大丈夫だよ?」
そして、助け手であった私が一歩彼らに踏み出すと、飛び出てきたばかりの男女は、再び大きな悲鳴を上げた。
私は鼓膜が破れそうだと両手で耳を塞ぎ、オスカーを振り返った。
オスカーは村人の一人を捕まえて、右手を後ろにひねり上げていた。
「って、どうした?襲って来たのか?」
「普通に混乱状態です。このまま村外に出たら死ぬだけですから捕えました。だけど、彼等はもう人としては正常な判断がつかない状態ですね。」
オスカーは大きく溜息を吐くと、その男の手を簡単に放した。
オスカーの戒めが消えた男はオスカーの足元にぐしゃっと転がり、それから四つん這いのような姿でオスカーの足元から必死に離れようともがき始めた。
もがくだけでその場から動けない?
私はどうした事かを男を見つめていると、その男の両手首や両足の膝まで、いつの間にかゆさゆさ生えている草に絡められているのだ。
私は四つん這いの男を見下ろすように聳え立つオスカーを見返し、彼が何かを思い悩む眼つきで男を見ている、という状況を見守るしかなかった。
オスカーには考えがあるのよね?
数秒後、オスカーはがっかりした様にして首を横に大きく振った。
すると草の戒めも剥がれ、戒めから解放された男はけたたましい悲鳴を上げるや、両腕を天に向かって突き出した。
小指側の腕の側面に切り込みが走った。
そこから半透明な膜が生まれ、腕は小枝のように伸びていき、蝙蝠の翼のような姿へと変化していった。
「ひゃあおおおおおおう。」
次に男の目は薄い青の虹彩どころか白目までもがみるみる真っ黒に変わり、暗黒に陥没したような穴みたいなものへと変化した。
「え、ニクテリス、だった?」
私が驚きながら見つめる中で、男は更なる変化をしていった。
口元が前に突き出していき、その動きに合わせて鼻はめくれあがってブタのようなものとなり、顔の下半分が人のものでは無くなったのである。
「ふひゃああああ!」
男はオスカーにではなく、数人の脅える村人ではなく、地を蹴って私へと向かって飛び掛かろうとした。
ばさ。
だが、男は飛び掛かる気配を見せただけで、全身から真っ赤な血を弾けさせながら地面に倒れた。
オスカーが斬ったのだ。
私はたった今の出来事に意識を奪われており、そのせいで周囲に気を配ることも忘れた。
「ひゃわあああああ。」
「きゃひいいいいいい。」
生存者達は仲間だった者の変化と今のオスカーの殺人行為に恐慌をきたしたのか、再び混乱の悲鳴をあげた。
そして、私が気が付いた時には、私は地面にうつ伏せに倒れていた。
彼らは、脅威を感じたオスカーではなく、ぼけっとしていただけの私を突き飛ばしてくれやがったのだ。




