君が運命の車輪を回すんだ
バールはクーデターが起きると囁いた。
私は驚いたままバールを見返すと、すでに私から体を離していた彼は、私に悪辣な微笑を見せた。
「囚人はどうして囚人になったのだろう?単なる泥棒や強盗は、捕まれば絞首刑で処分されるのに、何をダラダラ生かして収監していたんだろう?君は知っていたからこそ彼らを魔都に呼び寄せたのでは無いのかな?」
この世界は自分の知っていた世界とは違っていた。
バールの言葉によって、私は今更に自分の浅はかさを呪っていた。
私は三千人の政治犯、つまり、バルタザールに剣を向ける事を全く厭わない人達をこの魔都に呼び寄せたのだ。
「あなたは気が付いていて、いえ、どちらに転んでも構わないのね。クーデターが失敗しても、成功しても!なんてえげつない人でなし何だろう。」
「酷いな。失敗は望んでいないのに。さあ、君は黙って車輪を回そうか。何ごとも号令が必要なんだ。」
「え?」
バールは笑みを深くすると、自分の胸元辺りにモニターを作った。
そのモニターの中では、見慣れた豪邸が業火の中にあった。
屋敷の前には、いえ、周辺では、見慣れた人達、老いも若きも男女の区別なく残虐な暴行に晒されたあとの骸として、いえ、女性は女性が受けるだろう暴行をしっかり受けたとわかる姿となって、衣服など剥ぎ取られた無惨な姿にされて、さらし者のように転がされている。
「我が屋敷が!私のメイドやジャンの従僕達が!なんて!」
「最初の暴挙だ。君が魔都の人間を殺戮する計画を立てたと、まずは君の殺害に市民たちが勢いづいている。この次は法務やらなんやらのお偉方の屋敷だろう。そうして、貴族が思ったよりも手強くないと知った彼らは、王城に攻めてくる。それで知るんだ。自分達の支配者が、我欲だけで生きてきた屍だったという事にね。」
バールの作ったモニターの絵が変わった。
なんと、町の中心、車輪の中心となる広場にギロチン台が設置されており、そこに次々と見慣れた人達が斬首されていく映像が映し出されたのである。
ジャンに愛想を振りまいていた婦人の首だっていくつか転がっている!
「どうして!彼女達だって、貴族であるからには魔法を使えるはずでしょう?」
「多勢に無勢。十人殺しても三十人が襲い掛かる。そして、十人殺した事で、襲撃者達は止まることが無くなる。化け物を殺せ!それが合言葉になる。」
私はよろめいた。
バールは王と違い、魔法陣なく大量殺戮を生み出したのだ。
私が人間狩りと計画している、その情報を市民に流布させるだけで。
「さあ、最終攻撃の号令を、姫。」
「でき、出来るわけ。だって、私の、いえ、私が魔法陣を回せば。」
バールの胸元のモニターは消えた。
バールの笑みは変わらず、だが彼は右手に銃を構えていた。
「人殺しを見物したい恥知らずが全部死ぬ。罪のない女性が人前で汚されても手を叩いて喜ぶような輩は全員が死ぬ。さあ、アルビーナ。」
「バール。」
「まわそう。君はあの日、殺戮をする役目の銃隊よりも、処刑見物の輩にこそ怒りや虚しさを抱いていたじゃないか。さあ、あの日の気持に戻ろうか?」
私は一歩退いた。
また、一歩。
さらに一歩。
とうとうそこが円の中心となった時、私は両目を瞑り円に集中した。
がこん。
小円は回り、小円は大円を動かした。
ほんの十五度ほど。
それでも、両目を瞑った私には見えた。
魔法力を帯びた円が動いた十五度分、魔都の建物が破壊されたばかりでなく、人間こそが粉砕される人的被害が起きた事を。
「止めるな。回せ。」
「だって、全部が全部恥知らずじゃ無いはずだわ。巻き込まれた無実の人を助けに向かっている人もいるかもしれない。」
チュン。
私の足元を銃弾が抉った。
バールは次は私の胸を撃つという風に銃口の向きを変えた。
「そうだね。だけど回そう。」
「バール。」
「回すんだ。毒を体内から出す時は、新鮮な綺麗な血も流れるものだ。」
「でも!」
バールは世界を回転した。
いや、彼がグルんと横になって見えたのは、私が床に倒れたからだ。
なぜだろうとぼんやりと考え、その瞬間に腹が熱を帯びた。
熱い熱い熱みたいな痛みだ。
私は痛みに叫び声を上げていた。
そんな私に呼応するようにして、車輪は勢いよく回り出した。
建物をなぎ倒し、脅えながら逃げまどう人たちを撥ね飛ばして燃やした。
止めなきゃ。
止めなきゃ。
でも、私は痛みに叫び声をあげるしかなくなった。
撃たれた腹をバールに蹴られた、のだ。




