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あなたはあなただった

 私からは車輪を止める意思は無くなっていた。

 バールがさらに私を脅すからではない。


 だって、バールはこの部屋を出て行った。

 死にゆく私を見捨てていったのだ、あの男は。


 そして、死にゆく私だから、まだ死んでいないが、だから全てを諦めて車輪を止めないのでもない。


 バールに腹を撃たれたことで魔法陣は回り出し、止めようとする意志を蹴られて粉砕されてしまったかもしれないが、もう止めても仕方がない状況なのだ。

 魔都の魔法陣が敷かれた地域は、生きとし生けるものなど存在できず、建物だって粉々にされた状態になっている。

 ミルミキサーに生きたハムスターと発泡スチロールをこうなるのかしらって感じの、粉々のぐちゃぐちゃしか残っていないのだ。


 私は大きく息を吸った。

 痛みを押さえるどころか、痛みで体が強張った。


「うう。」


 それでももう一度息を吸った。

 私は魔法陣を回したが、その後に反対周りに回せと命令されていた事を思い出したからである。


「どうして、止めて消滅じゃないの?閉めるとあいつは言ったのかしら。」


 私は集中するために両目を閉じた。

 そこで見えた。

 王城の私が倒れているその真上。

 王の寝所があるらしい王宮の出来事が!


 王の広い寝所には兵士達がなだれ込んでいる。

 王の寝所には、王バルタザールと彼の近従が壁際に兵士によって追い詰めらられており、近従はそれでも兵士に対抗するべく長い槍を翳してる。


 そして、彼らの足元には、バルタザールと近従の魔法や槍によって砕かれ刺し貫かれた死骸が転がっていた。


 そして、また一人、王の魔法によって撥ね飛ばされたばかりの人がいた。

 真っ黒い服は兵隊のものじゃない。

 首元で閃いた水色のスカーフは兵隊のものじゃない!


「ジャン!」


 私は叫び声を上げていた。

 私の叫び声はバルタザールがジャンに向けた魔法に対抗する炎を生んでいた。

 バルタザールは怯み、その隙に全ての銃弾がバルタザールと彼に従い守ろうとしている近従に向けられた。


「今だ。」


 ここにはいないバールの声が私に命じた。

 でも、命じられたからではない。

 私の命である人を守らねばならない。


 ジャン、愛しているわ。


 私は魔法陣を動かし始めた。

 反対周りに。


「うわああああああああああ。」


 悲鳴をあげたのはバルタザールだ。

 銃弾を受けても血の一滴も出なかったバルタザールが、一気にしぼみ、一気に乾燥したミイラとなってしまったのだ。


 それでも、バルタザールは倒れない。

 そこに黒い影が突進して行き、銀色に輝く刃を大きく閃かせた。


 バルタザールの首は刎ねられた。

 首を刎ねた男は、同時に近従の槍に体を刺し貫かれた。


 近従は喜びの声をあげた。

 あげようとした。

 彼は、槍に刺されたジャンが投げた剣を開けた口の中に受けたのだ。


 まるで、キノコが胞子を吐き出すようにして、近従は一瞬で体を粉々にさせた。

 ぶはっと。


 それでジャンは?

 ジャンは?


 背中から刃を突き出したそのまま、槍に刺し貫かれたそのまま、ジャンは床に倒れた。

 全てがスローモーションで、私は声を失っていた。

 床に真っ赤な血が広がっていく。


「うあああああ!」


 今度の叫び声は私だ。

 私はさらに魔法陣を回転させた。

 回転させながら、全てが終わる呪文をも唱えていた。


 小説の筋が変わってしまうから、そんな事などどうでもいい。

 だって、私の世界が終わったのだ。


 ジャンは刺し貫かれた。

 私を守るために、彼はその身を投げうったのだ。


「あなただけを死なせない。あなたと一緒に死ねないならば、私はあなたと一緒に燃え尽きるわ。」


 私は炎の石つぶての最終版、メテオを召喚したのである。

 私の上に、ジャンが倒れたその上に、私達の墓石になるように。


「お前も道連れなのは納得できないがな!」


「安心しよう。ここで死ぬのは君だけだ。」


 え?


 私の声を聞いていて応えもした男の答えに、私は固まった。

 そんな私の目の前に大きなモニターが出来上がった。

 私は心臓が止まってしまっていた。

 そんな私を知っているかのようにして、そこでバールが軽くウィンクをした。


 私にウィンクして見せたのは、金色の髪色を輝かせ、海のような青い目をした、あの小説の中のヤン・ヘルツォークそのままの外見となった男であるのだ。

 バールだったその男は魅力的な笑みを私に向けた。


「ジャン君の遺体は私のこれからの為に使わせてもらおう。彼は我が兵には英雄で戦友なんだ。君のような魔女とは一緒には出来ない。」


 ぶつっとテレビが切れるようにして、バールのモニターは霧散した。


 私に残された私が見上げる視界は、金色の大きな子供の笑顔。


「お前は何を見て来たんだ!何が天使だ!」


 ヤン・ヘルツォークに向けた怒りを、私はそのまま天使の顔にぶつけていた。

 天井は私の炎で突き破られた。


 たった一階分。


 私の魔法によってこの部屋に設置されていた照明器具も壊れた。

 私は意識もそこで真っ暗闇となった。

 真っ暗になっても怖くはなかった。

 魂だけとなった私達は再び出会えるはずだから。



お読みいただきありがとうございます。

ここで第三章は終わりです。


夜に第四章を投稿します。

第四章から一日一話投稿になります。


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