表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/98

第二話

家に帰るとケーキを食べながら今日の彼女を振り返る。

至福の時だ。

このために生きていたと思える。

働いていて良かったと思う。

ケーキ買い放題だ。

毎日二個しか買わなくてケチだと思われているだろうか。

でも三つは多い。

二つが丁度いい。


「ポイントカードはお持ちでしょうか?」


最初の日の彼女だ。

今日の分を振り返ると必ず聞く。

やはり最初に戻る。

何も変わっていないはずなのに何度聞いても新鮮だ。

今でも十分可愛いんだが、やはり初日の初々しさは格別だ。

地上に舞い降りた天使感が半端ない。

永遠に聞いていたい。


「お待たせいたしました」


可愛い。

天使。

人類の宝。


「ありがとうございました。またお越しくださいませ」


こうやっていると機械の身体になったのは悪くないと思う。

悪いも何もない。

このために勉強してきた。

機械の身体になって人類の敵と戦うために。


「バイバーイ」


これはレアだ。

この日は珍しく彼女が店の外に出ていた。

小さな男の子が母親であろう女性に手を引かれ、ケーキの箱を嬉しそうに抱えていて、彼女は前かがみになり視線を子供に合わせ右手を振っていた。


「いらっしゃいませ」


そして俺に気づくと慌てて言った。

そしてドアを開けてくれたのだ、俺のために。

あの日が一番近かった。

彼女が実在しているのだと感じた。

同じ世界にいるのだと。


「バイバーイ」


何百万回聞いたかわからないが、いつ聞いてもいい。

死ぬまで聞いていたい。

この音を永遠に繰り返してほしい。

表情もいい。

丸みのある頬をした子供に向ける柔らかな蕩けるような視線。

子供が好きなのだろうか。

彼女のような子が母親なら子供は幸せだろう。

子供だけじゃない。

その亭主も。

想像だけで年を取れる気がする。

考えたくない。

どんな男だろう。

彼女と付き合えるなんていう人間は。


彼女が働いているケーキ屋は毎月第三火曜日が定休日で、それ以外の彼女の休みはバラバラで、二日連続いない日もあれば、土日両日とも出ていることもある。

ケーキ屋はアルバイトだろうから、彼女はどうやって生活しているのだろう。

実家暮らしで親も生きているなら問題ないだろうが、もし生活に困っているのなら、なんとかしてあげたい。

匿名の寄付とかできないだろうか。

でも名前も知らない。

一番可愛い店員さんへでどうだろう。

警察に届けられてしまうか。

それは困る。


そもそも独身だろうか。

小柄だが、幼い顔ではない。

十代ではないだろう。

自分とそうは変わらないと思われる。

結婚しているかもしれない。

ひょっとしたら、あの「バイバーイ」の母親はママ友というやつだったのではないか。


子供か。

子供を抱っこする彼女を想像すると、余りの神々しさに震えた。

素晴らしい。

聖母か。


「はい、営業しております」


ああ、これは俺がお盆もこの店やってるんですかと聞いたときだ。

俺の精細じゃない抑揚のない声が聞こえる。

何という棒声。

俺は声までつまらない。

俺のだけ消そうかな。

でも会話、会話した記念に、もうしばらく取っておく。























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ