第七話
「もう解剖うんざりなんだけど」
そう言って俺の目の前に座ったのは同期の神尾水希だ。
朝から延々と続いたヒュドラ―とヒュドラ―が原因と思われる不審死をした同胞の解剖にひと段落が付き、遅すぎる昼食を取っていた俺は、いつも通りスマホに落としたちーちゃんさんの音源を聞きながらチキン南蛮定食に舌鼓を打っていた。
国立科学研究所の社員食堂の飯は恐らく日本一美味い。
ちーちゃんさんにも食べさせたい。
ちーちゃんさんは何が好きだろう。
あの小さな手でお箸を持つのかと思うと震える。
あの小さな頬にご飯を一杯に詰め込むのかと思うと。
「ホントもううんざり」
席いくらでも空いてるのに何で目の前座るんだろう。
俺は食事はいつだって一人で取りたい。
もう二日生のちーちゃんさんを拝んでないのだ俺は。
五連勤の後は必ず連休だから仕方ないのだが、はっきり言ってちーちゃんさん欠乏症だ。
今日も休みかもしれないと思うと。
バイトって有給休暇とか出るのだろうか。
旅行とか行ってたらどうしよう。
彼氏と。
「それ美味しい?」
「ああ」
俺は仕方がなくイヤホンを外した。
席が空いてるのに目の前にわざわざ座ったということは何か話したいと思っているのだろう。
俺は自分の話をするのは嫌だが、人の話を聞くのは特に苦痛は感じない。
それに神尾は同期で大学では俺が首席で神尾が次席だった。
たった一点差で。
神尾が主席だったほうが座りが良かっただろうと思う。
神尾は背が高くすらっとしていて所謂美人だ。
テレビの取材や雑誌のインタビューなど本来なら主席の俺がしなければならないところを神尾が全て引き受けてくれているので有り難い。
この間もアイドルと対談していた。
「お腹空いたわね」
「ああ」
何聞いてたの?と聞いてこないから神尾はいい。
職場では動画でちーちゃんさんを見ないようにしている。
音声のみだ。
これなら万が一イヤホンから音が漏れたとしても売れていない声優のシュチュエーションCDだと言い訳できる。
まあ聞かれたこともないし、誰も俺なんかに興味ないんだが。
「解剖もううんざり」
「仕事だろ」
「あんたは平気なの?」
「動かないから楽でいい」
「死体だからね、でも今日多すぎない?」
「人がいないんだからしょうがないだろ」
「あんたっていつもそうよね、しょうがないってさ、あんたのお母さん子育て楽だっただろうね、子供の時からそうだったんでしょ」
「まあ、大人しかったと思う」
神尾が食べている羽根つき餃子が美味そうなので今日の夜は餃子にしようと思った。




