第七十話
「新藤さんは違います。攻めとしての理想像っていうか、攻めとしてのメタファー。攻めとしての概念で、私が付き合いたいわけじゃないです」
「じゃあ、鹿嶋、ですか?」
「鹿島は新藤さんの対になるキャラですから、まあ、好きな受けってのがあります。私総受けって言うのが好きじゃなくて。何か主人公がお姫様の如く扱われて、出てくる男出てくる男皆こいつに夢中って状態が嫌で。嫌、そう言う展開が許せるキャラもいるんですよ。でも鹿島は違いますね。ああ、あれです。平凡なキャラが総受けっていうのが嫌なんですよ。というより、いつも描きたいのは攻めの泣き顔なんです。攻めを泣かすために書いてるようなもんですから。もう今新藤さんをどう泣かすかってそればっかりですよ。
私攻めが何かを失うのが大好きなんですよ。今考えてるのは奥さん死なせるかってことなんですけど、それだとかわいそすぎるし、どうしようって」
「小毬さん死なせちゃうんですか?可哀想ですよ。浮気してるの気づいてるんでしょ?」
「気づいていますね」
「可哀想です」
「でも、新藤さん泣かせるには小毬さん死なせるしか思いつかないんですよね。本当に聖女じゃないですか?優しくって新藤さんがどうしようもない人だってわかってても愛してくれているんですよ。こんな人死んだら、もう新藤さん堪らないでしょ。そして又鹿島はその新藤さんに絶望するわけですよ」
「どうなるんですか?」
「私もわからないです。どうしようってずっと考えています。でも新藤さん泣かせたいし。鹿島絶望させたいし」
「小毬さん死んじゃったら宮下さんと再婚します?」
「しないですね。宮下さんは浮気相手なんですよ。どうしたってそうなんです。宮下さんもそれに気づいてるんです。でもどうしても別れられない」
「じゃあ。漫画のキャラクターって好きなタイプを書いてるわけじゃないんですね?」
「ないですね。私は二人がイチャイチャしてるのが見たいだけであって、私が新藤さんとどうこうなりたいわけじゃないんですよ」
「じゃあ、新藤さんと鹿嶋ならどっちが好きですか?」
「その二択ですか?どっちも付き合いたくないです。強いて言うなら鹿島の会社の後輩の白井です」
「あの鹿島にずけずけ言う?あの子は何なんですか?」
「鹿島とフラグ建てさせようかと思ったんですけど、これ以上ややこしくなるの嫌なのでやめたら唯の失礼な後輩になりました。でも顔は一番タイプです。書いてて一番楽しいですね。癒しですよ。無表情キャラは必ず出しちゃいますね。何の意味もなくネクタイ緩めるシーン描くのも、もうあれです。性癖」
やっぱり凄いな、笹森さんは。
俺なんかとっくに成人済みなのに、自分の性癖とかまるで分らない。
こだわり、執着、何にもないな。
恥ずかしいくらいだ。
ふと視線を落とすと笹森さんの足があった。
黒いタイツにしっかり覆われていている。
夏場もそうだった。
俺は未だに笹森さんの脚だけは見たことがない。
夏に見た細い腕は恐ろしいほど白かった。
脚もきっと白いんだろうな。
夏になったら見れるだろうか。
それともこれも笹森さんの性癖だろうか。
一年中黒タイツっていう。




