第六十九話
「私なんか背小さくて不格好だし、後ろから見たら幼児じゃないですかー。並んで歩くの恥ずかしくないですか?こんなちっこい女連れててかかっこ悪いなって思ったりしてません?」
「思わないです。そんなに胸の大きな幼児はいません。子供になんか見えませんよ」
俺はまるで小さな子に言い聞かせるような口調になっている自分に気づく。
「どうせロリ顔じゃないです」
「俺子供に興味なんかないです。でも、笹森さんの子供の頃には興味あります。どんな子でした?」
「このまま、少しだけ背を小さくして、胸を萎ませただけです。別に可愛くもなんともないですよ」
「笹森さんってだけで可愛いですよ」
「またそういうこと言うー。もう声までかっこいいんですから辞めてください」
「どこがですか。ちっともかっこよくないですよ」
笹森さんは病気なのだろうか。
俺みたいな人間をそこまで評価するなんて、とても正気の沙汰じゃないと思われる。
何だろうこれ?
感染症の一種だろうか?
でもこんなの聞いたことがない。
「竹宮さんの声大好きなんです。何が起きても平然としてそうで、淡々としてて。それなのにいつも小さな声でぼそっと言うんじゃなくてちゃんと聞き取りやすい声で喋ってくれるし。そんなとこも好き」
「そうですか」
「ケーキの注文聞くの毎日楽しみだったんです。自分がお休みの日は他のバイトの子が聞いてるんだと思うと悔しくて」
「そうですか」
それはわかる気がする。
俺も北海道にいる間そうだった。
自分が見ていない笹森さんを見れる人間が羨ましくてしょうがなかった。
あの一月分の映像買えないかと今でも思う。
いくらだって出すのに。
「鼻筋シュッてしてるし、どっか遠いとこ見てるような目も好き。指長くて綺麗。コーヒー飲んでるだけでかっこいい。もう、私貴方の絵とか描いたりしてたんですよー。締め切りあるのに。真っ白のページだらけなのに。もう、もう」
「絵って漫画ですか?」
「そこまで本格的には書いてないですけど、まあ、ラフスケッチですね」
「凄いですね。その発想はなかったです」
いいな、それ。
俺も笹森さん書けたらいいのに。
「すみません」
「何で謝るんですか。嬉しいですよ。俺笹森さんは新藤さんみたいな人が好きなのかなって思っていました」
「新藤さん?何でですか?」
笹森さんはまだ顔は見せてくれない。
俺に寄り掛かったままの体勢で、それは拗ねた小さな子供が大きなぬいぐるみに抱き着いたまま母親に背を向けているようだ。
「理想の男性像として書いてるのかなって。イケメンで仕事もできて、部活では全国大会優勝してて。可愛らしい奥さんいて、親友と呼べる人がいて、後輩の女の子と不倫してて、でも許さざるを得ないっていうか、この人ならしょうがないなって思わせるとこがあって、基本的には優しくて、大人で」
笹森さんはポツリと「おとな」と言った。
そのぐずったような声に俺は彼女をうんと褒めてドロドロに甘やかしてあげられる人間になりたいと思った。
俺はどんどん強欲になっていく。
また一つ欲しいものが増えた。
欲しいものというより、願望か?
こういう自分になりたいという。




