第七十六話
暫く笹森さんは何も言わなかったが、テレビの中の笹森さんが喋っていてくれたので静寂な空間ではなかったが、まるで歌詞のない映画音楽のように思える自分に罰当たりだと戒めたくなった。
彼女になって貰った途端あれほど毎日欠かさず見ていた彼女をないがしろにするなんて。
「トトロみたいですね」
「え?何ですか?ととろ?」
「大昔のアニメ映画です。知りません?」
「はい、すみません」
「じゃあ、今度一緒に見ましょうね」
「はい」
「もういい加減止めません?あれ」
「テレビですか?」
「はい」
俺は起き上がりもしないで足元のリモコンを取り電源を切る。
「後レシート捨てません?」
「せっかく取っておいたので勿体ないです」
「唯の紙じゃないですか?」
「うーん」
「もう本物がいるからいいじゃないですか?」
「まあ、そうですか・・・」
「渋りますね、あの動画私しか映ってないんですね」
「消してるので。ヒュドラ―との戦闘中の映像を撮るための機能なんです。だから勤務外時間のは消して提出します。まあ俺が事件を起こしたりしたら復元されちゃうでしょうけど」
「事件起こす人なんかいらっしゃるんですか?」
「俺が入ってからはまだいませんけど、過去には何回かあったらしいです」
「そうなんですか。あの、大丈夫なんですか?国家機密とかじゃないんですか、守秘義務は?」
「表に出てることなので、別に。それに情報公開しろって五月蠅いので」
「そうなんですか、だから戦闘とか中継してるんですね」
「はい」
「よく記者会見に出てくるあのイケメンさんはお知り合いですか?」
「森次さんですか?」
「はい、あの表敬訪問したアリプリのメンバー全員霞ませてた人です」
「森次さんですね。この間までは直属の上司でしたけど、移動になったので今は違います」
「美形すぎて話題になってましたよね。しかもすっごく強くて、大学首席で全教科満点で卒業とか」
「漫画みたいな人ですよね?」
「そうですね。ちょっとチート過ぎるので主人公には向かないですけど」
「向かないですか?」
「向かないっていうか、私なら主人公の上司で、何らかの足枷作っちゃいますね。だってこの人いたらもう他の人間いらないんじゃないっていうキャラですよね?」
「まあ、そうですね。強いです。動きが違います」
「絶対欠点作りますね。ロリコンとか」
「成程」
「でも実際生きている人で妄想するの嫌なんですよ。申し訳ないから」
「そうなんですか?」
「はい」
「まあ避けてたってのもあるんですけど。現実を見ないように」
「はあ」
「だからそうですね、アイドルとかはまったことないです」
「そうですか、女の子もですか?」
「ないですね。男も女も二次元に限ります」
「何がそんなに魅力的なんでしょう?」
「この話になったら長いですけどいいんですか?」
「いいですよ、ずっとこの体勢でいいなら」
このまま彼女の重みを感じながら眠ってしまえたらどれだけ幸福だろう。
嫌違うな、眠りたくない。
眠るのなんかいつでもできるから今はちゃんとこの暖かさを享受していたい。
淡い微睡ではなく、鮮やかな意識を持って。




