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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第3話 第3章『アハトの実験施設』 ④

今日も読んでくださっている皆さま、ありがとうございます(*‘ω‘ *)


文体をプロローグ改と同じようにしていきたいと思います。

読みにくい等のご意見がありましたら感想に書いていただけると助かります。

「こほん・・・まったく、話の腰を折るんじゃないわよ。

 私が言っているのは、そんな禁術なんて言われる外法に頼ってまで強くなるのが正義の味方なのかって聞いてるの!」


 ようやく怒りが収まったのか、咳ばらいを一つドライは話を元に戻した。


「僕は紋章術が外法だとは思わないんだ。」


「なんでよ。危険なのよ?下手をすれば周りを巻き込むんだからね。」


 むっとしたような表情をするドライにアインはさらに言葉を続ける。


「外法とか正攻法だとか、そういうのって人の意見でしかないんじゃないかな。」


「どういうことよ?」


「どんな方法だって失敗をすれば犠牲が生まれる。それを見た誰かが失敗した側面だけを指して外法だって言いだすんだ。

 紋章術は確かに昔、たくさんの人の命を奪った事実があるのかもしれない。

 でも、紋章術はツヴァイの命を助けてくれた。僕はそれを外法だとは思わないよ。」


 紋章術が人々の命を奪ったと言われた当時に何があったのか、それはアインにはわからない。


 でも・・・


「遠い昔、その錬金術師が何を思って紋章術を使い、そういった結果に至ったのか当人以外にわかる人なんていないと思う。

 けれど、その人は少なくとも人の命を奪うために紋章術を使ったわけではないはずだ。

 グレイおじいさんのように奇跡に頼りたいほどの悩みを抱えて、決断した結果がそれになってしまった。ただそれだけのことだったんだと思うんだよ。」


「その錬金術師がとんでもない極悪人だったとは思わないわけ?

 自分の欲望のために紋章術を使っただけかもしれないでしょう。

 人間なんて本当は自分のことしか考えていないんだから。

 悪意のない人間なんていない。誰だってその心の奥に暗くて汚い部分を隠し持っている。」


 人の悪意にこれまで触れてきた彼女らしい言葉だ。

 その表情もそれに合わせるように意地悪な笑みを浮かべている。


「うん、確かに人間は誰しもが後ろ暗い部分を抱えて生きていると思う。僕もそれは認めるよ。」


 アインとて人が心に抱えている悪意の存在を否定するつもりはない。

 ドライの能力がそういったものに関わっている以上、否定する理由もない。


 それでも・・・


「でも、それに打ち勝つことのできる強さを、正義の心を誰もが持っているはずだ。」


 人が心に持っている善意を信じているのだ。


「そうでなければ、フィーアの能力が成立するわけがないからね。」


「・・・言い方がずるいわよ。フィーアの名前を出せば私が否定できないとでも思ってるわけ?」


「僕は事実を言っているだけだよ。」


 なんとも言えない緊張した空気が流れるが、互いに一歩も引かない構えだ。


「・・・ともかく、私は紋章術を使うのは反対、あんたはあれの危険性をわかってない。」


「ドライならわかってるっていうのかい?」


「少なくともあんたよりはね。」


 厳しい表情をしたままドライは冷たく言い放つ。


「賢者の石を使って皆を守りたいっていうのはそんなに悪いことなのかな?」


「賢者の石どうこうは私は知らないわよ。

 でも、努力もせずに奇跡に頼って強くなろうっていうあんたの魂胆は気に入らない。」


 なるほど、もっともな意見だった。

 アインはどれだけ効率よく強くなれるかを考えて、手っ取り早く紋章術を選択した。

 賢者の石を創る方法が紋章術だということを知って、それが強くなる近道だということを合理的に判断したからだ。


 追手が自分たちを常に狙っている状況で、時間をかけて強くなるのはあまりにもナンセンスだった。

 だから、禁術だと聞いても躊躇する気持ちは欠片も生まれなかった。

 それが間違っているとは今も思わない。


 だが・・・


「わかった。それならドライが僕が強くなるための手伝いをしてくれないかな?」


 彼女がそれほどまでに嫌がるのであれば、他の方法を考えるのはやぶさかではない。


「ふうん、どうしてツヴァイじゃなくて私なわけ?

 賢者の石なんだからあいつの方が分かっているでしょう。」


「確かに、賢者の石を使うっていう点ではツヴァイが最も効率的な方法を知っているのかもしれない。

 でも、どうも僕とツヴァイでは賢者の石の使い方が異なっているみたいなんだ。

 なんていうか、ツヴァイは無意識にいろいろな計算をして効率的な使い方を選択しているように見えるんだよね。」


 それは頭脳強化をメインとした実験をされたツヴァイならではの方法なのだろう。

 そうなればツヴァイはそれを説明しにくいだろうし、仮に説明してもらったとしても自分が理解できるとは思えない。


「僕はもっとこう感覚的っていうか、ピンチにならないと力を発揮しづらいと言うか。

 そう・・・講義よりも実践じゃないとダメな気がするんだ。」


 ツヴァイの講義よりも、ドライとの実践の方がその方法を掴めそうな気がする。

 他の3人ならどうなのかという意見もあるだろうが、まずソフィは戦闘には向いていない。

 心優しいフィーアは身内に対して本気で戦うことなどできないだろうし、アハトは頼めば本気で戦ってくれるだろうが、アインは彼の戦い方をある程度知っているせいでやはり緊張感が足りないのだ。


 それと比べてドライなら、一度も戦ったことは無いし『悪意』という未知の能力を持っている。


「・・・自分で言うのもあれだけど私の能力は結構やばいわよ?

 フィーアくらい精神干渉に慣れていればちょっと怖いくらいで済むけど、普通の人間だったら精神崩壊するんだからね。」


「望むところだ。それくらいじゃなきゃ賢者の石はきっと応えてくれない。」


 紋章術という奇跡に頼ろうとしたのだから、それに対抗できるくらいの方法でなければ賢者の石をうまく使うことなど出来るはずもない。


「ちびっても知らないわよ。」


「そ、それは望まないけど・・・そうならないように気を付けるよ。」


 ごくり、とアインが息を呑むと根負けしたのかドライがはあっとため息をついた。


「わかったわ・・・でも、私の戦い方はあんたの好きなどんぱちとは違うわよ?」


「フェンリルを使ったり悪意の付与を使ったりするんじゃないのかい?」


「馬鹿ね、フェンリルは私の実験体としての能力とは関係ないし、悪意の付与なんてその一部でしかない。

 こんな広い場所でやる必要もないしね。場所を変えるわよ、犬。

 追われている私たちにはここは少し目立ちすぎるから。」


 丘を吹き抜ける風が彼女のツインテールをふわふわと揺らした。

 先に歩き出した彼女はなびいた髪を軽く押さえて振りむく。


「初めてのお誘いが戦闘だなんて、犬、あんたは本当に女の子の扱い方が分かってないわね。」


「おうふ・・・」


 そうだった、自分は最初そこで悩んでいたのではなかったのか。

 女性扱いしなければならない相手に対していきなり戦闘を申し込んだのは、大きな失敗だったかもしれない。


 けれど・・・


「でも、私の言ったことをちゃんと受け止めて別の方法を考えてくれたことは男らしいんじゃない?それと女性の扱いがうまいかどうかは別だけどね。」


 彼女は丘に来た時とは違う明るい表情で、そして今までで一番かわいらしい笑顔ではにかんだ。


「おうふ!」


「何悲鳴上げてるのよ?」


「い、いや・・・なんでも。」


 誤魔化すように言ってアインも隣に並んで歩きだす。


 ドライの笑顔を見た時になぜかドキドキしてしまって思わず声が出てしまったことは、アインだけの秘密なのだった。


次回はアインVSドライの予定です。

といっても、直で殴り合いとかではないのでそこはご了承ください(; ・`д・´)

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