第三話
俺は彼女が箱に入れてくれたモンブランとレアチーズタルトを食べ終え、缶コーヒーを飲んだ。
美味い。
そう、ここのケーキの美味さに彼女に恋をしていると中々気づくことができなかった。
本当にこの身体で良かった。
内蔵されたメモリーカードがなければ、家に帰り彼女を巻き戻し再生することができない。
この身体じゃなかったら盗撮だ。
嫌、この身体でも盗撮だろうが、そういう機能なんだから仕方がない。
俺のせいじゃない。
それに見ているだけなんだから許してほしい。
本当に見ているだけだ。
見てるだけ。
いつもどんな彼氏だろうかと想像する。
暴力を振るわれてはいないだろうかと心配になる。
不倫だったらどうしようとか。
そうしていつの間にか眠りについて朝になっている。
もっと大きなテレビを買おうか。
映画館みたいなやつ。
そのくらいの贅沢は許されるだろう。
金は持っているが使い道もない。
契約金の一億もまだ使っていない。
彼女の口座番号を教えてもらえないだろうか。
振り込みたい。
生きていてくれることへの感謝を込めて。
朝起きて一番に眼鏡をかける。
訓練中や出動の時は外す。
本当は見えているから。
小さい頃は目が悪かったからずっと眼鏡をかけていた。
だから今でも手放せない。
かけていないと落ち着かない。
俺の働いている国立科学研究所は通称城塞と呼ばれている。
城の中で働くそれはこの国では選ばれたエリートということになる。
だけど生活は驚くほど地味だ。
俺達は人類の敵と戦っている。
その様子は中継されることもある。
スクリーンに映し出されると自分のモブ感が凄すぎる。
まあ大体見切れている。
他のメンバーが濃すぎるんだ。
顔で取ってんのかってくらい同期の連中も先輩も皆顔がいい。
中継用だろうか。
特に直属の上司である森次さんは酷い。
顔が良すぎる。
眩しい。
あんな顔して頭も良くて、実戦では最強とかもう、あれだ、漫画だ。
読んだことないけど。
国立ももちろん主席。
歴代最高得点で出るというおまけ付きで、その記録は恐らく永遠に破れないだろう。
全教科全種目満点なのだ。
非の打ちどころのない完璧な造形の上司の顔を思い出し、彼女の全身を並べてみる。
少し年の差はあるが幼な妻というほどでもない。
しっくりくる。
森次さんくらい顔が良ければ、簡単に声を掛けられるだろうな。
何を血迷っているんだろう。
声を掛けたいのか。
できるわけないのに。
テレビをつけて、彼女を再生しながら、朝食を取る。
今日も呆れかえるほど可愛い。
これだけで十分だ。
何も望んだりしない。
せめて名前を知りたい。
これくらいだ。
名前を知れたら、どうだっていうのだろう。
唱えることができるな、名前なら。
だから知りたい。
もし彼女の名をしることができたら、きっと自分は南無阿弥陀仏のように唱えるだろう。
この身体が敵に呑み込まれる瞬間まで。




