女のお茶会
「全くもって残念だな。」
オスカーは金属の扉を閉めた。
きい、と金属の扉は軋んだ音を立て、扉を閉めたオスカーは、やるせなさそうに大きく溜息をふうと吐いた。
「結局この家を出るのか。」
「出たら人殺しって私達が名指しじゃない?だったら、知らなかったってことで、フランツ達にこの死体を見つけさせましょうよ。ほら、私達って、カッヘルオーフェンなんて知らない人達でしょう?」
オスカーは私を見返して、ニヤッと笑った。
「それでこそアルビーナ様です。悪い人だ。」
「あら、言わなくても私の言いたい事を理解されるあなたこそ悪い人よ?」
オスカーは笑った。
なんだか妙に嬉しそうだった。
少し良かった、と思った。
彼はフランツを友人の様に思っていたから、その彼に裏切られたと考えるのはとても辛いだろう。
「では、明日にでもフランツに相談しますよ。暖炉を設置するにはどうしたらいい?我が家は最新式すぎて暖炉が無いから大困りって、大声で聞いてやります。」
「頑張って、あなた。私も明日のお茶会で大騒ぎしてみるわ。暖炉が無くて寒いの。どうしたらいいのかしらって。」
私達は悪人のような笑顔を見せあった。
私達の大事な家を台無しにされたのだ。
少しぐらい仕返しをしてやりたい気分なのだ。
「まあ!それなら毛布を二人で被ってお家の中でキャンプごっこをされるといいと思うわ。温め合う新婚さんな二人。ああ、ロマンティックな冬になるのね!」
翌日のお茶会。
フランツの妻コリンは、私の想定外の台詞を吐いた。
聞いていた?
っていうか、以前にこのミラは、真冬は氷点下どころか海が凍る時もある、なんて凄い事を言っていなかった?
白夜にもなっちゃうぐらい緯度が高くて、ミラの温かさはトープ海を流れる暖流によるものって奴じゃ無かった?
暖炉が無いからって真冬にキャンプごっこなんてしたら、きっと翌日の私達は家の中で凍死しているのでは?
ああ、もしかしてやはりそれが狙いか!
金持ち駆け落ち夫婦を殺して金貨を奪う?
「全く!あなたは読む本を変えるべきよ。いえいえ、夏に男の人みたいに海釣りをして以来冒険に夢中になっているからって、お嬢様育ちのウッツさんにキャンプだなんて。」
お嬢様育ちでも中の人はお嬢様でない私に、したくもないレース編みやキルトを教えてくれる黒髪に緑色の瞳のルイーゼが口を挟んだ。
そうよ、言ってやって。
そんでもって、我が家には変な暖炉があったんじゃないの?そんな台詞をコリンから引き出してやって。
ところが、柔らかで白っぽい金髪に水色の瞳という、お人形のように綺麗で可憐なコリンさんは、やっぱりウフフと笑ってさらに横道に逸れてしまった。
「でも、沢山のろうそくを灯したところで抱き合うのって、なんだかとっても素敵じゃ無くって?ベッドとは違う事を体験できそうな。ねえ?」
コリンは期待を込めた目で私を見返し、コリンを諫めていたはずのルイーゼも何かに突き動かされているみたいな顔で私を見つめてきた。
コリンは五歳と三歳の子供がいるという結婚七年目の人で、ルイーゼに至っては結婚十年目のお祝いをしたと先日聞いたばかりである。
つまり、二人は新婚ではない。
男性との経験は一度しか無いが、取りあえず経験している私は、私に話させたい二人が期待する話題に気が付いた。
この二人は、私とオスカーがあれやこれやをしていたら、そのあれやこれやを聞きたくて堪らなかったのだ!
しまった!
私は我が家の殺人事件の解決というか、犯人探しが目的だったのに、私よりも経験値が高い主婦達によってエロ話に変えられようとしている。
こういう場合、それなりな事を口にして相手から更なる情報を引き出すべきなのだろうが、私、オスカーとそういう関係じゃないから何も言えねえ!
「いい加減になさいなお二方。アル様とオスカー様はそちらが出来ないってお悩みのご夫婦なんですから。」
私はカッチーンと固まった。
確かに私とオスカーはやっていないけどさ、やっていないことは誰にも内緒の内緒だったはずですわよね?
私は一番の皮肉屋で噂好きで少し苦手なご婦人、カーラを怖々と見返した。
「もう。カーラったら。だからこそ、二人の一歩が踏み出せる環境づくりですわよ。暖炉が無いわ。寒いわ。では、温め合いましょうか。ねえ、アル。あなたからオスカー様を誘ってもよくってよ?待つだけじゃダメなのよ?」
コリンが真面目腐った顔で私を唆して来たが、え、ええ?である。
どこで私達がやってないって知った?
人前では私もオスカーも仲の良い夫婦を演じて居たよね?
「そうよ。最初が痛いのは当たり前。でもそれでそれから逃げちゃうと、男の人は外に女性を作ってしまうのよ。観光地でもあるこの町は、そういった恥ずべきお店がちゃんとあるのですからね。」
ルイーゼがコリンの後押しをするようにして言って来た。
もしかして、町中が私とオスカーがやっていないって知っていた?
「え、ええ?あの、どこでそんな噂を。」
コリンとルイーザは顔を見合わせて、しまったという風に口元を押さえた。
それから私を二人は見返し、ウフフと、いつもの上品そうな笑顔を作り上げると、あからさまな社交場の会話をし始めた。
「コリン。あなたのダンプフヌーデルはいつも美味しいわね。ヴァーネビュネの桃が中に入っているなんて最高よ。」
私もルイーゼに乗って話を流そうと思った。
自分もお皿の中を見下ろせば、大き目な白玉団子みたいなお菓子がプルンとしている。
この町に来て初めてのお茶会の時、コリンの得意菓子というこのダンプフヌーデルには驚かされたと思い出す。
ミラ名物の小麦粉菓子らしいのだが、普通に知っている洋菓子では無いのだ。
味は洋風でしかないが、食感がモチモチ団子でしかない。
私がどんなことがあってもコリンのお茶会を断らない理由でもある。
「本当に美味しいわ。こんなおいしいお菓子が毎日食べられるお子様もフランツ様も幸せね。」
「あら、お菓子なんかよりあなたを食べられた方がオスカー様は嬉しいはずよ。お宅様を担当する掃除人達に、シーツがいつでもお綺麗で可哀想な亭主様だって町で笑われるよりはね。」
カーラの物言いに、かっしゃーんと、私はフォークを落としてしまった。
そうだ~、我が家は召使いを雇わないから、ハウスクリーニングと洗濯を業者に丸投げしていたのだった。
住み込み女中を雇っていれば、我が家の秘密を外にばらされる事は無かった、のに!
「お気をつけあそばせ。オスカー様はかなりおモテになりますのよ。」
「そ、それはわかっています。」
「あら本当?本当に解っていらっしゃるの?彼が歩くところには、可哀想な彼を誘惑して慰めてあげたい女達がひしめいているという噂ですわよ。」
「ハハハ、まじで?」
カーラを窘めるどころか、コリンとルイーザが真面目な顔で同時に頷いた。
やばいな。
あの骨が誰の物か知らないけど、結果として嫉妬に狂った私がオスカーの愛人を殺したって、やっぱり殺人犯にされる可能性が大じゃないの!
私は、どうしよう、なんて思いながらコリンの家を出るしかなかった。
殺人事件の濡れ衣は、しっかり私が被っているみたい。
残虐アルビーナの設定、通常稼働中ですって奴?




