第七十五話
「実は、そうじゃないかなって思っていたんです」
「え?」
笹森さんは相変わらず左手のピアノの指を辞めない。
「この間の北海道のヒュドラー掃討作戦」
「あー」
そういえばテレビ映ってたな。
忘れてた。
「前、一度雨が降った日眼鏡外してるの見たことがあって。似てるなって思ったんです。でも眼鏡かけてないし、双子かなとか、漫画じゃよくある設定じゃないですか?まあ似てる人っているもんだよねとか、でもあんなに背の高い人も珍しいかなとか、聞けなくて・・・」
「何でですか?」
「・・・・・・お金目当てだって思われたりしないかなって、私が好きになったのは国立出のエリートさんじゃなくって、ただ毎日ケーキを買いに来る眼鏡をかけた何してるかわからない貴方だったのに・・・」
「あー」
「そうやって近づいて来た女の人います?」
「いないですね」
「だって京都中の美人は皆国立男子がもっていくって」
「そんなわけないじゃないですか、何にもなかったです」
「本当に?」
「本当です。勉強ばっかしてました」
「本当に竹宮さんだったんですね。何度も動画再生しました。他の動画もないか探したんですけどなくて。テレビ映るのこの間のが初めてですか?」
「嫌、移ってるはずなんですけど、大概見切れてるので」
「そうなんですか」
「はい」
「でも考えたら彦根で仕事っていったら城塞か、飲食店とかサービス業しかないですもんね」
「そうですね、ないですね」
「凄いですね」
笹森さんは左手で俺の右手を取り、手の甲を撫でた。
「その静脈偽物なんですよ」
「え?」
「手千切れたらコードが飛び出てきます、この間同期がそうでした。でも簡単にくっつくので」
「お仕事怖くないですか?」
「ヒュドラ―と戦うのですか?」
「はい」
「怖くないですね。単独行動禁止なんです。一人で戦うわけじゃないので。恐怖を感じたことはありません。戦死する人って本当に珍しいんですよ。ほとんど死にません、どっちかって言うとヒュドラ―と戦うより、倒したヒュドラーを解剖するのが主な仕事です」
「暖かいです」
笹森さんは俺の掌に小さな頬をすり寄せた。
「あの、見た目じゃ本当にわからないし、ほとんど人間と変わらないんです。普通に死にますし、年も取りますし、お腹もすきますし、眠くもなります。ああ、あと子供も作れます」
俺が一気にまくしたてる様に言うと少し間を置いて笹森さんは又笑い出した。
テレビの中の彼女じゃ決して聞けないようなビー玉が転がっていくような、掌だけが世界のような懐かしささえ感じる声で。
「それは良かったです」




