第九十七話
「足今のうちにいっぱい触っておいてください。今ならツルツルです。朝になったら鱗でカチカチなので」
「はい。重くないですか?」
ベッドに仰向けになった俺に笹森さんが乗っかっている態勢だったのだが逆にした。
「大丈夫です。それより竹宮さん、この後どうするのか知ってます?」
笹森さんは可笑しそうに俺を見上げている。
まるで空を見る様に澄み切った瞳で。
「大丈夫です。男性向け成人漫画大量に読みました」
俺は自慢げに言う。
こんな風に答えもわかっていないのに不安がないのは初めてだ。
嫌、答えのわからないものなど学生の時はなかった。
解けるまで机に齧り付いた。
俺の答えにこらえきれず彼女は笑う。
「漫画、で、ですか?」
「はい。人妻とか寝取りというのが多くて困りました。何で普通に付き合っている男女の漫画がないんですか?」
「需要がないので」
「ありますよ。俺は読みたいです」
「背徳感とか後ろめたさがないと。まあそれはまた今度お話ししましょう。漫画ならいくらでも話せるので」
「はい。何か可哀想なのが多いんですよ。脅されてとか」
「はいはい」
いつの間にか眠っていた。
夢の中に初めて彼女が出てきた。
俺は海の中を深く深く潜っていった。
碧く美しく光る尾びれを持った零れ落ちそうな大きな胸を白い水着に包んだ人魚笹森さんが俺を迎えお帰りなさいと言ってくれた。
笹森さんは両手に校外学習で行った寺で見た聖徳太子二歳像くらいの大きさの女の子達を抱えている。
どうやら双子らしい。
娘達は俺を「おとしゃん」と言えば「ぱーぱ」と言ったりもするのでどっちかに統一すればいいのにと思った。
顔は笹森さんそっくりで可愛い。
俺は神妙な面持ちで「まだ当分通い婚になると思う」と言っていた。
ならあれは海の底ではなく琵琶湖だったのだろうか。
水の中でも漫画は描けるのだろうか。
笹森さんが人魚になっていて水の中で俺は戦闘服で普通に息をしているとか、気になることはいっぱいあるが、夢の中の俺は笹森さんと結婚して父親になっていた。
何ていい夢だろう。
どうせならプロポーズとかここまでの過程を見せてもらいたい。
もういっそ出会いから見たい。
夢に先を越されてしまったが、今まで見た夢で一番嬉しく現実味があった。
サイボーグと人魚姫が新しいかはわからないけど、目が覚めたら話そうと思った。
でも俺は絵が描けないから、いっそ同じ夢を見てくれてたらいいのにと思ったけれど、夢の世界の俺の方がずっと頼りになりそうなので見ないでいてくれていいと思った。
少なくとも夢の中の俺は彼女にプロポーズしているのだから、その勇気に敬意を払わねばならない。
その後笹森さんから漫画がアニメ化されると言う報告を受けたところで夢は途切れた。
その部分と愛くるしい双子だけは正夢になるといいと思った。




