第七十四話
笹森さんは両手を自分の膝の上に置いたまま、俺から視線は逸らさなかった。
テレビ画面には笹森さんだけが無限に再生されたままになっている。
「あの、それは、感染症にならないってこと、ですよね・・・?」
「え?はい」
「本当にならないんですか?」
「はい、なりません」
「絶対に?」
「はい。感染症にはならないですね。でも、死ぬことは死にますよ。かみ砕かれたり、身体バラバラにされたら」
「でも、うつらないんですよね、絶対」
「はい、うつらないです」
笹森さんは俺に抱き着き俺はそのままソファに倒れ込み、俺達はぴったり隙間なく重なった。
一瞬視界に入った彼女の瞳は星屑が散りばめられたようだったので、後で見かえそうと思う。
この状況を突破できたら、だけど。
「あの、笹森さん」
「はい」
「怒ってないんですか?」
「怒ってないです、明日からありとあらゆる神様に感謝して生きていこうと思います」
「いきなり、何でですか?」
笹森さんはくすくすと笑いだした。
「今すごく勝利した気分です」
「何にですか?」
「運命、ですか?」
「疑問形なんですか?本当に怒ってないんですね?」
「怒ってないですよ。怒ると思っていたんですか?」
「盗撮ですし。でも言い訳させてください。身体の機能なんです」
「どこにメモリーカード差し込んでるんですか?」
「目の中にコンタクトの要領で」
「痛くないんですか?」
「痛くないですね。何にも入ってる感じしないです」
「ひょっとして目、伊達ですか?」
「はい、ああ、でも手術するまでは近眼だったので大学ではかけてましたよ」
「大学って国立ですか?」
「国立出ないと入れないので」
「凄いですね」
「別に凄くないです」
「凄いですよ、だって私の周りで国立入った人なんか一人もいませんよ」
「勉強してたら誰でも入れます」
「入れませんって、だって学力だけでなく体力もいるんですよね?」
「体力は五年も通えば自然と付くので。でもある程度の成績を収めようと思ったら鍛えといた方がいいです。俺も小さい頃から水泳やってましたし」
「水泳ですか?」
「はい、あと走り込みですね。ひたすら走ってました。体力付けようと」
「偉いですね」
「他にすることなかったので」
笹森さんはまた笑って俺の黒いセーターの上で指を走らせた。
まるでピアノの鍵盤の上を滑る様に。
テレビでは相変わらず笹森さんが映っている。
何だか別人のように思える。
今確かに俺の心臓の上に頭を乗せて笑う女の子と、テレビ画面に映り続けているメイド服の女の子は。




