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互いしかない私達

 私はオスカーの左手に自分の右手を重ねていた。


 慰めたくて?


 いいえ、単に落ち込む彼に触れたかったのかもしれない。

 私を愛していると告白した男性のその献身ぶりに、私はただただ胸が締め付けられるようで、彼に何かを返したい気持ちばかりが溢れていた。


 だから!


 違うでしょう!


 私は落ち込む彼に触れたかった。


 だって、

 だって?


 だって彼は温かいもの。

 生きているのよ?


 だから私は、身を差し出す思いでオスカーに、オスカーが望んだその先について答えていた。


「いいわ。私達はこの先も夫婦でいましょう。」


 私は顎をあげて目を瞑った。

 オスカーから、はっと、詰めていた吐息を吐き出す音が聞こえた。


「アルビーナ?」


 私はオスカーへとさらに身を寄せた。

 私の唇に温かく柔らかいものが触れた。

 怖々と、それでも私の唇の感触を味わう様に、軽く彼の唇は私の唇を掠った。

 キスではない、唇が触れただけ。


「いいのよ。」


「あなたを怖がらせたくはありません。そして俺は、あなたに愛されたい。」


 私はオスカーの首に両腕を回していた。

 オスカーは動かなかった。

 カチカチに体を固めていた。


 自分を愛してくれなければ、自分は決して動きません。


 私は自分を愛しているその人の愛の深さを知って、だから、その人を大事にするためにその人の首に掛けていた腕を解いた。

 それから目を開けて彼を見つめた。


 オスカーの空はいつもと変わらない綺麗な色なのに、私には押しつぶされそうな空色にしか感じなかった。


 私はもう一度彼の体に両腕を巻き付け、腕にできる限りの力を込めて彼を抱き締めた。

 壊れそうな彼がバラバラになってしまわないように。


 いいえ。

 私の心が粉々になりそうなの。

 だって私のジャンはいなくなってしまった。

 私は一人なの。

 あなたしかいないのよ。


「アルビーナ様、俺はもう限界です。俺から手を放してください。」


「うん。ごめんなさい。」


 私はオスカーから離れると、そのまま立ち上がり、踵を返して。

 私の手首はオスカーに握られている。


「オスカー。」


「忘れてください。ぜんぶ、忘れてください。あなたを泣かせるつもりなど私は全くなかった。あなたを泣かせるつもりなど。」


 オスカーは私を自分に引っ張り、いつものように私を自分の腕に抱いていた。

 だが、いつもと違うのは、彼の腕の中で私は彼の唇を受けいれていた事だろう。


 私達は求めていた。

 互いを。

 だから、口づけし合うのは全くおかしなことではなかった。


 その先を求めてしまっても、止めることだって必要は無い。


 だって私達は互いしかいなくて、互いだけなのだから。

 私はオスカーに抱きしめられオスカーの肌を少しずつ知りながら、明日自分が後悔していたら怖いと少しだけ思った。

 私達の関係が完全に変わってしまったのだから。


 そうじゃない。

 後悔していなかったら怖いはずなのだ。


 だって一年も経っていない。

 ジャンを失ってから、まだ半年だって経っていない。

 だから裏切りにも感じなかったら、それこそ酷い話でしょう?


 そんな気持ちさえオスカーにぶつけた。

 それでその後いつ眠ったのかも覚えていない。


 そして、判定の朝。

 私は後悔するよりも狼狽していた。

 私一人しかオスカーのベッドに横になっていないのだ。


「オスカー!」


 小さな喘ぎ声しか出なかった。


 私のこの行為で、彼をもっと傷つけた?

 彼をとってもいたたまれなくしてしまった?


 私はそっと左手を伸ばして、私の右横に横になっていたはずの人がいないシーツを撫でた。


 冷たい?


「オスカー!オスカーどこなの!」


 私は起き上がりながら、狼狽した大声で彼を呼んでいた。

 どうしていないの!

 一体何があったの!


「オスカー!」


 ドダダダダダダ。


 床を打ち鳴らす大きな足音が家の中で響き、オスカーの部屋のドアが乱暴に開いて黒い影が飛び込んできた。


「オスカー!」


 パジャマ姿に紺色のガウンを羽織ったオスカーは、ティーカップを片手に私のベッドに駆け寄ってきた。

 私は彼が近づくや抱きついた。

 彼は私を抱き締めた。


「どこに行っていたの!こういう日は私が起きるまで隣にいてくれるものじゃないの!」


 私を抱き締める人は、掠れた低い声で笑い声を立てた。

 温かくてほっと安心できるけどくすぐったいような、そんな笑い声。


 私は涙だって零れているのに!


 悔しいと彼の胸を大きく叩いた。

 オスカーはさらに機嫌が良さそうに大きな笑い声をあげた。


「どうして笑うのよ!」


「ごめん。ペルレ。ほんっと、ごめん。嬉しくて。だって、君が俺をそんなに求めてくれているって知れたのですから、嬉しくて、ええ、嬉しくて。」


「もう、ばかあ。」


 私はオスカーにさらにしがみ付いて、彼の胸に顔を擦り付けた。

 冷たい。

 とっても冷たい。

 冷え切っているように体が冷たい。


「オスカー。冷え切っているわ。あなたは何をしていたの。あなたは何をしようとしていたの?」


 私があなたを呼ぶまで、あなたは一体何をしていたの?

 一人で何をしていたの?


 私が彼の胸から顔をあげると、オスカーは蕩けてしまうような笑みを見せた。

 それから私の顔の前にカップを差し出した。

 そのカップの中には、カップの中には、この季節にあるはずはないブルーベリーの粒が三つも入っていた。


「ど、どうして?」


「君の好物だから。俺は君にこんなものしか捧げられない。」


 なんと、彼は、私に捧げたい為だけに、ブルーベリーの木に魔法をかけて果実を作っていたというのか?

 一体何時間かけて!


「あなたは何を考えているの!」


 オスカーはほんの少し眉を下げた。

 私は叱ったわけでは無いのに、寂しそうな笑顔になってしまった。

 私は再びオスカーの胸を叩いて、その胸に顔を埋めた。


 彼の一途さに、私が耐えられなくなった、から。


 私の頭が大きくて優しい手に包まれた。

 そして、私に囁いた。


「あなたを愛している、それだけは俺の真実なんです。」


 私は再びオスカーを見上げて、今度は両手で持って彼の胸を叩いた。

 私の為に命を捨てる、そんなことを覚悟している奴を叩いてやりたかった。


「この、ばかったれ!あなたは最高よ。最高の人だわ。だから!私を一人にしたら許さない。愛しているなら私から絶対にぜったいに離れる事は許さない!私を放って風邪をひくなんてことをしたら、ぜったいに許さないから。」


 オスカーは誇らしげな顔をして見せた。

 そして囁いた。

 自分は肉体自慢の兵士上りですからへいきですよ、と。

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