第六十八話
「最初から好きでした。初めて見た時から。入ってきた時何この人って思いました。私の好きなもの全部詰め込んだ人がいきなり現れたんです。
この人だと思いました。今まで誰にも生きている人間に興味が持てなかったのはこう言うわけだったのだと。何ていうか、集大成なんだと思ったんです」
「あの、俺なんかのどこがそんなに?」
はっきり言ってそんな風に言ってもらえる要素がまるで思いつかない。
「えっと、まず眼鏡です」
眼鏡?
よくわからないがかけてて良かった。
「あの、すみません。良かったら、こっち向いてもらえません?」
顔が見たい。
俺は今すごく我儘なことを言っているし、子供じみて自分でも驚いているくらいだ。
でも、顔が見たい。
だってこんなこともう一生彼女の口から聞けないかもしれない。
だとしたら一生目に焼き付けておきたい。
物理的にあり得るのだから。
「恥ずかしいこと言うので嫌です」
「見たいです。今欲しいものがわかりました」
「何ですか?」
「貴方です。貴方のあらゆる表情を見たいです。欲しいものがなかったのはそのためだと思います。
貴方に会って全てを叶えてもらうために何も得てこなかったのだと」
「私に全振りってことですか?」
「はい、そうなります」
俺はそうっと添える様に彼女に両腕に触れた。
彼女は観念したように涙目で俺の顔を一瞥すると体を俺に預ける様に傾けた。
ああ、これじゃあ結局顔が見れないじゃないか。
でも、俺は今酷く高揚していると気づく。
信じられないような弛み切った顔をしていることだろう。
それは見られたくないから、この体勢でいい。
「まずは眼鏡。黒縁のスクエア型が似合いすぎ。かっこいい。あと身長高すぎ。足どんだけ長いんですか。震える。髪の毛さらさらしてるのも好き。黒くて前髪長めなのも。あといつもリュックしょってるの可愛い。服何の興味もなさそうなのに、何着てもスタイルいいからかっこいい。ただシャツ着てるだけなのに。ああ、もう、ホント。ずるい」
俺はこっそり彼女の黒髪に手を伸ばしても今ならばれないなと思ったが流石に図々しいので両手はソファに
後ろ手で縛られた様に置いたままにした。
「混んでるとき抜かされても何にも言わないで待っててくれるし。あれ本当に有り難いんです。お客様に注意するのってやっぱりできないし。お年寄りにドア開けてあげたり、優しいし。それにその何にも感じてないかのような無表情。もう、すっごく好き」
最後の好きがものすごく実感籠ってて自分の心が叫んだ声かと思った。
そんなわけないのに。
自分と彼女がピタリと一致し、体のどこかがリンクしたのを感じる。
ああ、それでもまだ両手は後ろ手のままだけど。




